AppleがAIスタートアップ「Silk Labs」を買収 HomePodとスマートホーム事業強化が目的か?

AppleがAIスタートアップ「Silk Labs」を買収 HomePodとスマートホーム事業強化が目的か?

 2011年に音声AIアシスタント「Siri」をリリースしながら、スマートスピーカー市場においては後れをとってしまったAppleは、あるAIスタートアップを買収したことにより起死回生のきっかけをつかむかもしれない。この買収されたスタートアップが持っている技術は、Appleが常々気にしていることに安心を与えてくれるものでもあるようだ。

プライバシーを保護するオンデバイスAI

 テック系メディア『The Verge』は、21日、AppleがAIスタートアップのSilk Labsを買収したことを報じた。この買収に関してAppleは声明を発表していないが、Silk Labsが従業員数十人の小規模な企業であることと過去に約400万ドル(約4億5,000万円)の資金調達しか行っていないことから、買収額は比較的少額であると見られている。

 Silk Labsが注目されるようになったのは、2016年にスタイリッシュなデザインのスマートホームハブ「Sense」(トップ画像参照)を開発するために、クラウドファンディングで資金の調達を試みた時であった。このデバイスは、住宅内のサーモスタットやスピーカーといったものをネットワーク化するIoTハブのような機能を実装していた。しかし、資金調達には失敗し、その後は監視カメラ等に実装されるオンデバイスAIの開発に経営方針を変更していた。

 オンデバイスAIとは、スマホや小型家電への実装が適したAIのことを意味する。AIはデバイスから受け取ったデータを処理して画像認識や音声認識を実行するのだが、このAIによるデータ処理は高負荷なので小型の製品における実行は困難となる。そのためクラウドサーバにデータを送信後、サーバ上でデータ処理してその結果をデバイスが受け取る「クラウドAI」方式が採用されていた。対して、オンデバイスAIを使うとクラウドサーバを経由することなくデータ処理を実行できる。この技術の利点は、サーバとの通信が発生しないのでデータのプライバシーを保護できることにある。

新たな「収益の柱」の模索

 スマホニュース専門メディア『phone Arena』が21日に公開した記事では、AppleがSilk Labsを買収したのは後者のオンデバイスAIを手に入れることで、HomePodを中心としたスマートホーム事業のテコ入れを図る狙いがある、と論じている。Silk Labsはもともとスマートホーム事業を手がけていたを考え合わせると、この推測は信憑性が高い。さらに、ユーザのデータ保護に細心の注意を払っているAppleにとって、プライバシーを保護できるオンデバイスAIは魅力的な技術に見えるだろう。

 US版TechCrunchが22日に公開した記事でも、Silk Labs買収の理由としてphone Arenaと同様の見解が述べられている。さらにTechCrunchは、9月に発表されたiPhone XSをはじめとする新型iPhoneの販売が不振であるとの多数の報道をうけて、AppleにはiPhone販売以外の新たな「収益の柱」が必要だと説いている。そうした新たな柱として、HomePodを中心にしてAppleが提供する製品とサービスを統合するスマートホーム事業は期待できる、とも述べている。

オンデバイスAIのさらなる恩恵

 ユーザデータを保護するオンデバイスAIは、スマートホーム事業の要となり得るだけではない。この技術を使えば、スマホを進化させることも可能なのだ。実のところ、この技術を実装して大きく進化したスマホがすでに販売されている。そのスマホとは、Googleがリリースした最新スマホPixel 3/3 XLである。

 US版Google公式ブログの記事では、Pixel 3/3 XLにオンデバイスAIを実装したことで実現したスマホの進化を詳しく解説している。同スマホにはリアルタイムに顔の表情を分析して印象的なセルフィ―画像を自動的に撮影できるフォトブースモードや立体的なARオブジェクトを挿入することができるPlaygroundといった先進的なカメラ技術が実装されているが、これらはオンデバイスAIが駆動することによって可能となったのだ。

 また、iPhone Xシリーズの特徴とも言えるFace IDの背後にもAIによるデータ処理が実行されていると見られている。ということは、オンデバイスAIを使って件の認証技術を実行すれば、さらにセキュアな認証システムを実現できるかも知れない。

 以上のようにスマートホームだけではなくスマホにも転用できる技術を保有している企業を少額で手にした今回のAppleの買収は、コストパフォーマンスがよいものであったと言えよう。

トップ画像出典:The Verge「Apple reportedly buys AI startup with privacy-conscious approach」より引用

■吉本幸記
テクノロジー系記事を執筆するフリーライター。VR/AR、AI関連の記事の執筆経験があるほか、テック系企業の動向を考察する記事も執筆している。Twitter:@kohkiyoshi

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