「違法音楽アプリ」根絶目指すプラットフォームとアーティストの挑戦 LINE MUSIC 岡 隆資×t-Ace対談
日本でも2015年以降普及し、今や音楽リスナーにとって身近な存在となった定額制音楽ストリーミングサービス。その一方で、サービス開始当初から、無許諾で違法な音源を聴くことができる無許諾音楽アプリの存在も、大きな問題として取り沙汰されてきた。
その結果、ここ数年音楽業界では、こうした無許諾アプリ規制の取り組みがはじまり、今年の10月16日、LINE MUSICが発表した「無許諾音楽アプリに関するアンケート調査」では、若年層を中心に意識の変化が見られ、初めて無許諾音楽アプリの利用率が減少した。
また、10月1日より施行された改正著作権法では、違法に音楽をアップロードすることや、その音源を違法と知りながらダウンロードすることだけでなく、違法アプリの運営者や、違法な音源のURLを共有する行為までもが違法行為として認められ、「無許諾音楽アプリ」は名実ともに違法な音楽アプリとして扱われることになるなど、違法な事業者への規制を強めている。
果たして、実際に音楽を生み出すアーティストと、ストリーミングサービス事業者は、それぞれどんなことを感じているのだろうか。この10月に“フェイク”作品の根絶を訴える楽曲「ホントの事」をリリースしたt-Aceと、LINE MUSICの岡 隆資氏に話を聞いた。(杉山 仁)
「違法アプリを運営するリスクがさらに増してきている」
――10月16日にLINE MUSICが発表した「無許諾音楽アプリに関するアンケート調査」によると、無許諾音楽アプリの利用は若年層を中心に減少傾向にあり、今年は昨年に比べて3ポイント減少しています。まずは岡さんから、これまでの取り組みについて聞かせてください。
岡 隆資(以下、岡):無許諾音楽アプリについては数年前から問題になっていたものの、その時点ではアプリを運営すること自体の違法性を問うことはできなかったので、基本的にはアプリがストアにてリリースされた場合、日本レコード協会がアプリストアに対し削除要請する対応をしていました。いたちごっこのような形で、年間50ほどのアプリがストアに現れては消えていく、という状況がずっと続いていたんです。
――違法性があいまいにされていたため、リリースされてから、それを見つけて報告し、削除してもらう、という手順を踏まなければいけなかったんですね。
岡:そこで2年ほど前から、LINE MUSICでも日本レコード協会と一緒に何かできないかと提案をはじめて、他のストリーミングサービスのみなさんや日本レコード協会、音楽団体とともに声明を発表し、Appleに対策の強化を要請する文書を送って働きかけを強めました。それが2019年のことです(参考:音楽関係4団体&音楽配信サービス事業者4社、アップル社へ無許諾音楽アプリ対策強化要望書を提出)。
それ以降、違法音楽アプリは減少傾向にあり、アプリがリリースされる数は減り、ストアに上がってから削除されるまでの日数もどんどん短くなっています。
――つまり、取り組みの成果が出はじめている、と。
岡:ただ、こうした対策は新規に違法アプリを使いはじめる人を減らせるものの、既にアプリを落として使っている人にはもう効果がないんです。たとえば、スマホを変えた際には新しく無許諾アプリを落とすことはできなくなりますが、既に落としたアプリは削除できないので。そもそも、ストアに出ていると、違法かどうかはユーザーには分かりません。そのため、40~50代の方が、違法アプリとは知らずに使っているという状況も長く続いていました。
t-Ace:そういえば、(10代~30代への調査で7割以上が「使ったことがある」と回答した違法音楽アプリ)Music FMってなくなったんですか?
