『風、薫る』の“影のMVP”は水野美紀? 美津が支えた一ノ瀬家と“次世代へのバトン”

9月1日に放送された『風、薫る』(NHK総合)第112話では、美津(水野美紀)がいなくなった後の一ノ瀬家が描かれた。
家族写真に収まったのはふた組の母と子、そして祖母だ。吾郎(甲斐翔真)が亡くなってからも、直美(上坂樹里)と息子の明(開原律)を一ノ瀬家の人々は変わらず受け入れた。女ばかりの暮らしは、以前と変わらないようにも見える。成長した環(山田詩子)は女学校に入学した。美津は、信右衛門(北村一輝)の位牌にこれまでの歩みを報告する。

「思いがけぬ道を歩みましたが、私は幸せ者です」
達者だった美津が、その3年後には帰らぬ人になった事実に衝撃を受けた。一ノ瀬家の重鎮として、りんや直美、孫たちを見守りながら、ずっとそこにいるような存在感だったからだ。信右衛門を見送ることはかなわなかった美津は、自慢の娘の成功を見届けて旅立った。

「元武家の奥方」という属性は、明治から昭和に題材をとった朝ドラの諸作品では珍しくない。早くに夫を亡くして家計を切り盛りし、看護婦の先駆者となった娘たちの良き理解者となる。自身も才能と個性を活かして社会に「リターン」を提供する女系家族のあるじという役柄を、水野美紀は、明朗かつ軽快に、ときには厳しさを見せながら、血の通った人物像として練り上げた。いざというときの存在感と普段のさりげなさのギャップも含めて、今作の空気を醸成した影のMVPだったかもしれない。
さて、環(瀧七海)は最上級生になり、4歳の明は父に似て元気な男の子に育った様子が描かれる。恵風看護婦会は順調に発展。依頼も増えており、看護婦を増員して対応する。りん(見上愛)は「看板看護婦」として直美を支えていた。そんな折、懸案事項が持ち上がる。
日本における最初期のトレインド・ナースを描く本作では、道を開いた人のその後が描かれる。派出看護は一般的になりつつあったが、取材で訪れた記者は「何の知識もない人を看護婦と称して派出したり、法外な金額を請求する」場合が増えていると指摘する。実際に悪評を耳にして依頼を取りやめたり、同業者から勧誘されたと報告する患者もいた。

一般に広がって手軽に利用できる一方で、競争の結果、必ずしもサービスの質が上がるとは限らない。劣悪なサービスによって、かえって存続があやうくなることもある。直美は動向を注視し、看護の質を維持しようとしていたが、悪貨が良貨を駆逐するように、恵風看護婦会に悪影響が及ぶこともありえる。
派出看護の質ひとつを取っても、先駆者であるりんと直美にとっては、捨松(多部未華子)から託された「この国の看護の未来」を考えれば、ゆるがせにできない問題だ。後に続く人々に何を残すかは、看護婦としての自分たちのあり方ともリンクしており、先駆者が直面する課題といえる。

環は卒業後の進路をまだ決めておらず、りんと同じ看護の道に進むかどうかは、本人の口から語られていない。派出看護に向けられる世間の目に、環も影響を受けざるを得ない。『風、薫る』は母と娘の物語でもあった。娘の環がどんな結論を出すかは、美津やりんの生き方の答え合わせ的な側面もある。放送期間は残り1か月を切った。最後にどんな風が吹くだろうか。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK





















