「マローダー2体同時登場」に歓喜した『DOOM Eternal』のコミュニティと、こだわりを貫き続けたid softwareの信頼関係

「マローダー2体同時登場」に歓喜した『DOOM Eternal』のコミュニティと、こだわりを貫き続けたid softwareの信頼関係

こだわりは貫き続けるも、クリティカルな問題にはユーザーと正面から向き合う姿勢

 マローダーを筆頭に基本的なゲームバランスについては現時点でも一切の調整を行わないというこだわりを貫くid softwareだが、決してコミュニティの存在を無視しているわけではない。むしろ、ユーザーにとってクリティカルな問題が発生した際には積極的にコミュニティと向き合い、迅速に対応を行っているのである。だからこそ、コミュニティとid softwareの間にある信頼関係は非常に強固なものとなっている。

 『DOOM Eternal』の発売以降、2度に渡ってコミュニティ全体が炎上する時期があった。一つは、5月に実施されたアップデートに伴う、アンチチート問題である。本作のマルチプレイヤーモードにおけるチート対策として導入されたアンチチートソフト(『Denuvo Anti-Cheat』)に対して、ゲーム自体のパフォーマンスに影響を与える可能性がある点が懸念され、大きな反発を招くことになったのである。Steamには「レビュー爆撃」と呼ばれる大量の低評価レビューが送られ、当時のreddit内は大量の批判意見で溢れかえっていた。すると、実施から僅か3日後に、id softwareのエグゼクティブ・プロデューサーであるMarty Stratton氏が直接、redditにてアンチチートソフトの削除を実施する旨を発表したのである(参考:https://www.reddit.com/r/pcgaming/comments/gnjr72/marty_stratton_on_doom_eternals_anticheat/)。導入に至る経緯や疑問点についても明らかにし、コミュニティ側も納得したことで、本件については迅速に鎮圧を迎えることができた。

 もう一つの炎上は、同じく5月に発生したサウンドトラック問題である。本作のコレクターズ・エディションには特典としてゲーム内楽曲のサウンドトラックが収録されていたのだが、その多くの楽曲のミックスをMick Gordon氏が担当しておらず、仕上がりに違和感があること、更にMick氏本人も仕上がりに疑問を抱いていることが発覚したのである。Mick Gordon氏の存在は、リブート後の『DOOM』を象徴する重要な要素であるため、この時もコミュニティは紛糾し、id softwareへの批判が殺到した。

2016年、The Game AwardsでのMick Gordon氏のパフォーマンス

 この時もMarty Stratton氏が直ちにredditに登場し、直接事態の説明を行っている(参考 : https://www.reddit.com/r/Doom/comments/gdg25y/doom_eternal_ost_open_letter/)。あくまでMick Gordon氏へのリスペクトを表明した上で、Mick Gordon氏側の問題で楽曲の納品が間に合わなかったという背景を経緯を含めて詳細に説明し、今後、id softwareとMick Gordon氏が決別することになってしまった旨を明らかにしたのだ。この時もコミュニティ側は決別を惜しみながらも納得し、今後迎える新たな作曲家への期待を表明するようになっていった。

 筆者個人としては、レビュー爆撃を筆頭にエスカレートするコミュニティの動きには完全に賛同できないことがあるのが正直なところではある。だが、公式サイトやSNS上で会社からの声明として一方的に告知するのではなく、直接コミュニティを訪れて自らの言葉で真摯に説明するid softwareの姿を見ると、より強く信頼を抱くことができるのも事実だ。

 このように、ゲームバランスについては、コミュニティ全体で開発者の意図を理解して楽しむことを心がけ、一方でユーザー側にとってクリティカルな問題が発生した時にはid software側が真摯にコミュニティと向き合うことで、『DOOM Eternal』はより大きな存在となっていった。勿論、id softwareの考え方を受け入れられないユーザーも少なからず存在するものの、結果としてはid softwareとコミュニティは互いに信頼し合う関係として、現在に至っているのである。

発売から5ヶ月後、明らかになったid softwareからの「マローダー問題」への回答

 そして、すっかり多くのユーザーがマローダーに慣れたある日、id softwareから遂に「マローダー問題」への明確な回答が提示される日が来た。8月28日、待望のDLC第一弾となる『DOOM Eternal: The Ancient Gods – Part One』のトレーラーが公開されたのである。物語の続きを示唆する意味深な台詞や、とあるキャラクターの真相を示唆するカット、新たなステージや敵キャラクターの様子、そして更に激化することを予感させる戦闘の光景、前述のMick Gordon氏に代わって新たに参加したAndrew Hulshult氏による素晴らしいサウンドトラックなど、ファンの関心を惹く映像が次々と登場した本トレーラーは、最後にサプライズとして一つの映像を見せる。1体でさえ世界中のユーザーを苦しめたあのマローダーが、今度は2体同時に登場して襲いかかってくるのだ。

DOOM Eternal: The Ancient Gods – Part One Official Trailer

 「もっとマローダーと戦え」。これがid softwareからの回答である。もちろん困惑を抱いたり批判するユーザーも存在したが、それ以上に多くのユーザーはこのトレーラーを「新たなid softwareからの挑戦状」であると好意的に受け止め、むしろ安易なDLCを作らずに更に尖った内容を打ち出すその姿勢に歓喜するという光景が広がることになった。この動画が約110万再生に対して”高評価 : 5.4万 / 低評価 : 492″という極めて高い評価を獲得していることや、コメント欄がマローダーへの批判に対する揶揄で溢れていることからも、このid softwareの姿勢を支持する声が決して少数派ではないことが分かるだろう。(2020/09/29時点での数字)

 現代のゲームの潮流を考えると、発売からすぐにマローダーに調整を加え、批判意見を消すことを優先するのが普通だ。だが、id softwareはマローダーを「ゲームの魅力の一つ」と捉えて一切調整を行わず、ユーザーがゲームに習熟し、マローダーに慣れる日が来ると信じていた。そしてその日が来たというわけである。これもまた、開発者がユーザーと向き合う上での一つのアプローチであると言えるだろう。アンチチート問題やサウンドトラック問題、そして今回のDLCにおける「マローダー2体同時登場」によって、コミュニティの多くはより一層、id softwareに対して強い信頼を寄せるようになっている。

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