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アメリカにおける黒人アーティストの“血”から発生した音楽、それがヒップホップ/ジャズ/ファンク/ソウル/R&Bである——。
“ロンドンの雑踏”を背景に活動するインコグニート。このグループのリーダー、仏系英国人にしてギタリスト、ジャン・ポール“ブルーイ”モニックは、都会人らしい雑食性でそれら(いわゆる黒人音楽)を消化し、見事なまでに洗練された新しい音楽、つまりはアシッド・ジャズを創り出した。ブルーイらしい人情味の厚い温かさと、“都市の孤独感”ともいえる心地よい冷たさを共存させたサウンドが、心臓の鼓動に連動したようなビート上に乗り、それらは麻薬のように聴くものを陶酔させていく。
70年代後半にブルーイが結成したバンド、ライト・オブ・ザ・ワールドを母体とするインコグニートは、91年、レーベル<TALKIN' LOUD>にて本格的に活動を開始。すると彼らは、ソウル・フィーリング溢れる歌とホーン・セクションを交えた躍動感豊かな楽曲群を武器に、またたく間に世界を席捲。そしてなによりも特筆すべきなのは、ブルーイのその巧妙なプロデュース手腕だろう。彼は新陳代謝を繰り返すメンバーの才能を魔術師のように操り、常に新しいサウンドを提供。バンドの鮮度を維持した。さらに、その才能はインコグニートのみに留まらず、ジョージ・ベンソン、アナ・カラン、クレモンティーヌといったアーティストたちにもトラックを提供。また、メイザ・リーク、ジョセリン・ブラウンなどの一線を退いたシンガーにスポット・ライトを当て、再び桧舞台に上がらせたのも彼だった。
「肌の色や民族、国籍などに縛られず私達みんなでひとつの国/民族なんだ」と語るブルーイは、溢れんばかりの愛をもってさまざまな音楽/文化を自らの体に吸収し、21世紀にはまた違ったインコグニートの花を咲かせていくことだろう。