ニッポン放送・冨山雄一と石井玄に聞く“音声業界のこれから” 「改編ありき」ではない新たな可能性への挑戦

ANNチームが考える“音声業界の今後”

 コロナ禍の影響もあり、Podcastやインターネットラジオ、音声SNSなど“音声”を軸としたサービスが増加し、ユーザー数を増やしている。そんな広がりを見せ始めた音声メディアや音声SNSについて、有識者に未来を予想し考察してもらう連載企画「声とテクノロジーで変革する“メディアの未来”」。

 俳優、アーティスト、お笑い芸人と様々なパーソナリティを迎え、数々の人気ラジオ番組を放送する『オールナイトニッポン』。来年4月から55周年YEARに入るという長寿番組だが、今年3月には新ブランド『オールナイトニッポンX(クロス)』をライブ配信サービス『smash.』とラジオの同時配信で、10月には『オールナイトニッポンPODCAST』をPodcast番組として配信するなど、テクノロジーを駆使した新しいことにも常に挑戦し続けている。

 また、コロナ禍で主流となった配信イベントも積極的に行い、11月に東京国際フォーラム・ホールAにて開催された番組イベント『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO) リスナー大感謝祭2021~freedom fanfare~』では配信含めたチケットの売り上げが1万7,000枚を超えるなど、その勢いは止まるところを知らない。ニッポン放送にとって大きな変化があった2021年を『オールナイトニッポン』番組プロデューサーの冨山雄一と、エンターテインメント開発部プロデューサーの石井玄に振り返ってもらい、ニッポン放送から見る音声業界は現在どういった状況なのか、今後どうなっていくのかなど話を聞いた。(編集部)

「配信は売れない」イメージが覆った『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』のイベント

ーーコロナ禍の影響で、ここ2年はラジオ、Podcastなどの音声コンテンツの需要が高まっていますがおふたりの肌感としてはいかがですか?

冨山雄一
冨山雄一

冨山雄一(以下、冨山):これまでラジオは放送してゴールだったのですが、いまは放送後にSNSやネットニュースなどで放送の内容が拡散されたりするので、ラジオの情報に触れる機会が増えたんです。radikoというインターネットラジオの存在もそうですがテクロノジーの存在が広がりを加速させた感覚はありますね。

石井玄(以下、石井):コロナ禍により在宅で仕事をする人が増えたことで、ラジオやPodcastを聞くようになったという話は周りの方からもよく聞きます。その需要に伴って好きなときに好きな番組が聞けるradikoのタイムフリーやPodcastなど、サービスやコンテンツも増えていきましたね。

 ユーザーとの相性の良さは、僕が携わっている配信イベントにも感じていて。これまではラジオは生放送、イベントは有観客という形式が弊社のモデルだったのですが、好きな時に好きなものを観たり聴いたりする需要が増えたことで、radikoやPodcastだけでなくアーカイブが残る配信イベントもユーザーとマッチして、オンラインで繋がっていった感覚はあります。

ーー配信イベントでいうと、今年1月の『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO) リスナー小感謝祭 2021~Believe~』は当初予定していた有観客のイベントが中止に追い込まれながらも、急遽オンライン・無観客の配信に切り替えて開催されました。反響も大きく、ここから『オールナイトニッポン』周辺の配信イベントが盛り上がってきた気がするのですが。

石井:元々有観客と配信のハイブリッドで準備はしていたのですが、緊急事態宣言を受けて配信のみということになって。ありがたいことに配信のみで17,000枚を超えるチケットが売れました。当初の東京国際フォーラム・ホールAで開催する予定だったチケットは完売していたものの、数としてはコロナ対策があったのでキャパシティの半分の2500枚くらいでした。それを遥かに上回る売り上げだったのでこれは社内的にも驚きでしたね。配信イベントでこんなにチケットが売れた前例がなかったので。

 イベントの後、中止になっていた他番組のイベントも配信で開催できたりと、今では配信は当たり前になりましたね。会場に実際に来れる人は生で楽しめて、地方などで足を運べない人は配信で楽しむという形が定着してきて、世界が広がった感じはします。

ーー11月の『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO) リスナー大感謝祭2021~freedom fanfare~』もかなり多くのチケットが売れていましたが、佐久間さんだからこそ成功できたこともあるのでしょうか?

石井玄
石井玄

石井:佐久間さんは作り手でもあるので、番組の仕組みをよく分かっていらっしゃる。だから1月のイベントのように中止が決定してもすぐに配信イベントに切り替えて実施できたり、11月のイベントでは、出演予定だったサンボマスターさんが直前で出られなくなってしまったのですが、急遽DJ 松永(Creepy Nuts)くんが出てくださって、その上で進行できたりだとか。現役のプロデューサーでもあるから、対応してくださる幅が広く、スピード感が違ってくるので、トラブルが発生しても乗り越えられているのは制作側としてはとても助かっています。佐久間さんが作り手としての裏側を知っているからこそできることも多々あり、それが配信イベントに影響して人気が出るひとつの要因になっているかもしれませんね。

ーーこの予想外の成功により社内での配信イベントに対するプライオリティは上がったのでしょうか?

