『風、薫る』「observe」が突きつける看護の本質 見上愛×上坂樹里が少しずつバディへ

『風、薫る』りん×直美が少しずつバディへ

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』第24話は、生徒たちがそれぞれの日曜日を過ごす中で、りん(見上愛)と直美(上坂樹里)が同じ単語に向き合う回だった。

 養成所で課題として出されているのは、ナイチンゲールの書籍『NOTES ON NURSING』。第23話では、生徒たちが「observe」という単語の訳に苦戦していたが、第24話でも、この言葉が引き続き大きなテーマになる。

 直美は翻訳の相談をするため、捨松(多部未華子)のいる大山家を訪れる。悩んでいたのは、「observe」という単語の訳だった。医療や科学の分野では「観察する」「気づく」といった意味で使われることが多いが、直美がこれまで親しんできた訳をそのまま当てはめても、どうにも文章になじまない。ナイチンゲールが本の中で何度も使っている以上、ここでの「observe」はただ見るという意味ではないのだろう。患者の様子をよく見て、小さな変化に気づき、何を必要としているのかを読み取る。そこまで含めた言葉として、直美は向き合うことになる。

 そこで捨松は直美に、「包み込むようにじっと見続ける」というヒントを与える。だが、直美にはその感覚がうまくつかめない。人と真正面から向き合うより、少し距離を取って生きてきた直美にとって、相手をじっと見続けることは簡単ではないのだろう。だからこそ、「患者をよく見る」という看護の基本に触れた時、自分は看護婦に向いていないのではないかという不安が膨らんでいくのも無理はない。

 直美は、自分は看護婦に向いていない、人間が嫌いだと口にする。そして、看護婦に向いているのは、りんのような人なのだと言う。たしかにりんは、目の前で苦しんでいる人を放っておけない。父・信右衛門(北村一輝)を看病した時も、熱を出した環(英茉)を前にした時も、できることが限られている中で、必死に相手を見ようとしていた。直美から見れば、そうしたりんのまっすぐさこそ、看護に必要なものに見えたのだろう。

 一方のりんも、同じように「observe」の訳につまずいていた。環と一緒に訪れた瑞穂屋で偶然シマケン(佐野晶哉)に会い、その意味を相談すると、シマケンはいつものように細かな知識を交えながら、「観察する」が近いのではないかと答える。その言葉を聞いて、りんの中でも少し腑に落ちるものがあったようだ。

 りんの場合、「観察する」という言葉は、教科書の中だけのものではない。助けたい人を前にしながら、どうすればいいのかわからなかった経験を何度もしてきたからだ。そうした記憶があるからこそ、「患者をよく見る」という言葉が、自分の過去と結びついていく。りんにとって看護は、知識を得ることだけではなく、これまでの悔しさにもう一度向き合うことでもある。

 そんな中で、シマケンのりんへの距離感にも少し変化が見える。休みの日にしか外に出ることができないりんを、シマケンはどこか気にかけているようだ。翻訳の相談に乗るやりとり自体は何気ないものだが、その何気なさの中に、シマケンの特別な思いが少しずつ見え隠れしてきた。

 一方、直美は道端で真風(研ナオコ)と再び出会う。そこで「天の使いのような人が現れる」と、お告げのような言葉をかけられる。直美が自分は看護婦に向いていないのではないかと揺れている時に、この言葉が投げかけられるのも意味深だ。直美にとっての“天の使い”は誰なのか。あるいは、その存在はすでに近くにいるのかもしれない。

 そしてその夜、門限に間に合わなかったりんと直美が鉢合わせる。捨松からりんの話を聞いていた直美は、そのあとに小さく「ありがとう」とつぶやく。りんに届くことはなかったが、直美がその言葉を口にしたこと自体が大きい。素直に感謝を伝えるのが得意ではない彼女の中で、りんへの気持ちが少し変わり始めているように見えた。

 人をよく見ること。小さな変化に気づくこと。相手を知ろうとし続けること。それは看護の技術であると同時に、人とどう向き合うかという問題でもある。2人はまだ答えにたどり着いていない。だからこそ、同じ言葉につまずき、別々の場所で悩み、少しだけ交わるこの時間が、バディとなる2人の大切な一歩に見えた。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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