中国政府のゲーム規制強化の影響か? テンセントがすべてのゲームに「年齢認証システム」導入
中国インターネットサービス企業最大手のテンセントは、同社の収益に大きく貢献しているゲーム事業に自ら足かせをはめるようなあるシステムを導入することを発表した。このシステム導入の背景には、中国政府の動向が関係している。
発表後、株価は下落
ブルームバーグは5日、テンセントが自社のすべてのゲームに年齢認証システムを導入する予定であることを報じた。導入するシステムは、同社が提供する人気モバイルゲーム『Honor of Kings』(中国表記『王者栄耀』)に昨年7月から導入されているものと同じ内容で、プレイヤーの年齢ごとにプレイ時間が制限される。12歳未満のプレイヤーのプレイ時間は1日1時間に制限され、12歳から18歳までは1日2時間に制限される。なお、プレイヤーの照合には、中国公安のデータベースが活用される。
同社は、以上の年齢認証システムをまずは10タイトルの人気ゲームに導入し、2019年には同社が提供するすべてのゲームに導入する予定だ。件の発表をうけて、同社の株価は一時4%下落した。
ゲーム規制を強める中国政府
テンセントが自社の稼ぎ頭とも言えるゲーム事業に自ら規制をかけた背景には、近年、中国政府がゲーム規制を強めていることが指摘できる。中国においては、ゲームをリリースするためには政府からの許認可を得なければならない。許認可を与えるに際しては中毒性や暴力性の有無に加えて、ゲームの内容が社会主義的体制を脅かすものではないかどうか、という観点からも審査される。
今年3月に国家主席の任期の制限を撤廃する憲法改正案が可決されてから、中国政府は中央集権化を軸とした権限強化を推し進めている。この動きに伴い、ゲームを許認可する関係省庁で人員の再編と責任範囲の変更があった。こうした行政上の変化が生じた環境下では、官僚としては下手にゲームに許認可を与えて責任問題に発展するのは避けたいところなので、及び腰になってしまう。そして、その及び腰の姿勢がさらに進んだ結果、8月、ついにゲームの許認可そのものが凍結されたことをブルームバーグは報じた。この凍結後、暫定的な許認可プロセスが施行されていたのだが、10月24日、このプロセスも終了し中国では一切のゲームがリリースされない状況になったことを同メディアは伝えている。
テンセントが年齢認証システムを導入したのは、今年に入って規制を強化した中国政府に対して、自主規制の姿勢を見せることでゲームリリースの許認可が得られない現状を打開しようとしているからではないか、と推測できる。
中国ゲーム業界の厳しい状況は、日本のゲーム業界にも影響を与えている。ロイターは、8月、日本のゲームメーカー大手のカプコンの人気ゲーム『モンスターハンター:ワールド』が中国政府の規制により販売を差し止められたことを報じている。また、同月、テンセントとスクウェア・エニックスは戦略的提携関係を構築することに合意したことを発表した。この提携関係からは、テンセントが規制の厳しい中国ゲーム市場に代わるものとして日本のそれに注目していることが見てとれる。
ゲームは健康を脅かす?
中国政府のようにゲームがはらむ中毒性を直接的な規制対象にしないまでも、ゲームがもつ負の側面を直視しようとする動きは全世界で認められる。この動きの最たるものが、WHO(世界保健機関)がゲームへの依存に対して「ゲーム障害」という言葉を与え、疾病として認定したことである。同機関が定めたゲーム障害の症状には、以下のようなものがある。
・ゲームを抑止することの欠如。
・ゲームの優先度が、ほかの生活上の活動を上回る。
・悪影響があるにも関わらず、ゲームへの没頭が継続あるいは激化する。
以上のようなゲーム障害は、ギャンブル依存症に似ているとされている。ゲームがはらむギャンブル性に関しては、プレイヤーの射幸心をあおる「ルートボックス」(いわゆる「ガチャ」の欧米における表現)が問題視されている。ゲームプレイに不公平を生み出しかねないルートボックスに対して、プレイヤーがその実装を嫌う動きもある。たとえばファンタジー小説の古典『指輪物語』を原作としたアクションゲーム『シャドウ・オブ・ウォー』に実装されていたルートボックス機能が、プレイヤーからの批判をうけて廃止されたことを国内ゲームメディアの電ファミニコゲーマーが報じている。
ゲームがもつ負の側面に対しては、ギャンブルやアルコールのように何らかの規制を設ける必要があるだろう。しかし、その規制は国家が主導するのではなく、ゲームコミュニティから自発的に生まれるのが望ましいのではないだろうか。
トップ画像出典:テンセント公式サイトよりロゴを抜粋
■吉本幸記
テクノロジー系記事を執筆するフリーライター。VR/AR、AI関連の記事の執筆経験があるほか、テック系企業の動向を考察する記事も執筆している。Twitter:@kohkiyoshi