なぜSpotifyは「女性の音声コンテンツ制作」を支援するのか 格差を埋め、少数派の声を届けるためにプラットフォームができること

Spotifyが「女性の音声番組」を支援する理由

 世界中で3憶5600万人以上が利用しているオーディオストリーミングサービス「Spotify」。このサービスを日本国内で展開するスポティファイジャパンが6月29日、ポッドキャスト番組の企画・制作・配信に関するトレーニングやサポートを行うプログラム「Sound Up」を発表した。

 次世代のクリエイターを育成し、国内音声コンテンツの多様化と市場の活性化に取り組む狙いがあり、専用サイトで参加希望者の募集も始めた。Spotify Japanは2021年1月よりクリエイター・サポートプログラムを始動。その柱に「Discovery」「Community」「Incubation」を掲げており、今回はそのうちの「Incubation」にあたるもの。次世代クリエイターを育成するグローバルプログラムとして、様々な課題に直面するコミュニティや少数派の人々の声をポッドキャストによって世界へ届け、 多様性のある社会の実現を目指す。

 国によってアプローチするコミュニティは違うが、日本では女性を中心にアプローチ。スポティファイジャパン株式会社音声コンテンツ事業統括の西ちえこ氏は、その理由について「日本はスイスの非営利財団「世界経済フォーラム」が今年発表したジェンダーギャップ指数(男女不平等の度合いを指数化したもので、順位が低いほど男女格差が大きいと評価される)で120位となり、ジェンダー格差が社会的な課題として認識されている」ことが大きいと話す。応募資格は日本を居住地としており、かつ性自認を女性とする方となっている。

 「Sound Up」の大半はバーチャルトレーニングのため、居住地にかかわらず受講可能。前期は2021年の9月より、4週間をかけて番組の企画書とトレーラーを制作し、構成や魅力的なアイデアを伝えるためのトレーニングをサポートする。前期に参加して全ての課程を受講した全員が対象となる後期は、2022年上半期に実施を予定。4週間のバーチャルトレーニングに加えて、Spotify Studios Tokyoで1週間のブートキャンプを行う。なお、受講に必要なレコーダーやPCなどの機材はすべて提供される。ファシリテーターには『JAPAN PODCAST AWARDS 2020』で大賞を受賞した『味な副音声~Voice of food~』パーソナリティの平野紗季子と、同アワード2019年大賞受賞の『歴史を面白く学ぶCOTEN RADIO(コテンラジオ)』の樋口聖典が就任し、受講者の指導にあたるという。

平野紗季子
樋口聖典

 新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の影響もあってか、インディペンデントで音声コンテンツを配信するユーザーは急増している。西氏によると、2020年にSpotify傘下の音声配信用ツール『Anchor』で配信された番組数は、前年の2019年と比較し、大幅に増加したという。だが、西氏は「圧倒的に男性パーソナリティのものが多く、男女ペアのものでも女性はアシスタント的な役割にとどまることが少なくありません。女性が自分の場として気持ちよく自分の意見を話せる場所は、もっと多くてもいいはずです」と話す。筆者もAnchorを使ったPodcast番組の制作や配信を複数手がけており、研究として様々な番組を聴くことも多いが、たしかに女性をメインとしたものはまだまだ少なく、(それが悪いというわけではないが)男性同士のホモソーシャル的な使い方をしている番組が多数派であることは否めないだろう。

 そんな思いを含んで始動した「Sound Up」日本版。それと並行して、女性の活躍の場を広げるための施策として展開が始まったのが、音声配信アプリ「Radiotalk」との連携だ。西氏はこの提携について「Radiotalkさんには『ゆとりは笑ってバズりたい』、『発作的に情緒を捨てるので手拍子お願い出来ますか?』などの熱量の高い女性クリエイターさんの番組も多く、これをきっかけにSpotify上でさまざまなコンテンツが展開されることを楽しみにしています」と語った。

 最後に、応募者にとって何かの参考になるかもしれないと思い、西氏がいま注目している女性クリエイターの番組について聞いてみると、「Spotifyオリジナルコンテンツとして配信がスタートした小泉今日子さんの『ホントのコイズミさん』は、芯を持って自分の考えを話せる女性として聴きごたえのある番組です。インディペンデントなクリエイターだと、『ゆとりっ娘たちのたわごと』も独特の雰囲気を楽しく聴いています」と話してくれた。

 ClubhouseやSpacesの隆盛などを踏まえ、一層盛り上がりをみせるであろう「音声コンテンツ」市場。そこにおけるマジョリティ・マイノリティの格差を埋めようとするSpotifyの取り組みについては、引き続き取材していきたいと思う。

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