「マローダー2体同時登場」に歓喜した『DOOM Eternal』のコミュニティと、こだわりを貫き続けたid softwareの信頼関係

「マローダー2体同時登場」に歓喜した『DOOM Eternal』のコミュニティと、こだわりを貫き続けたid softwareの信頼関係

 現代のゲーム制作において、開発者側にとっても、ユーザー側にとってもなくてはならないもの、それが「アップデート」である。その多くはバグや意図しない挙動の修正を中心としたパッチデータだが、DLC(ダウンロード・コンテンツ)として追加機能が加えられることもあるし、場合によっては、ゲーム内の武器や防具、キャラクターのステータス数値に変更が加えられ、ゲームバランス自体が大きく変わることもある。

ユーザーの声が直接反映される”アップデート前提”な現代のゲーム制作

 このアップデート、特にゲームバランスの調整において重要なのは、「何を基準とするか」である。多くの場合、開発者側は実際のユーザーのプレイデータを収集し、その結果が想定と異なっている場合に調整を実施する。例えば、想定以上にゲームの序盤で脱落するユーザーが多い場合は難易度を下げたり、特定の武器があまりに強すぎる場合はステータスを下げるといった具合に調整を行う。しかし、そもそも開発者側の想定自体が多くのユーザーの期待と大きく異なっている場合もある。これを判断する上で必要となるのが、ユーザーの生の声だ。多くのユーザーが感じていることを直接聞くことで、全員にとっての理想のゲームへと近づけていくのである。

 その主要な現場の一つとなっているのが、米国を中心に人気を博している投稿型のソーシャルWebサイト、reddit(https://www.reddit.com/)である。各ゲームごとに作られたスレッドはコミュニティとして活用され、日常的にユーザー同士がそのゲームについて語り合い、時には様々な改善案や問題点が提示されることもある。ここに時折、開発者が実際に登場して、その意見をヒアリングし、開発者側の意見を提示するといったディスカッションを行うことがあるのだ。例えば、『Apex Legends』や『Fallout 76』など、様々なゲームのスレッドでこのような景色を見ることができる。直接のディスカッションとはならなくとも、reddit上で活発になった意見についてはSNSなど別の手段で公式が回答することも多く、多くのゲームはここでの意見を実際に取り入れながら調整を行っていると見て良いだろう(基本的に英語圏の意見が中心となるのが、日本人として辛いところではあるが)。

 一方で、コミュニティの意見を反映することは、多くの人々にとって快適な結果をもたらすとはいえ、必ずしも開発者側の意図と一致するとは限らない。多かれ少なかれ、開発者のこだわりによって生まれた”独特な癖”を好んでいる人もいるだろう。全てのユーザーを満足させることはできないのは分かった上で、その”癖”をどう扱うかが、アップデート前提の世の中で、ゲーム開発者が悩まされるトピックの一つとなっている。

「マローダーは許せない」を無視し続け、プレイヤーの上達を待ったid Software

 『DOOM』(1993年)や『Quake』(1996年)などで知られるid softwareが開発を行い、2020年3月に発売された『DOOM Eternal』。『DOOM』シリーズを見事にリブートし大絶賛を巻き起こした『DOOM』(2016年)の続編となる本作にはまさにFPSの老舗であるid softwareのこだわりがこれでもかと詰め込まれており、他のFPSではなかなか見ることがない独特な癖に満ちたゲームである。

DOOM Eternal – Official Trailer 2

 元々、2016年に発売されたリブート版『DOOM』は、初代『DOOM』で既に構築されていた「走る(避ける)&撃つ」の基本に立ち返り、膨大な数の敵を強力な武器を撃ちまくって蹂躙し、暴力の限りを尽くすというid softwareらしいFPSの根本的な楽しさが詰め込まれたゲームであった。一方で、その基本に忠実であるがあまり、どのステージも同じようなものに感じてしまったり、特定の強力な武器さえ撃ち続けていれば良いという、基本的であるがゆえの課題が存在していたのも確かである。

 そこで、続編となる『DOOM Eternal』では、基本である『DOOM』に更に「戦術と立ち回り」の要素を大幅に追加している。前作ではとりあえず敵が何であろうと強力な一つの武器を撃っていれば突破できたところを、武器と敵の相性を明確にすることで、状況を見て都度武器を切り替えながら戦闘を行わなければ突破出来ないようにゲームバランスを変更したのだ。FPSの肝である弾薬数についても、前作から大幅に削減しており、なくなりそうになったら特定の武器を使って敵から弾薬を収集しなければならない。そのため、今作の戦闘中は常にリソースに気を配りながら、敵の配置や状況を踏まえて戦術や立ち回りを変え、高速かつ的確に対応していく必要がある。そのため、特に前作を愛好していたユーザーの中では、戸惑いの声が多く見られた。

 そして、特にゲームメディアや多くのユーザーから批判を浴びたのは敵キャラクターであるマローダーの存在である。このマローダー、『DOOM』シリーズ史上初めて、ただ撃つだけでは一切ダメージが入らない敵となっているのだ。まるで『ダークソウル』シリーズの”パリィ”を決めるように、特定のタイミングを見定めて的確に攻撃を当てなければダメージを入れることができず、それができなければどれだけ銃弾を当てたところで一切意味がないのである。ノンストップで撃ちまくることを『DOOM』シリーズの魅力であると捉えていた人々を裏切るマローダーは徹底的に嫌われ、本作に好意的なユーザーであっても「DOOM Eternalは名作だが、マローダーは不要」という評価が固まりつつあった。

 しかし、『DOOM Eternal』の楽しさは自らが成長しながら戦術を身に着けていき、これまで圧倒されていた敵へ立ち向かえるようになっていく部分にある。そして、「自分の戦闘スタイルを知り尽くしたプレイヤーの天敵」と位置付けられたこのマローダーは、まさにそれまで成長を続けてきたユーザーに立ちはだかる新たな挑戦状であり、だからこそ更に新たな戦術を覚えることを求めるのだ。

 最初こそ多くのユーザーに戸惑いを与えた『DOOM Eternal』だが、ユーザーは徐々にその魅力を理解するようになっていった。コミュニティ内では様々なマローダーへの対策法が共有され、それでも倒すことができないユーザーには、先人が直接アドバイスを贈るといった光景が広がっていった。やがて、コミュニティの多くはマローダーという壁を乗り越えるようになり、シンプルに「DOOM Eternalは名作である」という評価が広がっていくようになったのである。この間、id software側はゲームバランスの調整を一切行わず、自分たちのこだわりを信じて、ユーザーが何度もゲームオーバーを迎えながらも、やがて戦術を身に着けていくのを待っていたのだ。

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