鳴海唯、“撮る側”の視点を経て深まった俳優業への思い 「大事なのはコミュニケーション」

アップデートを続ける鳴海唯の現在地に迫る

「分からない」を知ることから始まる“対話”と“共存”

ーー今年の『テミスの不確かな法廷』をはじめ、素晴らしい作品に立て続けに出演されていますが、こういった良作に巡り合うことについてどう感じていらっしゃいますか?

鳴海:当然ながら自分一人で出演する作品を選んでいるわけではなく、事務所の方々の力も借りているので、本当にありがたいとしか言えないです。ただ、やはり自分の中で熱量を持って取り組めない作品に出演するのは、申し訳ないですし作品に対しても失礼だと思っています。「この役だったら自分が生きられるな」と思える作品に出会えたときが、自分がやるべきときなのかなと思っているので、これからもそういう作品との巡り合わせが起こっていったらいいなと思っています。

ーー題材や役柄は違いますが、『テミスの不確かな法廷』の象徴的な言葉である「わからないことをわかっていないと、わからないことはわかりません」のような姿勢が本作にも通じているように感じました。

鳴海:今回演じさせていただいた志穂という役も、『テミスの不確かな法廷』の小野崎も、仕事に熱心に取り組みたいと思っているが故に空回ってしまうところがあります。『テミスの不確かな法廷』も本作も等身大の女性を描いていて、共感性の高いキャラクターを連続で演じさせてもらっているので、通じるものはあると思います。加えて「普通とは何か」ということや、人を属性としてカテゴライズせずに1人の人として対話することの大切さは、生きていく上でのテーマだと思うので、そこにスポットが当たっているという意味では共通しているのかなと。一筋縄ではいかない永遠のテーマを扱っている作品に出られることは本当に光栄だなと思います。

ーーマイノリティの方々を“エンタメ”として扱った作品が増え、「多様性」という言葉も広まる中で、本作が世に出る意義はとても大きいと感じます。特に志穂は自身を「分かっている」存在だと思っている人物で、視聴者が一番感情移入しやすい役柄だと思いますが、演じるプレッシャーはありましたか?

鳴海:志穂はストーリーテラーのような役割も担っていて、彼女の視点で描かれていくことが多いので、全体を俯瞰して見る役割でもありました。演じていて気づいたのは、どんなに偏見はないと思っていても、知らないこと、自分が触れてこなかったことへの何かしらの偏見を持ってしまっていることがあるということです。なので、志穂と一緒にこの短い期間の中で気づきを得て、人として成長できたら、それが自分にとってのゴールになるのかなという思いで取り組んでいました。それは視聴者の皆さんにとっても、本作を観ていただけたら、きっと何かを考えるきっかけになると思いますし、そう信じたいです。

ーー深夜ドラマで同性愛を扱うと、どうしてもカテゴライズされてしまう現状があると思いますが、本作はそうした枠を超えてほしいです。

鳴海:入り口はどんな理由だっていいなと思っています。でも多分、この作品を観る前と観た後じゃ、絶対自分の中に新しい思考が生まれていると思いますし、私はその体験をしたので、その体験を観てくださる方に届けられたら最高だなと思っています。

ーー劇中でディレクター役を演じられましたが、これを機に監督など「作り手」になりたいという思いは芽生えましたか?

鳴海:自分でディレクターをしてみたいという思いはまだ芽生えてはいないんですけど、ディレクター役をやらせてもらえたことで、撮る側と撮られる側のどちらの視点も知ることができました。そして気づいたのは、撮る側も撮られる側も大事なのは人と人のコミュニケーションの大切さです。私たちが監督の視点に立つことも必要ですし、逆も然りなのかなと。それは社会人として、人としてもとても大切なことですよね。そしてそれは相手のことを考える想像力や教養がないとできないことでもある。だからこそ役者としてだけではなく、人として学び続けていきたいと思いましたし、本作を通して、人と接することは何かを深く考えるようになりました。

