SAMURIZE from EXILE TRIBEの生みの親・藤本博士が語る、ウェアラブル × ダンスの可能性

SAMURIZEはいかにして誕生したのか?

 本特集の第一弾は、EXILEや三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEなどのライブで活躍するLEDダンスパフォーマンスチーム「SAMURIZE from EXILE TRIBE」のシステムを構築している、通称・LED博士の藤本実氏にインタビュー。EXILEの所属事務所・LDHのライブツアーの企画・演出をする「TEAM GENESIS」の一員である藤本氏は、どんな経緯でSAMURIZEを開発したのか。その開発秘話や仕組みを聞くとともに、ウェアラブル・コンピューティングとダンスパフォーマンスの融合にはどんな可能性があるのかを語ってもらった。

藤本実氏

SAMURIZEが誕生するまで

ーー藤本博士は、テクノロジーを活用してダンスパフォーマンスにおける新しい表現を研究されています。そもそも、こうした研究を始めたきっかけは?

藤本:中学の頃にストリートダンスに興味を持って、その後もずっと続けていたんですけれど、あくまで趣味として捉えていました。将来はスピーカーなどの音響機器に携わる仕事をしたいと考えて神戸大学の電気電子工学科に入学しました。4年生になり、ゼミを選ぶときに面白そうだと思ってウェアラブル・コンピューティング(センサーなどを体に身につけて使用するコンピュータの研究)をしている研究室に入りました。すると教授から「君はせっかくダンスを続けてきたのだから、それを研究テーマにしたら良いんじゃないか」と勧められたんです。たしかに、それならやる気が出ると思って「ダンスとテクノロジー」の研究に取り組み始めました。

 当時はまだ、ウェアラブルコンピュータが一般的ではなくて、現在のように少しプログラミングをかけば簡単に色々なセンサーを扱えるような環境ではなく、研究室で開発していた無線加速度センサー(物体の動きを計測する機器)がようやく身につけられるくらいまで小型化したばかりでした。2006年頃のことです。研究開始当初はそのセンサーを使って、ダンスのステップに合わせて音楽が生成されるシステムを構築していました。

 その後、2007年にダンスに合わせてLEDが光るコスチュームを作り始めました。ある時、300人くらい収容できるクラブで自分を含めダンスサークルの仲間が着てパフォーマンスを披露したんです。当時は、LEDひとつに付きマイクロコンピュータをひとつ仕込まないといけませんでした。さらにそれにプログラミングし、自分で服に縫い付けていました。それをダンサーがスイッチを入れるタイミングを合わせることで起動していました。現在のSAMURIZE from EXILE TRIBE(以下、SAMURIZE)からすると比較にならないほどローテクなシステムだったのですが、ダフト・パンクの「Harder, Better, Faster, Stronger」に合わせて踊ったら、お客さんからかつてないほどの歓声が上がりました。その反響を受けて、これを研究していけば、例えばディズニーランドのエレクトリカルパレードのような場面で、いずれはものすごいパフォーマンスができるんじゃないかと考えて、博士課程に進んで研究を続けることにしたんです。

ーーHIROさんとはどんな縁があって知り合ったのでしょうか?

藤本:2013年に、私がかつて手がけた、WRECKING CREW ORCHESTRAのELワイヤーを使ったパフォーマンスをご覧になったHIROさんから、「これよりさらに凄いことはできないの?」とお声がけいただきました。同じものを作って欲しいではなく、さらに高いレベルでダンスと光が融合したシステムを作ることはできないかという相談です。ちょうどLEDが等間隔に並んだテープ状の製品が市場に出始めた時期だったので、やったことはなかったにもかかわらず「たぶんできると思います」と答えました。ELワイヤーがワイヤー単位で光るのに対し、LEDは一粒ずつ制御する仕組みなので、手縫いで10人分以上の衣装を作るのは無理でも、その製品を使えばなんとかなるかなと楽観的な考えからでした。約一ヶ月しか製作期間がなかったのですが、HIROさんがパフォーマーを引退するドームツアーで披露したいということでよしやってみようと思いました。WRECKING CREW ORCHESTRAとはまったく違うやり方で、ハードウェアの設計からソフトウェアの開発やLEDの半田付けや光の振り付けまで一から作り上げて、本番の前日くらいにギリギリで完成しました。リハーサルもずっと調整を続けていたので、本番で実際に光ったのを見て、みんな驚いていましたね(笑)。

 それが好評だったので、HIROさんから「この光るダンサーをアーティストとして発信していこう」とご提案いただき、異星からやってきた光の生命体みたいなイメージで、世界に発信していくアーティストを目指そう、そして日本発ということで日本らしさを感じさせる「SAMURIZE」という名前が決定しました。僕はその頃、大学の先生をやっていたのですが、両立するのは難しいと判断して、「m plus plus Co., Ltd.」という開発会社を立ち上げました。SAMURIZEは、翌2014年の『EXILE TRIBE PERFECT YEAR LIVE TOUR TOWER OF WISH 2014 ~THE REVOLUTION~』から、正式にスタートしました。

ーー初めてSAMURIZEを生で見たときは、衝撃を受けました。

藤本:SAMURIZEは生で見たときに、一番感動が伝わるように設計しているんですよ。これは私のポリシーでもあるのですが、自分自身がストリートダンスを生で見たときに衝撃を受けてダンスを始めたので、その感覚を大切にしたいんです。たとえば、テレビで見ることを前提としたら、CGを使ったり、プロジェクションマッピングを使えば、より簡単に画面映えするパフォーマンスを生み出すことができます。でも、SAMURIZEは投射された映像とはまったく違って、ダンスに合わせて自ら“発光”します。ここが大きなポイントで、まるで彼ら自身が音楽を作り出しているかのような演出効果を引き出すことができるんです。

【SAMURIZE】SAMURIZE from EXILE TRIBE / ME AGAINST THE MUSIC (EXILE TRIBE LIVE)

 近くで見たときと、遠くから見たときで異なる印象になるのもSAMURIZEの面白いところです。実際、演出には個と群のふたつのレイヤーがあります。近くで見ると、一体一体が異なる光り方でダンサーの動きと同期しています。また、遠くから見ると、全体で波を作ったりして、より大きな光の演出をしています。ひとつのダンスに対していろいろな解釈ができるのがSAMURIZEで、それは私たちが発信しているメッセージでもあります。見たお客さんが「物事にはいろんなアプローチの仕方があるんだ」と刺激を受けてくれたら嬉しいですね。

 また、テクノロジーを使うことによってダンサーのパフォーマンスが落ちることがないように、常に改良も続けています。たとえば、同期させるためにゆっくり動かなければいけないとか、システムの側に人間が合わせなければいけないというのでは、ダンスとして良くありません。あくまでも、ダンサーがどれほど本気でパフォーマンスをしても大丈夫なように作るのが大切なことで、そこにウェアラブルコンピューティングとしての設計思想があります。単にダンスを彩るのではなく、ダンス本来の機能を拡張する、という発想なんです。

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