コナミによる「音楽ゲームのeスポーツ化」は20年前から準備されていた 『BEMANI PRO LEAGUE ZERO』に連なる系譜を読む

コナミによる「音楽ゲームのeスポーツ化」は20年前から準備されていた 『BEMANI PRO LEAGUE ZERO』に連なる系譜を読む

『BPL ZERO』に見るeスポーツ興行への挑戦

 まず課題の1つ目、興行としての形態について。BPL本戦では後述の通りスポンサー企業が6チームのオーナーを務めるが、『BPL ZERO』では古川未鈴(でんぱ組.inc)、社築(にじさんじ)、Ryu☆(EXIT TUNES)の3人を監督として招聘。BPLの出場候補となる選手から『BPL ZERO』の出場選手をチームあたり3人ずつドラフト会議(9月15日配信)により選抜した。ここに特別枠としてNU-KO(佐伯伊織)、えいか、ゆのしー(水沢柚乃)が各チームに加わっている。

 試合の詳細やそこで繰り広げられた戦略とエンターテインメントについては、それだけでも一論考に値するため本稿では触れない。ここではデータ解析と戦術立案に長け「Mr.データ」と称されたNORI(のりみそ)選手が自身のnoteに連載した、各試合の秀逸な解説記事(https://note.com/norimisoiidx/n/n6c9f86439287)を紹介するに留める。

 『BPL ZERO』の試合は2020年9月中旬の3日間、コナミの所有するeスポーツ向け配信スタジオである「esports銀座Studio」(コナミクリエイティブセンター銀座内)にて無観客で開催された。競技には『beatmania IIDX LIGHTNING MODEL』2台と、本大会向けにカスタマイズされたARENAモードを使用。

 こうして撮影された試合の様子を番組として編集したものが、前述の通り9月29日から10月27日にかけて、YouTubeのコナミ公式チャンネル上で順次配信された。放映期間中にも、ゲーム上重要な情報であるBPM表示が試合画面のレイアウトに追加される、各試合後にハイライトがリプレイとして挿入されるなど、音ゲー試合配信の編集技術が次々と改善されていったことは特記すべき点だろう。

 試合の実況はKAC大会で実績と信頼を有する森一丁が担当。解説はDOLCE.に加え、いずれもエキスパートプレーヤーであるゲスト解説者数人が務めた。さらに、かつてRyu☆と共に『beatmania IIDX 4th style』(2000年)で商業デビューを果たしたコンポーザー・プロデューサーのkors kがDJとして招かれ、『beatmania IIDX』収録曲やそのリミックスを用いて試合会場の空気を高揚させる演出を担った。またkors kはBGMを自らのDJプレーから競技=音楽演奏へとスムーズに繋ぎ、試合前にはカウントダウンコールを行うなど、試合会場内での実質的な進行役をも受け持った。なお『BPL ZERO』監督のひとりである古川未鈴は、でんぱ組.incブレイク前夜の2011年、kors kの楽曲「Drive Me Crazy」のボーカルとして『beatmania IIDX』に参加した縁を持つ。

 ファイナルステージでは特別に約15分間にわたるライブが行われ、佐藤直之によるDJステージや、コナミスポーツクラブの若手ダンスチームJ.B.STARによるパフォーマンスも披露された。かつて初代『beatmania』の開発にあたり竹安弘が導入した「DJとクラブミュージックのゲーム」という要素を媒体と見立て、興行をゲームの枠に留めることなく、音楽をキーとした総合エンターテインメントに仕立てようとする試みをここに読み取ることができる。

 次に第2の課題であるマネタイズだ。Newzoo社の調査報告によれば、2020年時点でのeスポーツ市場のおおむね6割は広告収入、2割が放映権販売、1割が入場チケットやグッズからなるという。日本国内において一般メディアでのeスポーツ放映・視聴文化が皆無である現状、広告パートナーの確保と関連グッズの展開がマネタイズの肝となることは明らかだ。

 まずパートナー面では、BPLのリーグを構成する6チームのオーナー兼スポンサーとして、ゲームセンター運営会社の共和コーポレーション(APINA VRAMeS)、マタハリーエンターテイメント(SILKHAT)、山崎屋(レジャーランド)、ラウンドワン(ROUND1)、レジャラン(GAME PANIC)、ワイ・ケーコーポレーション(SUPER NOVA Tohoku)の参画を取り付けた。

 これら会社が運営するゲーセン店舗数は2020年11月時点で計226店にも上り、チーム名は各々の主要ゲーセンのブランド名から取られている。なおチーム名「レジャーランド」をレジャラン社ではなく山崎屋が冠するのは歴史的経緯によるものと推測される(レジャラン社はもともと、ゲーセン「レジャーランド」を運営する山崎屋の東海地方4店舗が2005年に分社化されたもの。2020年現在運営するゲーセン19店舗中でレジャーランドブランドは5店舗に過ぎない)。

 オーナー各社が実際に采配を振るBPL本編は2021年に延期されたものの、2020年の『BPL ZERO』試合配信の試合後には、各社のゲーセン店舗をDOLCE.と福島蘭世が巡り紹介する企画コーナー、代表者によるオーナーとしての所信表明などが行われた。いわばCM的コーナーだが、AC音ゲーのeスポーツに関わるゲーセン運営当事者の口からダイレクトに意気込みを聞くことのできる機会は貴重だ。配信の視聴者数の時系列推移(筆者記録)によれば、試合本編の視聴者のおおむね8~9割が当該コーナー放映時にも残留視聴しており、音楽ゲーマーからのこれら取り組みへの関心の高さが伺える。

 加えてのマネタイズ策として、コナミは2019年12月のBPL告知と同時に、eスポーツデバイスの新ブランド『ARESPEAR』を公開。第一弾としてゲーミングPC、キーボード、ヘッドフォンをラインナップした。とりわけPCはASUS社のサウンドカードXonar AEを標準搭載し、Windows版音ゲー『Beatmania IIDX INFINITAS』の動作保証とBEMANI Sound Team(コナミアミューズメント社内の音楽プロダクション)監修を謳う、音ゲー用途を前面に押し出したブランディングを行っている。当該PC機種は2020年7月に予約開始、10月に発売。PC Watch誌のレビュー(https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/hothot/1283694.html)ではざっくり要約して“ゲームメーカーとしてのコナミらしいPC”、“コストパフォーマンスには不満が残るがモノとしての完成度は高い”との評価が下されている。

 さらに2020年9月に行われた『beatmania IIDX 28 BISTROVER』のロケーションテストのユーザーアンケートには、ゲーム関連グッズとして展開を望むアパレル商品の種類を問う項目が見られた。これら施策には未だ手探り感が否めないとはいえ、eスポーツイベントの外にもマネタイズの可能性を探る方向性は、興行の継続を目指す取り組みとして好意的に評価すべきだろう。

 このようにコナミは『BPL ZERO』とその展開を通して、音ゲーのeスポーツ化における各課題に対してきっちりと現時点での回答を差し出した。もちろん未だ不確定要素は多く、また試合方式をはじめ新たな課題も抽出されている(ここで詳細は述べないが、例えば特別枠選手のハンデ方式については検討の余地があるだろう)。

 しかし今回の『BPL ZERO』は、音ゲーがeスポーツ競技として十分に機能し得ることを実証すると同時に、その取り組みの最前線におけるコナミの存在感を確かに示すものとなった。『BPL ZERO』で得られた教訓は、運営から試合方式・映像編集に至る大小の側面から、BPL本編へとその改善が反映されるだろう。

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