コナミ音ゲーが家庭に“戻ってきた”意義 『pop'n music Lively』リリースの背景とポスト・コロナの音ゲーを考える

コナミ音ゲーが家庭に“戻ってきた”意義

 コナミアミューズメント株式会社が9月7日、PC(Windows)向け新作音楽ゲーム『pop'n music Lively』(ポップンミュージック ライブリィ)のベータ版を公開した。

 本作はコナミアミューズメントのアーケード(AC)向け音ゲー作品「pop'n music」シリーズの最新作『pop'n music peace』をベースとしたPC移植版である。AC作の現行収録曲は1500曲超に及ぶが、本作ではテストリリースゆえ5曲のみを収録。ゲーム成績や設定もアプリ終了でオールリセットという限定的な仕様だが、ゲームUIおよびそのプレイ感覚は、まさにAC版「pop'n music」そのものである。公式アカウントによる『pop'n music Lively』の告知ツイートのリツイート数は本稿執筆時点で1万4千超。Twitterトレンドにも「ポップン」が長時間居座り、国内ゲーム系メディアのほか、海外でもOtaquest、Gematsu、Siliconera、Rice、巴哈姆特といったゲーム~サブカルチャー媒体が記事として取り上げるなど大きな反響を呼んだ。

 現時点ではベータ版とはいえ、「pop'n music」の正統的な家庭用作品がリリースされるのは2011年のPSP向けソフト『pop'n music portable 2』以来、約9年振りとなる。しかしこれは、途絶えていた作品シリーズの久方ぶりの続編作という、単なるステレオタイプな小話として見過ごせるものではない。『pop'n music Lively』のリリースに連なる作品の系譜を辿って見えてくるのは、コナミの音楽ゲーム事業の現状と今後を象徴する、本作の興味深い立ち位置だ。本稿ではその背景にある事情を、「pop'n music」という作品の歴史を通して探ってゆく。

「pop'n music」と家庭用作品の系譜

 「pop'n music」は1998年から続くACゲームだ。当時のコナミ株式会社から発売され、グループ内の幾度かの事業統廃合を経て、2016年からはコナミホールディングス傘下で主にACゲームやパチンコ・パチスロ機の事業を管轄するコナミアミューズメント社により開発・リリースが続けられている。

 初代作リリース当時の立ち位置は、前年の『beatmania』のヒットを踏まえた、AC音ゲーの裾野をさらに広げるための派生モデル。想定顧客を“プリクラ機を目当てにゲームセンターを訪れる女子高生”と明確に定め、渋谷系ギターポップやディズニー的モンドポップをはじめポップ方面に寄せたキャッチーなオリジナルサウンド群と、PUFFYやJUDY AND MARYなど流行アーティストのモチーフを取り入れたキャラクターを取り揃えた。

 その後は、専用筐体ながら中身の基盤やソフトウェアをアップデートすることでゲームセンターが安価に新作を導入可能にするビジネスモデル(これも『beatmania』が確立したものである)を援用し、1999年の「2」をはじめバージョンアップ作を継続リリース。(ポスト)渋谷系やDTM・同人音楽界隈はじめ様々な音楽文化との強力な相互影響を見せながらアップデートを続け、25作目にあたる2018年リリースの『pop'n music peace』が2020年現在も継続稼働中である。2020年2月のACゲーム展示会『ジャパンアミューズメントエキスポ(JAEPO) 2020』では筐体仕様を大幅リニューアルした新作『NEW pop'n music Welcome to Wonderland!』のプロトタイプが公開されたが、ユーザの反応を探るための試験展示であるとの開発者証言があり、当該作のリリース時期や、正統続編・外伝作といった位置付けについては本稿執筆時点では明かされていない――というのが、ACゲーム作品としての「pop'n music」の現状である。

『pop'n music』(PS版)

 一方、家庭用作品は1999年の『pop'n music』(PS/DC)を嚆矢として、AC作のリリース後、各バージョンの新曲に独自のオリジナル要素を加えて家庭用コンソール向けに発売するフローを確立。2002年の『7』からはプラットフォームをPS2に移行、2007年の『14』までは継続的に作品がリリースされた。しかしPS2からPS3への世代交代と前後して、コナミは音ゲーの家庭用コンソール向けリリースを中断。「pop'n music」はその後、AC作の『15』『16』をPSPプラットフォームの携帯ゲーム『pop'n music portable』「同2」としてそれぞれ移植。これを最後に家庭用作品は途絶えた。外伝作品としてはカジュアルゲーマーに向けた『ポップンミュージック』(wii、2009)や『うたっち』(ニンテンドーDS、2010)、ガラケー移植作『pop'n music M』(FOMA、2011)、北米向けにカスタマイズした『Beat’n Groovy』(XBOX LIVE ARCADE、2008)、楽曲とキャラクターが共通する『ポップン リズミン』(iOS、2013)も存在するが、これらは多かれ少なかれ本編とはターゲット顧客やゲーム性をAC版とは異なるものとしており、原作のプレイ体験の再現は意図されていない。

『pop'n music打!!』

 家庭用ゲーム機からPC作品に目を向けると、「beatmania」題材のタイピングゲーム『beatmania打!!』の派生として制作された『pop'n music打!!』(2000)が最初期の事例として挙げられる。また2008年には公式マウスデバイス「pop'n music Be-Mouse」が発売され、マウスに備えられた小さな演奏用ボタンと付属ソフトを用いて、「pop'n music」をWindows PC上でプレイすることが可能であった。しかしどちらも限られた楽曲ラインナップと、何よりも変則的な演奏インターフェースにおいて、AC版と同等のゲーム体験を得られるものではなかった。

