『マリオカート ライブ ホームサーキット』にみる、任天堂の「現実とフィクションの境目を無くす」試み

『マリオカート』新作にみる任天堂の矜恃

 9月3日に任天堂の公式YouTubeアカウントにて突如配信された、『スーパーマリオブラザーズ35周年 Direct』。1985年にファミリーコンピュータで発売された『スーパーマリオブラザーズ』の発売から今年で35周年を迎えることを記念した本配信では、今後実施されるマリオ関連の企画が続々と発表されていった。

 その中でも大きな話題となったのが、10月16日にNintendo Switch専用ソフトとして発売される『マリオカート ライブ ホームサーキット』。世界で最も売れているレースゲームシリーズの最新作となる本作では、カメラを内蔵した"実際の"カートをNintendo Switchを通して操作し、自分の部屋に設置したコースでレースを繰り広げることができる。それも、ただラジコンカーによるレースを行うだけではなく、マリオカートらしく、Switch側で取った「ダッシュキノコ」や「トゲゾーこうら」などのアイテムや、画面に映るクリボーなどの障害物が、実際に走っているカートの速度や動きに影響を与える。つまり、自分の部屋が本当にマリオカートのサーキットになってしまうゲームなのである。

Nintendo Switch マリオカート ライブ ホームサーキット 初公開映像

 これまで数え切れないくらい遊んできたマリオカートの世界が目の前に現れるだけでもワクワクするし、自分の部屋をマリオたちが走り回る光景は少しシュールでありつつも感動的だ。さらにコース制作機能も含まれており、一大ブームを巻き起こした『スーパーマリオメーカー』のように遊び手の視点だからこそ生まれる新たなクリエイティブに触れることができるのも非常に楽しみである。

 そして、本作は任天堂がこれまでゲーム作りを通して取り組んできた試みにおける、一つの集大成でもあるようにも感じている。それは、「現実とフィクションの境目を無くす」という試みである。本稿では、これまでの任天堂の取り組みを振り返りながら、それがいかに本作に強く表れているのかをまとめていきたいと思う。

ゲームと現実世界を繋ぐ「道具」としてのインターフェース

 ゲーム、あるいは全ての遊びの基本となるのが、「なにか操作(インプット)をすると、何かしらの反応(アウトプット)が返ってくる」というインターフェースの部分である。"反応"が面白かったり、意外なものであるほど、そのゲームは魅力的なものになっていく。そして、この"操作"と"反応"が、現実の自分にとって自然であればあるほど没入感が強くなり、現実とフィクションの境目がどんどん曖昧になっていくのである。ゲームの高画質化がフォトリアルと同義で語られることがあるのは、この"反応"の部分に相当するグラフィックのリアルさが没入感を高めるという考え方に基づいている。

次世代機であるPS5の実機ゲームプレイとして公開され話題となった、ゲームエンジンであるUnreal Engine 5のデモ映像

 任天堂はこのインターフェースの部分において、常に非常に強いこだわりを持ってハードとソフトを作ってきた。それは、インターフェースこそがゲームの根本であり、現実とゲームの世界を繋ぐための唯一の「道具」だからである。だからこそ、任天堂が手掛ける多くのゲームは非常に操作性が高く、「マリオ」や「ゼルダ」を筆頭に、ただ動かしているだけで楽しく、フィールドに配置されたものも、アクションを行うとちゃんと反応するように作られていることが非常に多い。そして、ハードの側面においても、様々なセンサーを内包することで体験型の操作を実現することができるWiiやNintendo Switchを筆頭に、任天堂が手掛けるハードのコントローラーでは、自らが基礎を創り上げているにも関わらず、既存のゲームパッドに縛られないインターフェースを提案し続けている。これは、30年以上前に、ファミリーコンピュータの周辺機器として、銃型コントローラーの「光線銃シリーズ」や、ゲームに合わせて実際にロボットが動き出す「ファミリーコンピュータ ロボット」を作った頃からずっと変わらず続いている任天堂のコアと言える文化でもある。

 『マリオカート ライブ ホームサーキット』は、この任天堂のインターフェースへの取り組みの歴史における最先端を示すゲームとなっている。本作において、リアルに走るラジコンカーは、あくまでインターフェースの“入力”の部分にすぎない。“出力”に相当するのは、Nintendo Switchの画面に映る、ラジコンカーについたカメラの映像とゲームの景色がAR技術によって融合した、「現実の景色の中にフィクションが入り込んだ」ゲーム画面である。ただマリオとルイージがカートに乗って走るだけでは、決して「マリオカート」にはならない。そこに数々のアイテムや障害物が表れ、それらがカートに影響を与えることで初めてそれは「マリオカート」になるのである。任天堂は、インターフェースへの考え方とAR技術への取り組みを発展させ、遂に初めて現実世界に「マリオカート」を登場させることに成功したのである。

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