岡:はい。なくなりました。
t-Ace:一時期、毎日のようにそこのランキングに俺がいる状況になっていたときがあって、「何これ?!」と思っていたんですよ。
――t-Aceさんの場合、その後もSNSなどで「何でMusic FMに曲を入れてくれないんですか?」とリプライを受けたりしていましたよね。
t-Ace:それも、違法だと分かっていないから、俺に直接言ってくるんですよね。
岡: Music FMのような無許諾アプリは広告収入で儲けていて、かなりの金額を稼いでいると思われます。そういった意味では、広告を出稿しないという対策も有効かもしれません。ただ、これに関しては、広告の仕組み自体の複雑な問題も絡んできて、なかなかスムーズに対応することは難しいんですよ。そこで、今年の10月1日に「リーチサイト・リーチアプリ規制」に関する改正著作権法が施行され、法的にも無許諾アプリの違法性を問えるようになりました。
――改正著作権法では、それまで違法に音源をアップロードした人と違法と知りながらダウンロードした人は罪に問える仕組みでしたが、アプリ運営者やURLを共有した人も罪に問える法改正がなされ、その結果、「無許諾音楽アプリ」を「違法アプリ」と呼べるような状況になりました。
岡:そうですね。違法アプリを運営するリスクがさらに増してきている、というのが現状です。
――t-Aceさんは、アーティストとして音楽ストリーミングサービスにどんな魅力を感じていますか?
t-Ace:やっぱり、何でも聴ける、どこでも聴いてもらえるというのは大きいですよね。(スマートフォンの)容量を増やさなくても何曲でも聴けて、自分でプレイリストもつくれるようになって。アーティストとしては、「アルバムって出す意味あんの?」と思ったりもします。ほとんどの人は、リード曲しか聴いたりしてなかったりもするので。ただ、俺は聴く人が便利になるんだったら、そういう変化があってもいいなと思っているんですよ。実際、ストリーミングサービスによって曲を聴いてくれる可能性は確実に上がっていて、たとえば、去年友達が湘南を歩いていたら自分の曲がめちゃくちゃかかってたらしくて、その様子をムービーで送ってくれたことがありました。見てみたら、俺の「ワンチャン feat.DJ TY-KOH」がすげーかかってて(笑)。「翼(t-Aceの本名)は絶対来れないね」って言われて、「行かねえよ!」と返したことがありましたね。色んな人たちがめちゃくちゃ聴いてくれてるんですよ。
――旧譜からも継続して収益を得られるようになったことも大きな変化かもしれません。
岡:そうですね。CDだと、一度買ったものは何回聴いても買ったときの1回だけに収益が生まれていましたが、ストリーミングサービスをつかえば、聴いてくれるごとにアーティストに利益が還元されます。また、今って誰もがスマホを持ち歩いているので、そのスマホで音楽を聴けるということは、人が音楽に触れる接点が増えたと思うんです。昔だと、CDを買って家に帰って聴いたり、レコードを買ったりすることが主流でしたが、今はどこでも音楽が聴ける状態にあるので、これまでだと積極的に触れるまではいかなった音楽でも、「ちょっと聴いてみようかな」と思ってもらえるようになってきているはずで。その結果、過去の曲がふたたび話題になったり、意外な曲がヒットしたりする可能性も出てきました。
――t-Aceさんは自社でグッズやライブの制作をしていますが、そうした方法で大きな収益を上げられるのも、ストリーミングサービスが普及したからこそだと思いますか?
t-Ace:それは完全にそうです。今って、ストリーミングサービスをつかえば、リスナーと俺との間には、たとえばLINE MUSICさんだったらLINE MUSICさんがいるだけなので。そういう「リスナーとの距離の近さ」はストリーミングサービスならではで、ヒットする音楽をつくることができれば、誰にでもチャンスがあると思います。昔はレコード会社にいて、たくさんお金をかけてタイアップを取らないとヒットは難しいという状況がありましたけど、今はそんなことほとんど関係ない。いいものをつくれば届けられるので。
岡:今は、リスナーが広げてくれるという側面もありますよね。ユーザーとアーティストの関係だけでヒットがつくれるような状況になってきているように思います。
t-Ace:ストリーミングサービス普及以前と以降では、アーティストとして活動していても全然違うと思いますね。海外は今のような仕組みになるのはもっと早くて、その変化を見ながら、俺も「日本でも絶対ストリーミングの時代になるな」と思っていました。それに、これが正解かどうかは分からないですけど、「イントロを長くしてもしょうがない。もっと短くしよう」というような、ストリーミングサービスに適応した音楽自体の変化も起きていますよね。そんなふうに、色々な変化は感じます。