『田鎖ブラザーズ』は“どうやって終わらせる”のか? 真相に近づくほど見えなくなる出口

“これはみんなの幸せのための「善」なのだ”と追い詰められて凶行に出たもっちゃんは、ずっと自首をしたいと願っていた。そんなもっちゃんの口を貞夫は「黙っていれば誰も傷つかない」と塞ぎ続けたという。だが、明るみに出ない事実は、もっちゃんの心を確実に傷つけ続けてきたはずだ。

稔に愛されることは、もっちゃんにとって救いであると同時に罰でもあったのではないか。真のまっすぐな信念が見えるたび、自分が隠してきたものの重さに押し潰されていったのではないか。貞夫が病気によって、もはや当時の記憶も、今の状況も認知できなかったとしても、その31年間の苦しみはなかったことにはならない。もちろん、真と稔が味わってきた悲しみや孤独もそうだ。
「法で裁かれないと遺族は楽にならない」と語っていた真の言葉が虚しく響く。時効に関わらず、貞夫がそもそも罪を意識できない状態にあるなら、もはや「裁く」とは何なのだろうか。自分が犯した過ちも、それによって周囲の人がどれほどの痛みを負ったのかも、今の貞夫にはわからない。罪そのものを理解できない相手から、どんな反省が返ってくるというのか。そんな貞夫の命を奪うことで、兄弟は本当に楽になれるのだろうか。

それでも、両親を殺した犯人への復讐心だけが、真と稔をここまで生かしてきた。その執念以外の生きる目的をすべて放棄してきた兄弟。だからこそ、全てが終わったあとのことなど、ふたりには考えられない。ただ、復讐を遂げれば、次の冬が今と同じ形ではないことだけは確かだ。その実感の先にある唯一の願いは、「ひとりになるのは嫌だ」という言葉だった。
その極限まで削ぎ落とされた切実な願いを前に、どうしたって人は大切な誰かがいてこそ生きていけるのだと痛感する。けれど、その大切な誰かを守ろうとする気持ちが、別の誰かを傷つけてしまうこともあるという終わらない葛藤が胸を押しつぶす。みんなが「同罪」になりうる「愛」を持ち合わせている。もっちゃんが命を絶っても、ふみが事実を語っても、貞夫が罪を認識できない状態にあっても、この事件が終わらないのはそのためだ。

もし、終わらせる方法があるとするならば、その罪のありかを明らかにすることよりも、誰が何を愛していたのかを知ることにあるのかもしれない。そのためには、まだ味方の顔をしたまま、自分が何を愛してきたのかを語っていない人物の声を聞く必要がある。
だからこそ、小池はその人に問いかけたのだろう。「そろそろ本当のことを話したらどうですか?」と。それは、あの事件のもうひとりの被害者である晴子(井川遥)だ。彼女が見てきた31年間もまた、語られないからといって、なかったことにはならない。事件を終わらせるとは、犯人を裁くことだけではない。奪われた人、隠してきた人、残されてしまった人、それぞれの31年に言葉を与えること。その最後の言葉を、晴子はまだ持っている。
■放送情報
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:岡田将生、染谷将太、中条あやみ、宮近海斗、和田正人、飯尾和樹(ずん)、長江英和、山中崇、仙道敦子、井川遥、岸谷五朗
脚本:渡辺啓
音楽:富貴晴美
主題歌:森山直太朗「愛々」(ユニバーサル ミュージック)
演出:山本剛義、坂上卓哉、川口結
プロデュース:新井順子
撮影監督:宗賢次郎
編成:高柳健人、吉藤芽衣
製作:TBSスパークル、TBS
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/TAGUSARI_bros/
公式X(旧Twitter):@tagusari_tbs
公式Instagram:tagusari_tbs






















