特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」(Vol.1)
EXILEなどのライブを手がける藤本実に聞く“コロナ以降の演出”「参加型のライブがスタンダードになる」
「コロナによって、同じ空間を共有できるのが当たり前じゃないと知った」
ーーありがとうございます。ここからはもう少し大枠の話も聞いていきたいのですが、先ほど話してもらった「段階的に解除していく」シナリオが大前提だとしても、世界全体が不可逆的な変化を迫られた結果、その形がニューノーマルとして定着する可能性もありますよね。それを踏まえて、藤本さんのなかで「コロナ以降のライブ演出とテクノロジー」はどのように変わっていくと考えますか?
藤本:ライブビジネスに関しては、ある程度元通りになるとは思っています。ただ、価値観自体はこれまでと大きく変化すると思います。コロナによって、同じ空間を共有できるということが当たり前ではないことを知ってしまった。お客さん自体も、収束後にようやくライブに行けるとなったときには「すごいものを見る」感覚になっているはずです。ここ数年のライブ業界の演出は、後ろにディスプレイがあって、照明があって、その前で歌うという同じフォーマットでしたが、そのフォーマットが根底から覆されるタイミングにもなるのかなと思います。アーティストもお客さんも「ただ同じフォーマットでやるなら配信でもいいじゃん」という気持ちが芽生えていると思います。だからこそ「同じ空間を共有するってどういうことなんだろう」という原点にもう一度立ち返って、それぞれにできることと向き合ったうえで、次の表現が生みだされるのかなと。
ーーなるほど。「次の表現」というのは、具体的にどんなものが想像できるのでしょう。
藤本:“観客参加型”の需要は、より高まるでしょうね。今まではライブのメインテーマとは別のところで、ライブ中に1つだけそういう演出を入れるか入れないか、という感じでしたが、1年後にはその演出を核としたライブがスタンダードになる気がします。ちょうど5Gのサービスがスタートしたこともあって、大会場で高速かつ低遅延・大容量・多接続の環境がデフォルトになり、夢物語だった演出も可能になっているはずです。例えばライブ中のMCで「アンコールの曲どうしますかー?」とアーティストが呼びかけたら、お客さんの携帯にバーっと曲の一覧が出てきて、リアルタイムの投票が表示され「ああ、この曲がいいんだね」とコミュニケーションが取れたり、すぐにパフォーマンスができるとか。あとは、数万人の観客全員が携帯をアーティストに向けて撮影することで、アーティストが一番大きく映っているカメラを判定し、そのカメラの映像だけをリアルタイムでディスプレイに表示したり、機械学習を使って自動編集されたライブ映像がすぐに配信されて、「私が撮ったやつも映ってる!」と感動してもらうことも不可能ではないと思います。
ーー確かに、5Gの普及と同時期だと考えると、テクノロジーを介した全く違う表現が生まれるというのは、すごく現実的に思えてきました。
藤本:一般的な大会場のライブで、ギリギリ実現しているインタラクティブな技術って、ペンライトの光が同期するくらいなんですが、それが大きくアップデートされていくことは間違いないです。5万人がペンライトを持っているとして、制御する端末の数は5万個ですが、持っているものがペンライトではなくLEDの100個付いたデバイスーー500万個のLEDを制御できたとしたら、演出としてもやれることが全く違いますし、ただ「光が綺麗だな」という感想にもならないと思います。
ーーざっくりとした光と色の制御だけではなく、もう少し緻密かつ具体的な描き方ができる。
藤本:そうです。本当の意味で、空間のすべてを演出に使うことができるようになると思います。今はまだ、空間のなかでドット絵的に光と色を制御して演出に仕上げているんですが、空間全部が高精細なディスプレイになったと考えると、ゲーム機で例えるとファミコンからプレステに変わったくらいの衝撃はあるんじゃないでしょうか。
ーー「段階的に解除していく」シナリオでいうと、人と人との間隔をある程度取った状態での再開というものも考えられると思います。これについてはどうでしょう?
藤本:ソーシャルディスタンスを意識した状態で再開されるとすると、その間隔を演出に使うことを考えていく必要があると思います。先日、りそな銀行でソーシャルディスタンスを守るために、待合の椅子に一定間隔でぬいぐるみを置いたところ気持ちがなごんだ、というニュースを見たんです。これって、ぬいぐるみを使うことでソーシャルディスタンスを有効に使っている良い例だなと思ったのと同時に、面白い演出ができるかもしれないと思いました。これまで、ライブ会場は人と人との間隔が近すぎてやれなかった演出というのもかなりあるような気がします。
ーーぬいぐるみのように空いたところに何かしらのデバイスを置くのでもよし、光を当てるのでもよし、人を動かすでもよし、というわけですね。
藤本:お客さん全員が両手を自由に広げたり、ペンライトもライブの演出に合わせて剣くらいの長さに変えてみたり、めちゃくちゃデカいうちわを持ち込めるようになったり、と色んなことが考えられます。
ーー少なくとも一年後がそうなった前提として、技術的な課題を挙げるとすると?
藤本:どれだけデータ量を少なくしてリアルタイムで制御するか、位置制御をどうするか、といった点が課題になってくるでしょうね。あと、先ほどは大会場でのライブを前提に話しましたが、100人キャパのライブハウスにしかできないことも生まれると思いますし、逆にプラットフォームを作ってしまえば、4万人でも100人でも同じ様に使うことが可能になり、サーバーのデータ量的に100人規模ならかなりの安価でサービスを使えることになります。先ほどお話したリアルタイムで映像が切り替わるシステムも仕組みさえ作ってしまえば、ライブハウスの観客にQRコードを配り、全員のカメラをタイムコードでタイミングを同期させて映像が撮れるなんてことも可能かなと。
ーーお話を聞いていると、2020年後半から2021年中にかけては、誰が最初に次世代のプラットフォームを作るのかという技術的競争が、当初想定されていたものよりもさらに激化しそうな気がします。
藤本:そうですね。それによって、今までとは違う業種が生まれてくることもあると思います。自分たちも、世界が元に戻ったとして、これまでと同じ“LED衣装“がライブに出てくるのかな、と考えたりするので。気持ち的には、一度これまで作ってきたものをなかったことにするくらいの覚悟をしています。