『ちいかわ』ハチワレの人気を決定づけた“無邪気な声” 声変わり後も続く田中誠人の魅力

『ちいかわ』ハチワレ人気を支える田中誠人

 『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が、7月24日にいよいよ公開される。原作屈指のエピソードとして知られる「セイレーン編」を映画化した本作。オープニングテーマを飾るのは、ナガノ作詞、田中誠人演じるハチワレが歌う新曲「くつずれ」だ。

 スクリーンでの冒険を多くのファンが心待ちにする今、田中の芝居が光るアニメの“神回”とともに、4年間にわたってハチワレの声をつくり続けてきた歩みを振り返りたい。

 田中が芝居の世界に入ったのは、わずか2歳のとき。所属する劇団ひまわりは、宮野真守や内山昂輝、『ちいかわ』でパジャマパーティーズを演じる諸星すみれなど、子役出身の声優を数多く輩出してきた名門劇団である。

 田中自身も、小学3年生でミュージカル『忍たま乱太郎』の初舞台を踏み、劇場版アニメ『若おかみは小学生!』では声優を経験。一方、プライベートでもロボットにプログラミング、スケートボードと、次々に新しいものへ手を伸ばすタイプだそうで、昆虫好きが高じて、当時のインタビューでは将来の夢に昆虫写真家を挙げていた(※1)。さまざまなことに興味を向ける好奇心旺盛な一面は、どこかハチワレにも通じている。

 そんな田中がハチワレ役に選ばれたのは、アニメ『ちいかわ』の放送が始まった2022年。当時、田中はまだ11歳だった。原作者のナガノも参加したキャスティングについて、アニメプロデューサーの障子直登は、実際に田中の台詞を聞いた際の印象を「すごく上手」「大人びていてしっかりしてるお子さん」だったと振り返る(※2)。

 メインの3匹のなかで、流暢に言葉を話すのはハチワレだけだ。言葉数の少ないちいかわの気持ちをくみ取り、独特の言葉を発するうさぎの行動を説明しながら、視聴者を物語へと案内してくれる。いわば、ちいかわたちと私たちをつなぐ通訳のような存在がハチワレだ。
喜びや不安を素直に口にする場面から、目の前の状況を説明する長い台詞まで、ハチワレが担う言葉は幅広い。その多くを子役である田中が受け持ち、作品のテンポを支え続けてきた。あらためて考えると、それだけでも驚かされる。

 その声の魅力が早くも発揮されたのが、第11話「ひとりごつ」だろう。

 切り株に腰かけたハチワレが、ギターを手に自作の歌を披露する。1話の大半を弾き語りが占める異例の構成に加え、それまでエンディングでイントロだけが流れていた楽曲の全貌が、ここで初めて明かされるという仕掛けも大きな反響を呼んだ。

 なかでも強烈に耳に残るのが、「なま…がわァ…き…」と息を継ぎながら歌う一節だ。田中は当時のインタビューで、「なまがわき」の部分では「険しい顔な感じの声で」と指示を受け、自身も険しい表情を浮かべながらレコーディングしたと明かしている(※3)。

 うまく歌うことより、ハチワレがどんな表情で、どんな気持ちを抱いているのかまで声に乗せる。「ひとりごつ」は歌であると同時に、田中にとってハチワレとしての芝居でもあったのだろう。

 楽曲はその後、デジタルシングルとして配信され、『2022 FNS歌謡祭』(フジテレビ系)でも披露された。今や「ひとりごつ」は、作品を代表する一曲のひとつ。ハチワレもまた、“歌うキャラクター”として強い印象を残していく。

 田中の芝居の引き出しの多さが表れたのが、第202話から第211話にかけて放送された、ちいかわ、ハチワレ、うさぎの心と体が入れ替わってしまう「入れ替わり編」だ。

 アニメ版では、画面に映る体を担当するキャストが、入れ替わった中身を演じた。田中が担当したのは、ハチワレの姿をしたうさぎ。ハチワレらしい柔らかな声を残しながら、勢いのある発声や独特の間によって、普段とはまったく異なるうさぎのテンションを表現している。コミカルな“神回”であると同時に、声のかわいらしさだけに頼らず、芝居でキャラクターを演じ分ける田中の力がよく分かる回だった。

 そして、X(旧Twitter)のトレンド1位に「声変わり」が浮上したのが、2025年2月に放送された第241話「柿の種わさび」だ。

 放送開始から約3年が経ち、田中は14歳に。突然の変化に驚いた視聴者は多かったものの、低くなった声から聞こえてくるのは、やはりハチワレだった。少し得意げに話すときの無邪気さも、友達を気遣うときの柔らかさも変わらない。声の高さではなく芝居によってハチワレをつくり上げてきたことを思いがけない形で示した第241話に、SNSでも「声変わりしても優しい声のハチワレにほっこりする」と温かい声が広がった。

 約3カ月のリバイバル放送を挟み、2025年7月に始まった新シリーズでも、ハチワレ役は引き続き田中が担当。エンディング映像もリニューアルされ、「ひとりごつ」には成長した歌声が響いた。幼さの残る旧バージョンと、落ち着きを増した新バージョン。どちらにも、その時々のハチワレらしさが刻まれている。

 幼い頃からハチワレを演じ、その声とともに成長してきた田中は、今度はどんな歌声で映画を彩るのだろうか。「ひとりごつ」から「くつずれ」へ。新曲ににじむハチワレらしさはもちろん、4年間を経た田中の表現にも耳を澄ませたい。

参照
※1. https://mantan-web.jp/article/20221203dog00m200018000c.html
※2. https://esse-online.jp/articles/-/21775
※3. https://mezamashi.media/articles/-/23022

■公開情報
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』
7月24日(金)公開
キャスト:青木遥(ちいかわ)、田中誠人(ハチワレ)、小澤亜李(うさぎ)、井口裕香(モモンガ)、内田雄馬(ラッコ)、淺井孝行(くりまんじゅう)、島袋美由利(シーサー)、春海百乃(古本屋)、最上嗣生(島二郎)、鈴木みのり(セイレーン)
原作・脚本:ナガノ
監督:及川啓
キャラクターデザイン:辻智子
コンセプトアート:橋本真樹
プロップデザイン:高妻匠
色彩設計:長井彩香
美術監督:眞﨑萌
CG監督:中野祥典
撮影監督:岡﨑正春
編集:高橋歩
音響監督:土屋雅紀 
音響効果:倉橋裕宗(オトナリウム)
音楽:トクマルシューゴ/上水樽力
アニメーションプロデューサー:溝口侃
アニメーション制作:サイピク
製作:川上洋一、古澤佳寛
エグゼグティブプロデューサー:松崎容子
プロデュース:今福太郎
プロデューサー:小峯雅隆、障子直登
宣伝プロデューサー:林原祥一、斎藤愛子、狩野裕明
製作幹事:QTORY inc.
配給:東宝
©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会
公式サイト:https://chiikawa.toho-movie.jp/
公式X(旧Twitter):https://x.com/chiikawa_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/chiikawa_movie
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@chiikawa_movie

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる