コナミによる「音楽ゲームのeスポーツ化」は20年前から準備されていた 『BEMANI PRO LEAGUE ZERO』に連なる系譜を読む

コナミによる「音楽ゲームのeスポーツ化」は20年前から準備されていた 『BEMANI PRO LEAGUE ZERO』に連なる系譜を読む

 コナミが手掛ける音楽ゲーム(音ゲー)のeスポーツ企画『BEMANI PRO LEAGUE ZERO(以下、BPL ZERO)』が10月27日に閉幕した。

 『BPL ZERO』はコナミのアーケード(AC)音ゲー『beatmania IIDX』を題材としたeスポーツリーグ大会、『BEMANI PRO LEAGUE(BPL)』の前哨戦企画だ。「レギュラーシーズン」と称したリーグ戦を6試合(リーグ1巡目3試合を9月29日~10月6日、2巡目を10月13日~23日に配信)にわたり実施。チーム戦で争われ、音ゲーフリークとして知られるでんぱ組.incの古川未鈴、そしてシリーズに多数の楽曲を提供してきたコンポーザー・Ryu☆のチームが決勝戦に進出し、10月27日に放映された「ファイナル」で決着という流れであった。大会ルールや試合結果は公式ウェブサイト(https://p.eagate.573.jp/game/bpl/bplzero/)に掲示されている他、全ての配信はYouTubeのコナミ公式チャンネルにアーカイブされており、本稿執筆時点では無料で視聴可能である。

 今回の『BPL ZERO』の発端となったBPLは、2019年12月に最初の告知がなされた、音ゲーを題材とした世界初のプロリーグだ。本来は2020年5月からの開催が予定されていたが、この度のコロナ禍で延期、現時点では2021年5月の興行開始が予告されている。

 近年のeスポーツの隆盛は著しく、例えばバトルロイヤルゲーム『フォートナイト』の推定プレイヤー数はおよそ2億人以上。テニスやゴルフの競技人口を越え、フットボールにすら迫る勢いだ。2019年の公式世界大会『Fortnite World Cup』の賞金総額は日本円にして30億円超に上る。『BPL』もまた、コナミがこのブームに乗っかったものだと考える向きもあるかもしれない。

 しかしコナミは「eスポーツ」という言葉すらなかった90年代から、競技としての音ゲーとその展開に目を向け、独自の取り組みを行ってきた。本稿では音ゲーのプレイヤーがACゲーム筐体と向き合う狭義の「ゲーム」から踏み出し、競技や興行としての音ゲーの可能性をコナミが模索してきた歴史を整理してみたい。

音ゲーの競技化とリアルイベントへの取り組み

 もともと『BEMANI』ブランドで展開されているコナミのAC音ゲーは、その第1作『beatmania』(1997年)をはじめとして、ほぼ全てが1人プレイ用だ。うまくプレイすればゲージ(あるいは点数)が上がり、1曲の終了時点でゲージ(点数)を一定以上に保っていればクリア。それが狭義のゲームプレイであり、クリア基準を満たす最低限よりも高度なプレイ、例えば「より高い点数やミスの少なさ_を目指すのは、プレイヤー側が自ら課した目標、言ってしまえば一種の縛りでしかなかった。

 にもかかわらず、プレイヤーたちはその「縛り」を最初期から好んだ。初代『beatmania』に収録された楽曲を全てクリアした当時の凄腕プレーヤーは、満点を目指すのはもちろんのこと、画面の一部または全部を隠す、2人プレイ用の演奏を1人で弾きこなす(これらは後に正式にゲーム要素として導入される)、身振りなど何らかのパフォーマンスを伴ってプレイする……といった「縛り」を次々と見出していった。

 そして表向きのクリア基準以外にも点数という定量的指標が存在する以上、やはり本来的には1人用のゲームであるシューティングゲームのスコアアタックやアーチェリー競技などと同様、そこには何らかの人対人の試合形態を見出すことができる。コナミは『beatmania』ローンチ翌年の1998年、ACゲーム展示会「アミューズメントマシンショー」(於東京ビッグサイト)の会場で、初の公式競技大会『beatmania BATTLE OF THE CLIMAX 1998』を開催している。

 そして翌1999年には『beatmania』から派生したダンス音ゲー『Dance Dance Revolution』(DDR)をテーマとした全国大会『DDR Best Of Cool Dancers』が行われている。六本木ヴェルファーレで行われた決勝大会が、(1)旅行会社や音楽機器メーカなどスポンサー企業の招致、(2)数十万円相当に及ぶ高額賞品、(3)アーティストライブを組み合わせた複合音楽エンターテインメント、といったBPLにも通じる特徴をすでに有していたことは特筆に値する。

 2000年代に入り競技シーンはインターネット上の登録制ランキングや有志による非公式大会が中心となるが、2006~2008年にはリアルイベントを伴う『BEMANIトップランカー決定戦』が開催、これが複数機種を対象としたコナミ公式の競技大会の端緒を開いた。2011年には現在も続く年次大会『KONAMI Arcade Championship』(KAC)がキックオフされている。2014年度からは全日本アミューズメント施設営業者協会連合会(現・日本アミューズメント産業協会)が主導し、コナミ・セガ・バンダイナムコ・カプコンのAC音ゲー各社が連携した音ゲー競技大会『天下一音ゲ祭』も開催された(2018年度大会をもって終了)。

