『風、薫る』早坂美海の選択は『逃げ恥』婚? 槇村兄弟との三角関係は良質な恋愛ドラマに

6月16日に放送された『風、薫る』(NHK総合)第57話では、安(早坂美海)が自身の間違いを認めた。
押しかけてきた太一(林裕太)の前で、安は自分の結論を話した。前回放送で安が語ったように「たいして話したことのない男の人の家に嫁いで、怖い姑がいるかもしれない賭け」をするくらいなら、今の暮らしを続けながら婿を取ってもいい。「まともな結婚をしたからって、幸せになれるかどうかわからない」と美津(水野美紀)に抗弁する安は、奥様になることが「上がり」ではないと気づいたようだった。

安の結婚観を知った太一は思わず尋ねる。「女として生まれて、どなたかに恋をしたことはありますか?」。ぶしつけな質問に安はないと答える。「変だと言われても、私は人としてちょうどよく幸せに生きていければそれでいいんです」は、安が考える幸せの形だった。
安に対して、太一は「恋は、人間が人間たるゆえんとも言える素晴らしいもの」と恋の効用を説いた。「見つめてはならぬ人を知らぬ間に目で追い、身を引くべきと知りつつ会いたくなる」。それが恋だと力説する太一は、まさに目の前にいる安に恋しているのだった。
ところ変わって、安とりん(見上愛)は宗一(上杉柊平)と会っていた。宗一は太一から安の意向を聞き、穏便に破談するために二人を呼び出した。宗一は安の話を聞いて納得の表情を浮かべる。「結婚はよく言えば、お金と子どもを男女で補い合うもの。悪く言えば、利用し合うもの」と言い、「お金も子どもも満たされているなら、えたいの知れぬ家に嫁ぐのは危ない賭けのようなものだ」と理解を示した。

前のめりにうなずく安は、初めて自分の考えをわかってくれる人に会えた気持ちだったかもしれない。結婚に興味はないが、長男で、家のために結婚しようとする宗一の話を聞いて、この人は私と同じだと感じたに違いない。そういう考えを持つ宗一に、安は心を開くことができた。その上で決定的だったのが、安に向けられた一言だった。
「人を笑わせたいと思う人と暮らすのは楽しそうだなって思ったんです」
思わず聞き返す安に、宗一は、自分は面白い人間ではないと謙遜し、「安さんならきっとお姉さまの楽しい奥様になりますね」とユーモアを交えて返した。宗一の言葉はなにげないもので、そこに他意はない。にもかかわらず、それらの言葉は宗一という人間をこれ以上ないほど表現していた。
結婚観は人生観であり、生き方を共有できるパートナー、自分の言葉を聞いて喜んでくれる相手こそが、安の目の前にいる宗一だった。太一の目に映った安は、知らぬ間に宗一の顔を目で追い、その笑顔に吸い込まれそうになっていた。恋に落ちた安は、恋愛に疎いのではなく、運命の相手とはすでにめぐり会っていた。
帰宅した安は、環(英茉)と宗太(木下瑛太)の仲直りを見て、自分が間違っていたことに気づく。安が縁談を拒む理由は、すでになくなっていた。

目の前で意中の相手が兄に魅了される様子を目にした太一の胸のうちは、察するにあまりある。絶望と悲嘆が林裕太の表情の変化を通してまざまざと伝わってきた。太一は宗一に安の意向を伝えたが、皮肉にもそのことが二人を結びつける結果になった。知恵を絞ってアピールを続け、正面からぶつかる太一はグッドルーザーだった。ぜひこの経験を生かして、素晴らしい小説家になってほしい。
安と槇村兄弟の三角関係は、すれ違う視線の交錯と感情の高まり、互いを思い合う人間関係と相まって、良質な恋愛ドラマの一幕になっていた。安が語る結婚観は『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の契約結婚のような、相互にメリットを享受しつつ、両性が平等に役割を担うパートナーシップにも通じる。

恋愛成就と友人の失恋を同時に目撃したシマケン(佐野晶哉)は、綿貫(小松和重)から記者にならないかと誘われる。セツ(村上穂乃佳)をモデルにした記事が好評で、文章力を認められての登用。この時代、記者から作家になった文豪も多く、王道のキャリアだが、記者だと出張や転勤も増える。りんと会える機会は減ってしまうだろう。シマケンの選択に注目したい。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK






















