瑛人・YOASOBIら“スマホ発のヒット”続出の理由は? LINE MUSIC×TikTokのキーパーソンに聞く
瑛人「香水」やYOASOBIの「夜に駆ける」を筆頭に、サブスク型のストリーミングサービス発のヒット曲が次々と生まれた2020年上半期。りりあ。やTani YuukiなどCD未発売ながらサブスクのランキング上位に楽曲を送り込むニューカマーも続々と登場してきている。注目すべきポイントは、それらのアーティストの楽曲が知られるようになったきっかけが、ドラマやCMのタイアップ、ラジオのヘビーローテーションといったマスメディアのプロモーションではないということ。TikTokでの自然発生的なブームが躍進のきっかけになる「スマホ発のヒット」が続出している。そして、若年層がユーザーに多いLINE MUSICのランキングには、そういったタイプのヒット曲がいち早く登場してきている。
こういった現象はなぜ、どのようにして起こっているのか? どういったタイプの楽曲がTikTokで「バズる」傾向にあるのか?
TikTokのゼネラルマネージャー・佐藤陽一さん、LINE MUSICの取締役COO高橋明彦さんとコンテンツマネージャーの出羽香織さんへの前後編インタビュー。前編では、コロナ禍の中での若者たちのマインドの変化、音楽シーンの最前線に生じている新たな状況について語ってもらった。
「常にトップ10にTikTokでバズっている曲が入ってくるような状況」(出羽)
――今年になって、瑛人「香水」のようなTikTok発のヒット曲がチャートを賑わすようになってきています。海外ではリル・ナズ・Xの「オールド・タウン・ロード」など以前から顕著になっていたと思うんですが、日本での状況はどのように変わってきていますか?
佐藤:日本においては、ここ1年ほどで大きく変わってきたようになってきたと思います。特にここ半年ほどは、TikTokで注目を浴びた動画がサブスクのランキングで上位になる動きが目立つようになってきました。少し前までTikTokのユーザーは若年層に集中していたんですが、おかげさまでいろんな世代の人に使われるようになってきた。ユーザーがより広い層になったことで、さらに動きが加速する流れが強くなってきた感じがします。
――特にLINE MUSICのランキングでは、こうしたTikTok発のヒット曲が目立つ傾向があるように思うんですが、どうでしょうか。
出羽:LINE MUSICはユーザーに若年層が多いということもあって、チャートの動きが早いですね。私は編成チームでプレイリストやアーティストとのプロモーション企画を担当しているんですが、チームでも上の世代の人間が知らない曲がランキングに入ってきます。特に昨年くらいからはTikTok起因のヒットが多くなってきました。コロナ禍の影響もあったと思うんですが、特に3月から4月のチャートに関しては、常にトップ10にTikTokでバズっている曲が入ってくるような状況でした。
高橋:LINE MUSICではリアルタイムランキングという形で、今のヒットの動きが1時間ごとに反映されているので、状況の変化が目に見えて面白いです。LINE MUSICの編成チームではランキングを日々チェックしているのですが、とても早いスピードで移り変わっている。その中で昨年くらいから「このアーティストのこの曲って、なんでランキングが急に上がってるんだろう?」みたいなことが増えていて、調べてみるとTikTokで流行っているようだということがわかる。そういう話を現場でよく聞くようになったのが、まさにこの1年くらいですね。ユーザーの中でTikTokの存在感が大きくなり、そこで流行っていることを背景にLINE MUSICで再生も増え、ランキングが上がり、またTikTokで使われる……というサイクルが、ここ1年ぐらいで顕著に現れてきているかなと思います。
出羽:LINE MUSICでは、定期的に女子高生を集めてトレンドやシーズンに合ったテーマについて意見交換をする「LINE MUSIC部」というミーティングをやっているんです。そこで「この曲がいい」と挙げてもらった曲について聞くと、みんなTikTokで知ったと言っている。TikTokで音楽を探して、その後にLINE MUSICで聴くという流れが当たり前になっている印象です。しかもそこで女子高生が話していた曲は、その時点ではチャート上位に入っていなくても1ヶ月後くらいにチャートに入ってくる。そこから実際にヒットが生まれている実感があります。