石井:そうですね。そもそも『smash.』や『ミクチャ』などのライブ配信サービスですでに番組の配信を無料で行っているというところから「配信は売れない」みたいなイメージはあったのですが、こんなに反響があるのならもっと力を入れていこうという流れになりましたね。

 『オールナイトニッポン』は様々な個性を持つパーソナリティがいるおかげでこういったイベントだけでなく音楽ライブなど配信にもいろいろな可能性があると思っていて。ニッポン放送は企画書を出せば「まずは1回やってみよう」といろんなことにトライさせてくれる社風はありがたいですね。『三四郎のオールナイトニッポン0(ZERO)』ではラジオのファンクラブというこれまでにない新たな試みにも挑戦していますし。本人たちは「俺たちは実験体」と言ってますけど(笑)。

『オールナイトニッポンPODCAST』は“番組が続いていく”新たな道筋に

ーー『オールナイトニッポン』は配信イベント、『smash.』や『ミクチャ』などの同時ライブ配信、『オールナイトニッポンPODCAST』などテクノロジーを駆使して様々な新しいことを進められていますが、こちらの背景についていかがでしょうか。

冨山:『オールナイトニッポン』は芸人さん、俳優さん、アーティストさんなど様々な分野で活躍しているスペシャリストの方々をパーソナリティに立てて番組を放送しているというコンセプトがあり、そのラジオの広がりみたいなところを様々な形で表現していきたいという思いがあります。その一環で、音声だけでなく動画でも配信してみようということから、『smash.』や『ミクチャ』での配信や、『オールナイトニッポン』というブランドがPodcastとしてアウトプットしたらどうなるのかという挑戦で『オールナイトニッポンPODCAST』を立ち上げたりと、様々なテクノロジーとの掛け算をして最大化を図っているところです。

冨山雄一 石井玄

 あとは『smash.』に出向している『オールナイトニッポン』の元チーフディレクターである松岡敦司や、イベント事業を担当している石井との連携など、『オールナイトニッポン』を起点に各企業や各部署と横の繋がりで仕事ができているので、オールナイトニッポンのコンテンツが広がっていっているのだと思います。

ーーPodcastに関しては以前からコンテンツを配信していましたが、今年10月から月曜から土曜までの帯として展開されています。地上波のような帯で配信する理由はあったのですか?

冨山:これまで同じ社内でもデジタルの部署と地上波の『オールナイトニッポン』との関わりがありませんでした。Podcastを新たに進めていこうというところで、今まで絡みがなかった『オールナイトニッポン』と掛け合わせてみようとの試みから、地上波放送に則って月から土曜までの帯で配信しようということになったんです。

ーー新たにアンガールズさん、トム・ブラウンさんがパーソナリティとして加わっていますがどういった経緯で起用されたのでしょう。

冨山雄一

冨山:まず、アンガールズさんもトム・ブラウンさんも『オールナイトニッポン0(ZERO)』特番での反響が大きかったことはあります。あとはどちらのコンビも2人だけで膝を突き合わせてトークする番組がなかったので、それを聴きたかったという理由もありますね。

 これまでは『オールナイトニッポン0(ZERO)』の特番で反響があればそのまま地上波放送のレギュラーになるという流れがあったのですが、今回はまずPodcastでやってみようということになりました。今後はPodcast界隈から地上波番組のレギュラーになるという流れも出てきそうなので、その土台を作ることができればと思っています。

ーー『オールナイトニッポン』の1部2部の入れ替えだけじゃない楽しみ方が生まれた感じがします。ただ、既存の地上波放送の番組は人気番組が多く、入れ替わりも難しくなってきたと思うのですがこのあたりはいかがでしょうか。

冨山:改編ありきのものとして捉えられていますが、パーソナリティや番組を作っている人間は、まず大前提としてその番組がずっと続いて欲しいという気持ちがあります。するとなかなか新規の番組が入ってくることが、良い意味でも悪い意味でも憚れてしまう。だから『オールナイトニッポンPODCAST』はそういった新しい可能性を潰さない役割を担ってくれればと思いますね。

ーー石井さんはオールナイトニッポンのチーフディレクターの経験もありますが、Podcastについてはどう思われてますか?

石井:僕自身、『銀シャリのおトぎばなし』に関わっていて。というのも地上波で放送されていた『銀シャリのほくほくマネーラジオ』をディレクターとして担当していたんです。この番組は始まった時から自分が担当していたので、終わってしまった際はすごく残念で。でもPodcastという形で復活できるかもとなったとき、銀シャリのおふたりも「またラジオをやりたい」と喜んでくれたので、こういう形で続けられるんだという1つの道筋が見えましたね。

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