ーー劇中の「やりたいのは撮影ではなく対話」というセリフの通り、結局は人と人との関わりに戻るのですね。

鳴海:本当にそうですね。偏見というものはきっと誰しも持っていて、それが完全になくなることはないと思っているんです。多分、誰しもが自分の中にある色眼鏡みたいなものに気づく瞬間がこの作品を通してきっとあると思います。それを「なくさなきゃ」と思うのではなくて、それを持っていることも一度許容するというか、許してあげて、その上で自分と違う価値観の人がいるということを知る。まずそこからだなと思っています。理解することも、頭では理解できても、当事者じゃないので心から本当に理解することはできないと思うので。知った上で共存する。それが本作の大きなテーマだと捉えています。そして、その難しさを綺麗事で描いていないのが本作のいいところです。

ゼロからイチを生み出すZINE制作が俳優業にもたらすもの

ーー表現やモノづくりという観点で話題を変えまして、鳴海さんご自身でZINE(ジン)の制作・プロデュースをされていますが、ご自身で発信することへの思いを教えてください。

鳴海:いろんなことが便利になっている時代だからこそ、いい意味で“めんどくさいこと”がしたいというのがきっかけでした。写真集を作るとなると、どうしてもビジネスとしてどう成立するかということも考えなくてはいけません。もちろん、その思考も絶対に必要なのですが、そこから少し離れて、自分のやりたいこと、思っているピュアな部分を形にしたかったんです。基本的に俳優の仕事は0から1を作るというよりも、1をどれだけ大きくできるか。でも、ときには0から何かを作りたいと思っていたときに、カメラマンの友人も同じ気持ちで、そこから季刊誌として作ってみようとスタートしました。これからも自分の思考みたいなものを応援してくださる方にお届けできる場所にできればと思っています。

ーー紙として残るものの強さは絶対にあると思います。この手作り感がいいですよね。

鳴海:この簡易的な感じ、ZINEの手作り感が好きなんですよ。誰かが手作りしているものに触れるのも好きなので、その“好き”を発信していけたらいいなと思います。今は何でもデジタルな時代だからこそ、この簡易的なものの特別感というか、「自分だけのもの」として受け取ってもらえたらいいなと思っています。

ーーゼロイチでものづくりをすることで、俳優業への向き合い方も変わりそうですか?

鳴海:そうですね。基本的に俳優の仕事は、ある程度決まった状態で呼んでいただける立場です。もちろん好きでやっていることではあるのですが、自分で「こういうことがしたい」と伝えたり、何でも自由にできるわけではありません。その中で、自分が思考していることを具現化することの難しさや、ディレクターが俳優に伝える難しさを感じたりします。自分がモノづくりをすることで、いつも一緒に仕事をしている方々への思いやりが深まっていくきっかけになっていると思うので、俳優業にもいい作用が働いているのかなと思います。

ーー俳優デビューした頃の自分を今見たら、どう思うでしょうか?

鳴海:たぶん、今と始めた頃では考えていることが180度違うので、当時の自分が今の自分を見たらビックリするかもしれないですね。始めた頃はたぶん自分のことしか考えていなくて、根拠のない自信だけで乗り切っている瞬間もありました。それはそのときにしかないものなので貴重だとは思いますが(笑)。

■放送情報
ドラマイズム『100日後に別れる僕と彼』
MBSにて、毎週火曜24:59~放送
TBSにて、毎週火曜25:26~放送
CBCにて、毎週火曜25:20~放送
RKBにて、毎週火曜25:28~放送
HBCにて、毎週火曜25:29~放送
TBS放送後、TVerにて見逃し配信あり
出演:伊藤健太郎、寛一郎、鳴海唯、山田健人、野村麻純、光宗薫、工藤阿須加、竹中直人
原作:浅原ナオト『100日後に別れる僕と彼』(角川文庫 刊)
監督:草野翔吾
脚本:三浦直之
音楽:macaroom
オープニング主題歌:がらり「単純ないきもの」
LGBTQ監修:柳沢正和、河本みま乃(弁護士)
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
製作著作:「100日後に別れる僕と彼」製作委員会·MBS
©「100日後に別れる僕と彼」製作委員会·MBS
公式サイト:https://www.mbs.jp/100kare/
公式X(旧Twitter):https://x.com/dramaism2_mbs
公式Instagram:https://www.instagram.com/dramaism2_mbs/

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