 したがって、家庭内でACゲームに近似した体験を得るためには、今となってはやや古いUIかつ収録曲も限られる家庭用コンソール作に甘んじるか、ACゲーム筐体そのものを中古購入する(これすらオンライン認証が不要な2011年以前の作品に限られる)しかなかった。

 そんな状況下で、満を持して公開されたのが本作『pop'n music Lively』である。

PC用音楽ゲームとゲームセンターを巡る近況

 本作『pop'n music Lively』は、コナミアミューズメントが自社運営するPC・スマホ向けゲームプラットフォーム「コナステ(コナミアミューズメントゲームステーション。旧名:e-AMUSEMENT CLOUD)」上でリリースされた。コナステは2013年にベータリリースされ、2014年にサービス開始。『麻雀格闘倶楽部』『天下一将棋会2』『クイズマジックアカデミー』などのサービス展開に続き、2015年にはAC音ゲー『beatmania IIDX』の家庭用作品となる『beatmania IIDX INFINITAS』をリリースした。『IIDX』もまた「pop'n music」と同様、PS2世代の『beatmania IIDX 16 EMPRESS + PREMIUM BEST』(2009)を最後に家庭用コンソール向けリリースが途絶えており、『INFINITAS』は7年越しの新作であった。

 もともとコナミは『beatmania IIDX』をはじめとするAC音ゲー諸作のハードウェアを、2000年代半ばを境として専用基板からx86/x64アーキテクチャのCPUを搭載するPC基板に切り替え。ゲーム自体も組み込み向けWindows OS上のアプリケーションとして動作しており、汎用PCへの移植性は格段に上がっていた。現に前述の『INFINITAS』は、2013年の『beatmania IIDX 21 SPADA』をベースに制作され、グラフィックこそ独自に更新されたものの、演奏システムについては全く原作通りの移植が実現されている。コナミは当該作で、ゲームの買い切りではなくサブスクリプション制+別売りの楽曲セットという課金モデルを確立。PC向け音楽ゲーム作品の開発・運営の経験を蓄積し、2017年にはユーザ人気を『beatmania IIDX』と二分するAC音ゲーシリーズ「SOUND VOLTEX」のPC版を同様の形態でリリースしている。

 これらの作品が重要といえるのは、AC版とほぼ同質といって差し支えない高品質な体験を、PCプラットフォーム上で実現したためだ。AC作品を元にしたソフトウェア面の再現度はもちろん、ゲーム用入力ハードウェア、すなわち演奏インターフェース面でも高度な体験の提供を行った。コナミアミューズメントはソフト公開と並行して、PCに接続可能な仕様の新型コントローラを発売。ACの仕様をほぼ完全に再現した高級版(3~4万円)と、再現度はわずかに劣るもののリーズナブルなエントリーモデル(1万円台後半)を併売し、間口の広い導入を提供したことで好評を得た。両ゲームは2020年現在もサービスを継続しており、コナミアミューズメント社の収益安定に一役を買っている。AC版は従来どおりアニュアルに大小のバージョンアップを施しつつ、PC向け作品はシステム・グラフィック面の大きなバージョンアップは基本的に行わず、楽曲のみを追加するという2本柱で、新体制の音楽ゲーム事業を形成しつつあった。

 かような現状に降り掛かったのが、この度のコロナ禍である。世のあらゆる産業が激動のさなかに放り込まれる中、コナミホールディングス社のアミューズメント事業の4~6月期売上高は、前年同期比でマイナス11.8%となった。もっともカジノ等を担当するゲーミング&システム事業はマイナス56.4%、コナミスポーツや子供向け運動塾をはじめフィットネス関連を管轄するスポーツ事業はマイナス68.9%という大打撃を受けており、さなかにあってアミューズメント事業部門に対する直接的なダメージそのものは、比較的ながらコントロールに成功したといえるだろう。

 しかし、さらに深刻な様相を見せたのはAC音ゲーにとって本質的に不可欠である、ゲームセンターという場への打撃だ。ゲームセンターの市場(売上高)は2000年代から縮小を続けていたが、各社や日本アミューズメント産業協会(JAIA)など業界団体の取り組みも功を奏し、2015年には前年度比で増加に転向。2019年までは4年連続となる回復基調を築いていた。またコナミは音楽ゲームのeスポーツ化施策を推進しており、2017にはスタープレイヤーのDOLCE.を世界初のプロ音ゲーマーとして雇用。2019年にはこれも世界初となる音ゲーのプロチームによるeスポーツリーグ戦システム「BEMANI PRO LEAGUE(BPL)」の立ち上げを宣言。ラウンドワン、山崎屋(「レジャーランド」チェーン運営)、共和コーポレーション(同「アピナ」)、マタハリーエンターテイメント(同「シルクハット」)などゲームセンターの運営会社をスポンサーとして取り込み、2020年5月の興行開始を見込んでいた。

 ところがコロナ禍により状況は一変した。東京都による4月10日の会見を皮切りに、各地方自治体は休業要請の対象となる業態としてライブハウスや映画館、大学、博物館などとともにゲームセンターを名指し。事実上の強制命令として長期の休業を迫り、結果的に大手チェーンはじめほとんどのゲームセンターは要請を受諾した。6月中旬のアラート緩和とともに各店は順次営業を再開したが、直近としてアミューズメント施設は未だ「来場者数などの回復は緩やか」(コナミIR資料、2020年8月6日付)、「引き続き来場者数が回復するまでには一定の時間を要する」(セガサミーIR資料、同5日付)状況という。ゲームセンター運営会社も手痛いダメージを受け、例えば株式会社ラウンドワンは最新の四半期決算で、4~6月度の売上高を前年度同期比マイナス78.0%と報告している。それに伴って、前述の「BPL」についても延期が決定、興行スケジュールの再構成を余儀なくされた。

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