『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』の評価が真っ二つ 断絶が生まれた背景とは

『スーパーマリオギャラクシー』賛否の理由

 本作が宇宙空間へと舞台を移したことで、上下左右の概念から解放された、映像的な自由が作品に与えられたことは、確かに本作独自の趣向といえる。その象徴ともいえるのが、任天堂のゲームシリーズの一つである『スターフォックス』のキャラクターの登場と活躍だ。筆者自身、家庭用ゲーム機にポリゴンによる3Dグラフィックスが導入された時代の衝撃をリアルタイムで経験しており、このサプライズがもたらすカタルシスは理解できる。それが『スーパーマリオギャラクシー』という原作ゲームが持つインパクトと重ね合わされている点も、演出としての機能を果たしているといえよう。

 しかし、その一方で懸念されるのは、こうした演出が、特定のキャラクターや作品の背景を知る者にのみ開かれたものにとどまっている点だ。本作にちりばめられた無数のイースターエッグは、対象への思い入れがない観客にとっては、「ファン向けの何かが起きているのだろう」という思いしか抱けないのではないか。問題は、終盤のクッパの姿が代表するように、イースターエッグそのものが作品の展開自体にもかかわってしまっていることだ。かつてのハリウッドにおけるゲーム原作映画は、映画的な整合性を優先するあまり原作を改変しすぎるという課題を抱えていたが、本作ではそれが逆転し、ゲームが“主”、映画が“従”となっているようにも映る。

 こうした傾向は、これも大ヒットしたゲーム原作映画『マインクラフト/ザ・ムービー』(2025年)において、ゲーム内の隠し要素であった「チキンジョッキー」のシーンが爆発的なネットミームとなった事実からも確認できる。劇場を話題の共有の場として活用したり、自身のSNSへの投稿に役立てたり、イベント的な一体感を享受していく。それは確かに新しい世代による作品の楽しみ方の一つのかたちではある。だが本来ネットミームとは、既存の表現のなかに、作り手が予期していない面白さをユーザーが発見し、自発的に拡散させていくようなものではなかっただろうか。作り手があらかじめお膳立てした、いわば「官製ミーム」とも呼べるようなものを、観客がそのまま享受するだけの構図は、文化としての先細りを、いまから予感させるところがある。

 作り手によって用意されたものをそのまま受け取り、盛り上がる。その流れは、辛辣な表現をするならば、条件反射的にベルの音に反応する「パブロフの犬」にも似ているかもしれない。果たしてこうした作品づくりの潮流は、新しい世代にとって真の意味で豊かな体験となり得るのだろうか。もちろん、そうした映画があってもいいだろう。だが、映画という体験が他媒体の従属的な位置に置かれるような作品が今後増えていくのだとするならば、それはビジネス的な成功とは別に、映画文化における本質的な部分の衰退を招くことになるかもしれない。少なくとも、本作に批評家が批判的な目を向けること自体は、奇異でも何でもない。

 批評家が厳しい言葉を投げかける本作が興行的成功を成し遂げていることを理由に、“批評家不要論”ともいえる言説が飛び交っているのも、前作公開時と同じ現象だ。しかし本来、批評家の文化的な役割とは、大衆の動向を予測したり興行の成功を予想することではない。その作品がどのようなものを語り、どのように作品としての普遍的価値を持っているのか、芸術にかかわるどのような奥行きが存在するのか、そして何が欠落しているのかを指摘し、作品や現状を問い直すことにある。むしろ、ビジネス的な規模の大小を問わず、そこに潜む価値を掘り起こし言語化することが、批評の存在意義なのではないか。

 もちろん、批評家の見解が常に正解であるとは限らない。ときに的外れな評価を下すこともあるだろう。しかし、映画というものが人生や社会を変える力を持つことを知り、さらにそれを語る言説に影響を与えられてきた一人としては、批評というものが、作品の持つ性質を深く考えるためのきっかけや対話を促し、作品を消費の対象として終わらせない意志を宿していることは、理解してもらいたいところである。

■公開情報
映画『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』
全国公開中
声の出演:クリス・プラット、アニャ・テイラー=ジョイ、チャーリー・デイ、ジャック・ブラック、キーガン=マイケル・キー、ケヴィン・マイケル・リチャードソン
日本語キャスト:宮野真守、志田有彩、畠中祐、三宅健太、関智一、坂本真綾、山下大輝
脚本:マシュー・フォーゲル
監督:アーロン・ホーヴァス、マイケル・ジェレニック
製作:クリス・メレダンドリ(イルミネーション)、 宮本茂(任天堂)
配給:東宝東和
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