「違法音楽アプリ」根絶目指すプラットフォームとアーティストの挑戦 LINE MUSIC 岡 隆資×t-Ace対談
世の中の“フェイク”に「イケてない」と言える風潮を
――違法アプリへの規制が厳しくなり、正規のストリーミングサービスの利用者も増加傾向にありますが、一方で、現状の課題のようなものもあれば教えてください。
岡:やはり、違法アプリが減ってきているとは言っても、もともとは存在してはいけないものですから、それをしっかりとなくす、というのは今後も取り組むべき課題です。そのためにも、「正規のストリーミングサービスだからこその価値」を、僕らもつくっていかなければいけないな、と思っています。法的に取り締まっていただくことも重要ですが、それだけではなく、違法アプリよりもサービスとしていいものを提供して、その結果正規のサービスを使ってもらえるようにしなければいけないな、とも思うので。
t-Ace:違法アプリって、違法なくせにトップ10をつけたりしていて……「うそーん!」って思いますよ。「何でお前ランキングをつけてんだよ」って(笑)。
――t-Aceさんは違法アプリに関するリプライを受けた際に、それを正す場面もありますね。
t-Ace:「おい、ちゃんと金出せ!!」って(笑)。さっきも言ったように、知らないで使っているから直接言ってくるわけなので、「それはダメなことだよ」と言ってあげることは大事だと思うし、その後、実際に「高校で使う人がいなくなりました」という話をもらったこともあります。「何で俺がそんなことをしなきゃいけないんだ」って感じですけど。
岡:アーティストの方に発信していただけると、効果は絶大だと思います。
t-Ace:みんなもっと言えばいいと思うんですよ。
――LINE MUSICで独占配信されている「ホントの事」も、そうした違法ダウンロードサービスのことなどをテーマにした楽曲ですね。
t-Ace:普段はああいうまともな曲は書かないんですけど、「いつもクズいやつが、たまにゴミを拾ったらいい奴になる」という感じで、聴く人に伝わったらいいな、と。モノとか、スニーカーとか、何でもそうですけど、フェイクって世の中にたくさんあるじゃないですか。そういうもの全般に、「イケてない」というか、「それって先がなくね?」と思うんですよ。
――実際、ゼロから何かをつくるのは大変ですよね。
t-Ace:ほんと、一回来てほしいですよね。音楽をつくってるところに。
――こんなに苦労しているんだぞ、と。
岡:チケットの転売の話もそうですけど、レコード会社や日本レコード協会だけでなく、アーティストのみなさんが声を上げてくれるとより多くのリスナーに届くと思いますし、とても心強いです。また、ストリーミングサービスは今が完成形なのではなく、まだまだこれから変化していくものです。そのときに、違法アプリとの差異をもっと出していくことも大切だと思うので、こちらでも色々な機能を実装して、満足度を上げていかなければいけないと考えています。何かテキストを読めるとか、ユーザーがコメントできるとか、色々な可能性があると思いますが、それを探ることで、既に違法アプリをダウンロードしている人たちも正規のサービスにシフトしてもらえる可能性が高まります。ただ「ダメ」とだけ言っていても、すぐに解決はできないとは思っていますね。
t-Ace:確かに、圧倒的な利点があればみんな正規版を使いますよね。
岡: LINE MUSICで実装しているカラオケ機能も、そういった試みのひとつなんですよ。もちろん、これは一例で、まだまだ色々なことが考えられますが。
――t-Aceさんが音楽ストリーミングサービスにほしいものはありますか?
t-Ace:昔は「歌詞が出てきてほしい」と思っていたんですけど、今は実際にかなりの楽曲で出てくるようになってきていますよね。あとは、ストリーミングの画面でコメントが見られたりすると面白いと思います。スクロールしていくと、その曲の感想が見られるような。
岡:食べログのようなものじゃないですが、リスナーの評価が可視化される仕組みがあると便利ですよね。
t-Ace:たとえば、そのコメントにリンクを貼ることができたりすると、さらにいいかもしれないですよね。俺で言うと安室奈美恵さんの「Sweet 19 Blues」をアレンジした「Sweet 19 Blues ~オレには遠い~」という曲がありますけど、「オリジナルはこれだよ」と誰かが原曲のリンクを貼ってくれたりとか。そうやって色んな曲にいったりきたりできるような、音楽的にそういう奥の楽しみ方もできるものがあればいいな、と。
岡:TikTokもそうですが、ただ曲を聴けるというだけではなくて、それを使って遊んでもらうようなこともできてもいいのかな、とは思っています。
――「ホントの事」をリリースして以降、反響はどうですか?
t-Ace:一番多かったのは、「意外」「何かあったん?」という感じでした。それで、「お前ら、俺をどう見てるんだ!」と(笑)。自分の場合、もちろん本当は色んなことを考えているわけですけど、もともと真面目な部分を出すのは苦手だし、むしろ出さなくていいかな、と思っていて。その結果、急に心配がられたという(笑)。
岡:(笑)。