考察ブームの今再評価したい『古畑任三郎』 田村正和×三谷幸喜が生んだ倒叙ミステリーの妙

考察ブームの今再評価したい『古畑任三郎』

 初見勢の感想を眺めていた際、特に興味深かったのが「古畑は殺人自体を楽しんでいるのではないか」といった声だった。たしかに、いつもニヒルな笑みを浮かべながら犯人を追い詰める古畑は、駆け引きそのものを楽しんでいるようにも映る。「銃を持たない刑事」という設定ゆえに、古畑自身が命の危機にさらされる場面がほとんどないことも、そうした印象を後押ししているのかもしれない。

 しかし、古畑は「殺人」という選択に至ってしまった犯人たちに対して、哀愁のまなざしを向けると同時に、他者の命を軽んじる行為だけは絶対に許さない。それが最もよく表れているのが、『古畑』シリーズ唯一の無差別爆弾犯・林功夫(木村拓哉)と対峙した第2シーズン第4話「赤か、青か」(残念ながらNetflix/FODともに未配信……)と、連続ドラマシリーズの最終回となった第3シーズン第10〜11話「最も危険なゲーム」である。

 テレビシリーズの最後を締めくくるのは、動物愛護団体「SAZ」のリーダーを名乗る日下光司(江口洋介)だ。裏切ったメンバーを死に追いやった際、組織の重要な証拠が入ったボストンバッグを仲間が電車内に置き忘れたことから、日下は偽の電車ジャックをでっちあげる。実のところ、日下にとって動物愛護は単なる口実にすぎず、真に魅了されていたのはテロ活動そのものだった。

 大胆にも公安を装って古畑の前に姿を現した日下は、「かなり計算された犯罪」と前置きしたうえで、「しかも誰一人傷つけず、誰一人殺さず、人質すら取らずに目的を達成する。実に見事なやり方だとは思いませんか?」「僕はこんなことを考えた犯人を尊敬するな」と揺さぶりをかける。

 たしかに、偽装電車ジャックによる直接的な被害者は出ていない。だが、本当に傷ついた人はいないのだろうか。この先も誰一人傷つかないと断言できるのか。そして、“痛み”とは肉体的なものだけではない。想像力を働かせない日下に対して「私はね、自分の犯した罪を罪と思わない人間……最も憎みます」と、古畑は珍しく怒りをあらわにするのだ。

 「最も危険なゲーム」は、初の前後編、さらには古畑とテロリストの対決という異色の構成となっている。しかし同時に、古畑の矜持が色濃く表れた回でもあった。奇しくも連続テレビドラマの最終章となった「最も危険なゲーム」は、シリーズを締めくくるにふさわしいエピソードだったように思う。

 Netflixでの配信開始以降、X(旧Twitter)では熱心なファンたちが思い出を語り合い、「もし令和に『古畑任三郎』の新作が放送されたら……」という妄想キャスト談義も盛り上がっている。その一方で、初見勢ならではの新鮮な感想も流れてくる。再放送世代としては、まるで昨日見たドラマのように『古畑』が語られているタイムラインに、ひたすらテンションが上がる日々だ。これこそが名作ドラマが配信される醍醐味なのだろう。

■放送情報
『古畑任三郎』シリーズ
FOD・Netflixほかにて配信中
出演:田村正和(古畑任三郎)、西村まさ彦(今泉慎太郎)、石井正則(西園寺守)ほか

『警部補・古畑任三郎 第1シリーズ』
脚本:三谷幸喜
企画:石原隆、鈴木専哉(フジテレビ)
プロデュース:関口静夫(共同テレビ)
音楽:本間勇輔
演出:星護、河野圭太、松田秀知(共同テレビ)
制作:フジテレビ/共同テレビ

『古畑任三郎 第2シリーズ』
脚本:三谷幸喜
企画:石原隆、鈴木専哉(フジテレビ)
プロデュース:関口静夫(共同テレビ)
音楽:本間勇輔
演出:河野圭太、松田秀知(共同テレビ)
制作:フジテレビ/共同テレビ

『古畑任三郎 第3シリーズ』
脚本:三谷幸喜
企画:石原隆(フジテレビ)
プロデュース:関口静夫(共同テレビ)
音楽:本間勇輔
演出:河野圭太、鈴木雅之、佐藤祐市(共同テレビ)
制作:フジテレビ/共同テレビ
©フジテレビ/共同テレビ

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる