『風、薫る』甲斐翔真が最後まで貫いた“明るさ” “ボタン”がつないだ直美の未来

『風、薫る』甲斐翔真が貫いた明るさ

 吾郎と直美のくだりはボタンと「明」によってひじょうによく練られていたと思う。さらに、直美がみなしごで名前をつけてもらえずに捨てられたという過去によって、名前をつけることに特別すぎる思いがあること。吾郎だったら、子どもをつくって幸せに生きていけると思って、彼を伴侶に選んだことなど、直美がなんだかんだ言いながら出生を引きずって生きてきたことも感じる。

 そして、吾郎が亡くなったことで、女手ひとつで子どもを育てるという、母ができなかったことを自分がやることになるのだ。子どもは負担なものでは決してなく、直美にとっては「明」という名の灯りになる(だろう)。なかなかドラマティックである。それも、直美が看護婦という自立できる職業についたから。女性が仕事を得ることで、男性に依存しないで済む。直美が言うように、彼女が働いて、夫が戦争で武功をあげずとも生きていける可能性もあるのだ(なかなか難しいことではあるが)。

 吾郎出征から死亡報告まではあっという間、出征が第108回、亡くなったのは第109回。日清戦争が1894年から95年と短いもので、吾郎はなかなか出征しなかったというのもあるが、それにしてもあっという間であった。もう少し命令が下るのが遅かったら戦地に行かずに済んだかもしれないのにという残念さもある。

 第109回の終わりに多江が深刻な顔で訪ねて来て、第110回でボタンの秘密がわかる。今週、第109回の本放送が大雨のニュースで延期になった。金曜日に第109、110回が連続で放送され、吾郎の戦死から直美がボタンをつけて涙するまでが一気に見られたことは偶然とはいえ見やすかった。登場人物が亡くなって悲しい気持ちを引きずりながら1日を過ごすより、ボタンのエピソードを見て、悲しいけれど温かい涙が流れ、少しだけ明るい気持ちになれた。

 視聴者の悲しい気持ちを吹き飛ばそうとしたのか、次週予告に驚いた。このまま退場するわけないだろうと思っていたシマケンが登場し、さらに、久しぶりの寛太(藤原季節)、そして、もう退場したかと思った柳生(中村倫也)の顔も。吾郎がいない相手役枠に一気に男性キャラが逆流してきた。

 なんて屈託がないのか。まるでハムレットの母が、父(母にとっては夫)が亡くなった直後に叔父と再婚し、ハムレットが苛立つみたいな感じじゃないか。いや、直美は再婚するわけではないが。

 こういう屈託ない次週予告を見ると、作中人物の死を物語を盛り上げるひとつとして冷静に描いていることを感じる。それは当然のことではある。だができれば作意を感じさせないように描いてほしいと願うのだ。

参照
※ https://kireinotes.com/115651-2/

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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