――TikTokとLINE MUSICの連携に関してもお伺いさせてください。まず前提として、「TikTokはどうして音楽を使って平気なの?」というような基本的な疑問を持つ方もまだいらっしゃると思うんです。権利や収益についての理解は広まっていないと思いますので、TikTokで音楽が使われること、それがストリーミングサービスにどう繋がっているのかの仕組みをお伺いできればと思うんですが。
佐藤:実際、今おっしゃった「TikTokの中で音楽はどうなってるのか?」というポイントは、いろんな人に訊かれるところなんですね。そこに関しては、まずTikTokではJASRAC様などの著作権管理事業者様、レコードレーベル様、音楽出版社様などとライセンス契約をしっかりと結んでいます。TikTokのライブラリから使っていただいている音楽は全て権利処理がなされたもので、TikTokの中で使われた音楽に関しては、契約に応じて定められた金額を権利者様にお支払いしています。さらに、TikTokで動画を見た人が、その曲を30秒ではなくフルで聴きたいとなったときには各ストリーミングサービスへのリンクが置かれています。その一つがLINE MUSICになっている。その先で音楽が聴かれた場合は、サブスクのストリーミングサービスさんから各権利者様やアーティスト様にお金をお支払いするという仕組みです。
高橋:LINE MUSICでは昨年の6月にTikTokさんと連携させていただいていて、TikTok内で使われてる楽曲に興味を持ったら、そこからLINE MUSICでその曲をフルで聴けるリンクを貼って貰うなど連携をふかめています。
――TikTokのアプリからLINE MUSICで聴かれているというデータもありますか。
高橋:もちろんTikTok内のリンクからのクリック数や再生数はヒットに繋がる貴重なデータとして認識しています。ただ、全体のボリュームとしては直接リンクからも勿論ありますけれども、それ以外の複合的な流入からの再生数が結果的に多くなっている印象ですね。LINE MUSICの中で直接曲名を検索したり、プロフィールBGMから知ったり、Twitterや友達から教えてもらったり、いろいろなきっかけがフックとなって聴かれているように思います。
出羽:LINE MUSICでは一昨年から、TikTokさんのスタッフに人気の楽曲をまとめていただいた公式プレイリストを毎週10曲ずつ更新しています。「TikTok公式」(https://lin.ee/7SQMXfY/lnms)という見え方も含めて、そのプレイリストはとても人気ですね。サービス内の連携以上に、ユーザーが自主的にTikTokでのヒット曲を探しにきているという状況です。
――TikTok公式のランキングはどう作っているんでしょうか。
佐藤:これは比較的単純なデータですね。毎週TikTokの中で多く再生されたり、その曲を使って動画が投稿されたりしている、その2つの数字をベースにランキングを作っています。
――TikTokの人気曲ランキングを見ると、いわゆるJ-POPのヒットチャートとは違うかなりユニークなものになっていると思うんですが、そのあたりはどう捉えてらっしゃいますか?
佐藤:TikTokには15秒から30秒という短尺の動画が多く、最初に動画のBGMとして楽曲が耳に入ってくるんですね。そこがまず大きな特徴です。TikTokで盛り上がる曲の持つ要素にはいくつかのパターンがあるんですけれど、最近の傾向としては主に2つのパターンがあると思っています。まずひとつは、中毒性のあるサビのメロディ、頭の中で繰り返し鳴ってしまうようなフレーズが、ダンスやハッシュタグと結びついて繰り返し聴かれるようになる。Shuta Sueyoshiさんの「HACK」が典型例だと思います。もうひとつは、歌詞にパンチラインがある曲ですね。言葉のユニークさ、伝わりやすさや面白さがあって、それを伝えるボーカル力、歌の力が組み合わさった曲が伸びる傾向があります。典型的な例では瑛人さんの「香水」や、YOASOBIさんの「夜に駆ける」ですね。その2つのパターンが顕著です。
出羽:LINE MUSICでもどういう曲がTikTokで人気なのか研究しているんですが、特に今年に入ってからは歌詞のパワーに共感している動画が多いですね。自分の思い出の写真にリリックのテキストを重ねて動画をあげているユーザーも多く、歌詞を噛み締めて聴くことでその曲に思い入れが生まれて、そこからサブスクで聴くというサイクルが生まれています。