 またコナミは、競技大会以外にも音ゲーの派生イベントの模索を続けてきた。特に活発であったのは音楽ライブ方面で、例えば2002~2004年には『pop’n music』シリーズのライブイベント『ポップンミュージック アーティスト大集合!』を計4回にわたり開催。2007年には『GUITARFREAKS』『drummania』(2020年現在『GITADORA』ブランドに統合)をフィーチャーした『THE GITADO LIVE』を催している。この潮流はEXIT TUNES(ポニーキャニオン)と連携し、2015年に立ち上げられた『EXIT TUNES DANCE PARTY』(EDP)に繋がるものと捉えられる。

 翻って、eスポーツという表現で一般化された文脈で音ゲー競技が語られるようになったのは2017~2018年頃のことだ。折しも2018年2月には日本のeスポーツ関連各団体が一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)へ統合され、同年末には「eスポーツ」が新語・流行語大賞のトップ10に入賞するなど、国内でもeスポーツの機運は高まっていた。

 2018年2月のKAC大会では要所に「KONAMI e-Sports」のロゴが用いられ、eスポーツというキーワードを音ゲーと結びつける認識を促していた。さらに同大会の『beatmania IIDX』部門では「ARENAモード」と呼ばれる新しい対戦用ゲームモードが実装され、同年3月には一般プレイヤーにも限定的に開放された。本モードではそれまでの競技シーンに見られた「各選手が個別にプレイし、その成績を後で比較する」という演出とは明確に異なる、プレイヤー同士のリアルタイム対戦を意図した仕様が実装されている。

 ここでリアルタイム性と共に重視されたのは、プレイヤー間の公平性の担保だ。例えばランダムオプション(オブジェクトが移動するレーン同士を乱数で入れ替えるオプション。同じ曲であっても乱数により難易度が高低する)において競技プレーヤー間で同じ乱数列を用いる、ランダムオプション使用時は2種類のプレイサイドに応じて譜面パターンを左右反転させる、といった調整がなされている。前者は新規技術として特許出願され、2020年7月に特許査定を受けている(日本国特許第6758576号)。後者の仕様には、前年2017年にコナミと契約を結び世界初のプロ音ゲーマーとなったDOLCE.による、高度プレーヤー目線での意見が反映されている。

 また2018年の年頭頃には、かつての『DDR』立ち上げ人の一人でもあるコナミアミューズメント社長の沖田勝典、BEMANIの総責任者を務めるDJ YOSHITAKAこと西村宜隆(現・同社執行役員)、そして『beatmania IIDX』のサウンドディレクターを務めていた猫叉Masterこと佐藤直之を交えたインタビューが行われた。同インタビュー中では、音ゲーとeスポーツの関係についての当時の認識が彼ら自身の言葉で語られている(ムック誌『BEMANIぴあ』収録)。

 要約として、彼らはeスポーツ化を大いに視野に入れつつ、しかし直近での参入には慎重な姿勢を見せていた。当該インタビューからは、興行としての形態が未知数であることもさることながら、とりわけマネタイズ面、すなわち選手に十分な報酬を払うことのできるスキームの確立を彼らが課題と捉えていたことが読み取れる。

 これらの伏線を経ていよいよ『BPL』の概要が発表されたのは、既述の通り2019年12月のことだ。ここではeスポーツ向け統一モデルを標榜する新型筐体『beatmania IIDX LIGHTNING MODEL』が公開されるとともに、eスポーツ推進室室長として佐藤直之が就任することが発表された。

 佐藤は1999年にコンポーザーとしてコナミに入社、BEMANIには2004年の『pop’n music 10 CS』が初参加となる。以降は長きにわたりBEMANI各機種へ音楽面の寄与を続ける他、2012年以降の『beatmania IIDX』や2017年ローンチの音ゲー『ノスタルジア』等では作品の総合的なサウンドディレクションにも貢献してきた、今日のBEMANI隆盛の立役者の一人だ。

 加えて言えば佐藤は、BEMANI参画以前から『実況パワフルプロ野球』(パワプロ)の音楽制作に関与していた。『パワプロ』は日本プロ野球連盟と連携したeスポーツイベント「eBASEBALL」を2018年から推進し、『ウイニングイレブン』(ウイイレ)シリーズと並んでコナミ内のeスポーツ施策の先行事例となっている。しかし『パワプロ』『ウイイレ』は共にコンシューマーゲームを担うコナミデジタルエンタテインメント社の管轄であり、音ゲーはじめACゲームを管轄するコナミアミューズメント社とはコンテンツの所属が異なる。あくまで推測だが、かつて『パワプロ』に関わった経験と人脈を活用し、eBASEBALLのノウハウを事業部間の枠を越えて音ゲー方面へと展開する役割への期待も、佐藤のeスポーツ推進室室長就任という人事の背景にあったのかもしれない。

 整理しよう。コナミはAC音ゲー黎明期の90年代から、ゲームとしての魅力を研鑽すると同時に、そのゲーム面・音楽面双方の魅力をゲーム筐体の外へも広げてゆく取り組みを続けてきた。とりわけスタープレーヤーDOLCE.との契約によるプレーヤー目線でのプレー価値向上と競技公平性の維持、KACをはじめとする競技シーンの構築と大会運営経験、多数のライブイベント開催に見られるいわゆるライブ感(すなわちリアルタイム性)の重視といった蓄積は、BPLを端緒とするコナミ音ゲー×eスポーツ時代への伏線として語ることができるだろう。一方で課題として挙げられていたのは主に、(1)そもそもの興行自体のありかたと、(2)具体的なマネタイズのスキームだ。

 2021年から始動する『BPL』では、これら課題にどのような回答を与えることになるのだろう? それを推し量ることができたのが、この度の先行イベント『BPL ZERO』だ。

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