プラモ愛好者が驚愕した『Nintendo Labo』の“説明”ーー「わからないとは言わせない」任天堂の気迫

『Nintendo Labo』恐るべき説明書

『Nintendo Labo』の説明はあまりに「懇切丁寧」過ぎた

 4月20日に発売された『Nintendo Labo』。おれも早速買ってひとしきり遊んでみた……と言いたいところなのだが、5月1日現在、「つり」だけを作ってそのままとなっている。理由は、『Nintendo Labo』が怖くなってしまったからだ。

 『Nintendo Labo』では、段ボールの板を部品ごとに切り離し、自分で折って加工して部品を作って組み合わせ、Toy-Conというコントローラーを作成する。これに『Nintendo Switch』のJoy-Conを取り付けることでjoy-Con内部のセンサーが動作し、様々な反応を引き出すことができるというものである。

 なので、『Nintendo Labo』で遊ぶ際には、まずこのToy-Conを組み立てる必要がある。この組み立て方の説明が怖い。「懇切丁寧」という概念に手足が生えて、棍棒で殴りかかってくるような説明である。

 『Nintendo Labo』には紙の説明書がついていない。組み立ての説明は全部ソフト上でされる。だから当然説明は全編『Nintendo Switch』の画面上である。画面の奥の方からスーッと段ボールの板が現れ、切り取る部品は色が変わって点滅し、印刷のある方を下側にする際は段ボールがぐるりとひっくり返り、折り目をつける位置が赤い線になって表示される。早送りも巻き戻しも一時停止も自由自在。組み立て中の段ボールを画面内でグルグル回したり拡大したりできるし、工程が一区切りして何かしらの機構を試運転する際には「できた」というボタンを長押ししないと先に進まない。部分的には実写の動画すら挟まる。

完成した「つり」の竿と海部分。最初に「5つの工程がある」とはっきり説明してくれるので、今自分がどのへんまで作業を進めたのかわかりやすい
説明は全部動画。しかし一時停止も巻き戻しも早送りも自在なので全然平気である

 更に言えば、加工作業自体の作業フローのプレゼンが圧倒的にうまい。まず最初に完成形を示し、それを使うとどういう遊びができるのかを見せる。そしてそのためには何と何を作ればいいのか(「つり」で言えば釣竿とスイッチ本体をはめ込む"海"の部品)を説明し、それらの部位がどういうパーツの組み合わせでできているのかにスムーズに移行する。装置の目的から概要、さらに細部に至るまでの流れが目の前で流れるように展開していき、1工程組み立てるごとにあまりの親切さに「ぎえ~!」と悲鳴をあげるハメになった。「絶対にわからないとは言わせない」という任天堂の気迫を感じて、勝手に謝りたくなった。謝られても任天堂の人は困ると思うけど。

三段で伸縮する竿の各パーツがA・B・Cとかではなく、「イチロー・ジロー・サブロー」だったのでゲラゲラ笑ってしまった。そしてこの伸縮ギミックがゲーム本体に全然関係なく、「伸び縮みした方が釣りっぽい」というだけなところでも笑った

プラモの説明書と比較するとさらに恐ろしい

 なんでこんな悲鳴をあげなくてはならないのかというと、おれが日頃プラモデルに慣れ親しんでいるからである。プラモデルと『Nintendo Labo』の構成要素は似ている。どちらもメインとなる部品が枠にくっついた形で箱に入っており、異素材(『Nintendo Labo』ではゴムや紐を使うし、プラモデルでもゴム製のタイヤや金属部品を使うことがある)を使用するところがある。自分で組み立てて遊ぶところも一緒。だから、普段からプラモデルを作っている人間としては、てっきり紙の説明書が入っているものと思ってたのだ。

 「プラモデル」のフォーマットが完成したのは遠い昔である。1936年にイギリスで発売された、フロッグというメーカーの"ペンギンシリーズ"という飛行機のキットが、世界最初のプラモデルとされている。その時にはすでに「紙の説明書に従ってプラスチック製の部品を接着剤で組み立てる」という現在まで変わらないフォーマットができていた。このペンギンシリーズでは当時プラスチックが馴染みのない素材だったことから、箱の中に接着剤まで入っていたが、今では接着剤は基本的に別売り。もし色を塗りたければ塗料や道具を買ってこなくてはいけないし、より細かい工作をしたければそれなりに工具も必要になる。そもそもニッパーやナイフがなくては、部品を綺麗に切り取ることすらできない。プラモデルは、箱に入っているものだけを使って完成させることができないのだ。『Nintendo Labo』は箱の中のパーツだけで完成するのに……。

 そんなプラモデルのフォーマットに果敢に挑んでいるのがバンダイである。基本的にモデラー向けの商品が大半を占める現在の模型業界の中で、バンダイは今でも子供向け組み立てキットの最前線に立っている企業である。では、最近の子供向けキットはニンテンドー ラボとタイマンを張れるのか。今回、『Nintendo Labo』と対象年齢が近い商品である『ポチッと発明 ピカちんキット』の「オレだけロック」を入手し、組み立ててみた(『Nintendo Labo』は保護者と一緒なら6歳、1人なら10歳からが対象。『ピカちんキット』は8歳以上が対象)。

「ピカちんキット」の説明書。圧倒的に紙。カラー印刷の「オレだけロック」本体の作り方と、実際に鍵を使うためのオプションパーツの作り方および使い方に分かれており、カラーの方は別売りのファイルに綴じておける。なぜ説明書をふたつに分けたのかはよくわからない

 以下はあくまでおれ個人の感想ではあるが、『Nintendo Labo』のあの説明に慣れた後で、紙の説明書で工作を進めるのは、子供向けキットとはいえ正直かなりダルかった。ちょっと自分でも衝撃的なくらい、ダルかったのである。どの部品をどこにどうはめ込むか、シールを貼る時には組み上がった部品をどの方向から見ればいいのか。それらを把握するのに1拍置かなくてはならない。そもそも説明書の文字を読んで、内容を噛み砕かなくてはならない。今までは当たり前だったこれらの動作が、『Nintendo Labo』を経た今では、なんだかものすごく不親切に見えてしまう。

立方体に途中までシールを貼ってから、ひっくり返してまたシールを貼る工程。シールの形が似ている上に立方体なので位置関係がわかりづらく、一発で工程を把握するのが難しい。これが動画だったらなあ……

 断っておくが、『ピカちんキット』の説明書がわかりにくいわけではない。むしろ、プラモデルの説明書としては最高レベルに親切な方である。部品だって、ニッパーやナイフを使わなくてもランナー(プラモデルの部品がついている枠)から取り外せるようになっている。対象年齢8歳以上と書いてあるように、確かに8歳の子供でも組み立てることはできると思う。にも関わらず、「説明図の内部で部品をグルグル回して各部の位置関係を把握できない」「部品をランナーからもぎ取りづらい箇所がある」「説明書に書いてある番号を見てランナーから部品を探してくるのがめんどくさい」というような細かいストレスを感じた。「『Nintendo Labo』のあの組み立て説明とキット構成なら、こんな時ラクなんだろうなあ」という気持ちになってしまったのである。

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