『古畑任三郎』は田村正和さんだから成立した 今後現れないであろう唯一無二のスター性

 俳優・田村正和さんが亡くなった。日本映画界のスター、“バンツマ”こと阪東妻三郎の三男として生を受け、幼少期から“芸”が身近にあった田村さんは、学生時代から俳優としても活躍。1970年代は『眠狂四郎』(フジテレビ系)などの時代劇、1980年代は『うちの子にかぎって…』『パパはニュースキャスター』などのTBSホームドラマで輝きを放ち、1990年代には三谷幸喜脚本作『古畑任三郎』(フジテレビ系)で新境地を切り開いた。時代ごとに異なる魅力を放った田村さんについて、ライターの木俣冬氏は次のように語る。

「田村正和さんの存在を知ったのは、幼少期に祖父母と一緒に観ていた時代劇『鳴門秘帖』(NHK総合)でした。『スカーレット』の“大久保さん”こと三林京子さんがヒロインのひとりで、田村さんは江戸幕府転覆の陰謀を探るために阿波に潜入する美剣士という役どころ。まだ、“色気”という言葉の意味も分からない年頃でしたが、子供心ながらに田村さんから大人の魅力が溢れているのは感じ取れたのが記憶に残っています。ただ格好いいだけではなく、妖艶さを持っている人。だから観てはいけないような気持ちもありました(笑)。遡る形で、『眠狂四郎』などの時代劇も拝見しましたが、まさに“美剣士”という言葉を体現された俳優でした。その後、80年代に入り二枚目から三枚目を演じるようになったのも田村さんのすごさだと思います。『子供が見てるでしょ!』『パパはニュースキャスター』の田村さんのコメディ路線は、“美剣士”とのギャップが大きくて、その振り幅に驚かされました。一方、『ニューヨーク恋物語』(フジテレビ系)では、再び格好いい男性を演じていて。放送時、田村さんは40代でしたが、今の40代とは比べものにならないぐらいの貫禄や色気を放っていたなと思います。ヘアスタイルやファッションも独特で、田村さん以外には絶対に似合わないものだったなと」

 そして、田村さんの代表作となった『古畑任三郎』。脚本家・三谷幸喜の人気を不動のものにした一作だが、田村さんだからこそ成立した企画だったと木俣氏は続ける。

「通常の推理ものと異なり、最初に犯人は明示されて、古畑がそれをどう解き明かしいくかという『刑事コロンボ』などと同じ“倒叙ミステリー”となっています。視聴者は“答え”がわかっているからこそ、謎を解き明かす古畑に“スター”としての魅力的でなければ成立しません。もちろん、三谷さんの優れたストーリーも重要ですが、それと同時に“刑事もの”というよりも、『古畑任三郎(田村正和)ショー』と言いますか、“スター”の魅力をとことん味わう番組だったなと思います。現在活躍されている俳優の多くは、日常に溶け込むことは非常に巧みですが、“スター”として唯一無二の輝きを放つことができる人は少ないような気がします。その意味では、『古畑任三郎』のリメイク、近しい企画を実現することは難しいのではないでしょうか」

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