『風、薫る』が描く“日本の医療”を変える第一歩 バーンズが突きつける本当の看護

『風、薫る』が突きつける看護の理想と現実

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』第33話では、看護がなんたるかを学んだりん(見上愛)が理想と現実の間で揺れ動くさまが描かれた。

 りんが受け持った患者・園部(野添義弘)は、安静にしていて欲しい手術直後にもかかわらず、自分でトイレに行き、傷口に触れようとするのでりんが注意すると逆に怒鳴られてしまった。うまくコミュニケーションが取れない中、園部の傷が炎症を起こし、緊急手術になってしまう。

 第31話では、りんや直美(上坂樹里)たち「見習生」が来る前は、病室が換気もシーツ交換もされず衛生状態が悪かった様子が描かれていたが、明治時代の手術シーンも驚きだった。麻酔は、マスク状にしたガーゼに液体の麻酔を染み込ませて口元へ。外科助手の黒川(平埜生成)は、処置が終わるまでその簡易マスクを支えているのだろう。空気中の細菌を死滅させる目的で、熱で気化した石炭酸を噴霧する石炭酸噴霧器を使用しているが、執刀する外科教授の今井(古川雄大)をはじめとした医師たちは手術着を身につけていない。手も素手のままだ。さらに園部にはバイタルチェックができるものなどもちろんついていない。りんたちが働く時代の医療現場の環境的な過酷さが伝わると同時に、技術進歩や徹底した衛生管理を積み重ねて現代の医療があることを感じさせられた。

 一瞬、このまま園部が帰らぬ人になってしまうのではないかという不安もよぎったが、彼は数日後に無事退院。しかし、思うように看護できなかったと悔やむりんは園部に謝罪するのだった。

 同じ頃、院内の廊下で喜代(菊池亜希子)が泣いている首のすわらない赤ん坊を抱いてあやしていたが、その手つきがなんともおぼつかない。そのうち、看病婦の1人に抱き方を教えられ、「子守りなんて、八つの子だってできるのに。まったく役に立たない見習いだね」と言われてしまう。

 看病婦は専門的な知識はないが、経験に基づいて家事や患者の身の回りの世話を行う人たちでそれまでの病院を支えてきた。そこへ「私たちは専門的な訓練を受けてきました!」と「見習生」たちが勇んでやってきたのだから、すんなりとは受け入れられないだろう。りんたちと看病婦たちの関係もギクシャクしている。

 園部の退院時の様子を聞いて、多江(生田絵梨花)は「医者、看病婦、患者……。この実習でその全てに看護婦の仕事を認めてもらわないといけないということね」と呟いた。そう、この実習は、もはや自分たちのためだけではなく日本に看護の概念を根付かせる“戦い”になっているのである。諦めるのは簡単だが、そうすると直美の言うとおり「病院に看護婦はいないまま」の未来ができてしまう。「やるしかないですね」とリンゴをつまむ彼女たちは、淡々としているが熱意を持っていた。

 ただ、壮大な目標を掲げたとしてもりんたちはトレインドナースとしてまだまだ未熟。りんはバーンズ(エマ・ハワード)に呼び出され、「悔しいです」と心の内を明かした。何が悔しいのか、どうしたかったのかを問われるうち、実は感謝されたかった自分に気が付かされる。バーンズは、観察してそんな思いを抱いていたりんを見抜いていたのだろう。「患者から感謝を欲しがるのは欲深い」「たとえ罵られようとも患者が回復すればそれでいいのです」と厳しい言葉をかける。

 また思い悩むりんを見かけた直美は、自分の受け持つ患者が園部が見えないところでりんが用意した花瓶の水を変えていたのを見ていたことを伝えた。医者、看病婦、患者。認めてもらわねばならない人はたくさんいるが、やれることは自分の仕事にまっすぐ向き合うだけ。どこかで誰かがその頑張りを見ているものだ。そして直美のようにそれを伝えてくれる仲間もいる。りんたちの“戦い”はまだまだ続いていく。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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