『風、薫る』はなぜ恋愛ドラマの王道を突き進む? りんと直美が選んだそれぞれの“幸せ”

『風、薫る』は恋愛ドラマの王道すぎる?

 公的には、『風、薫る』は激動の明治、看護の黎明期を駆け抜けた女性たちの物語とされているが、骨格は、恋愛ものの王道なのである。

 一方、直美は、当初、貧しいみなしごだったため、身分を偽って鹿鳴館で働き、お金持ちをゲットしようとして逆に結婚詐欺に遭う。直美を騙した寛太(藤原季節)はそれがきっかけで直美の協力者のようになる。貧しさゆえに他者を騙してでも生き抜こうとするふたりはお似合いのように見えたが、あくまで友情どまり。その後、直美を過剰に信奉する小川の登場により、寛太の出番はなくなる。彼もこのままでは収まりが悪く、あとひとつ、彼の落としどころがあることを期待したい。

 直美は、王道恋愛道をいくりんとの対比で、恋愛しないキャラになるのかと思ったら、逆に、もうひとつの王道である、幸せな結婚道に進んでしまった。このような想像を超えていく流れは、ドラマの小道具である女性の人生双六をやっているような印象を受ける。自分の意思ではどうにもならず、サイコロを振っての運任せ。どこに進むかわからない。

 シングルマザーで、パートナーの経済力に頼らず、むしろ彼を支えることを選ぶりんと、軍人で三男坊の、経済的にも実家とのしがらみもない気楽な相手を選んだ直美。それにしてもりんと直美のまわりにはビジュのいい男性が多すぎる。彼らが思わせぶりに絡んでくるのは展開をぼかす狙いにほかならないと思う。

 なぜなら脚本家の吉澤智子の過去作にもそれと似たものがあるからだ。火曜ドラマ『くるり〜誰が私と恋をした?〜』(TBS系)では3人の男性との四角関係が繰り広げられた。主人公が記憶を失い、誰とつきあっていたかわからなくなってしまう。手がかりは彼女のもっていた指輪。この指輪のサイズに合うのは誰か? というミステリー仕立ての恋愛ドラマは乙女ゲーム的ともいえた。TBSの火曜ドラマは、若い女性に人気のある枠。朝ドラに火曜ドラマの要素を盛り込むことで、朝ドラの若返りをはかりたいという考えが作り手にはあったのではないか。自分がどんな仕事につくか、その選択肢も大事だが、どんなパートナーと人生を歩むか、その選択肢も重要だ。同時に複数の人の間で揺れ動くことは単にモテて困るでは片付けられない、切実な問題でもあるだろう。

 看護の仕事のはじまりをしっかり観たい、困難を乗り越えて仕事を全うする姿に感動したい、という層もいれば、恋愛ドラマを気楽に楽しみたい層もいる。多様なニーズを満たすため、ふたりの主人公を、単純に恋愛担当、仕事担当のように分けるのではなく、どちらにも要素を盛り込んでいるところに作り手の苦心を感じる。お仕事ドラマパートには原案があって、先の展開がわかる。だが、オリジナルの恋愛パートには双六のように先が見えない楽しみがあるのも確かなのだ。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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