『誰だって無価値な自分と闘っている』の強烈なメッセージ タイトルが“刺さる”人は必見

『誰だって無価値な自分と闘っている』の強度

肩書き社会に抗う「名前の絶叫」と「感情ウォッチ」

 配信開始して日が浅いにもかかわらず、すでに記憶に残るシーンがいくつもあるが、ドンマンが毎晩、丘のようなところに上がり自分の名前を叫び続けるシークエンスが特に印象深い。

 「ファン・ドンマン!」と何度も大声で呼びかけ、最後にまた自分で「はい!」と応答するのは、「この声が届いたなら、それが自分のものになる」からと日課にしているのだそうだ。ドンマンは心拍数などから感情を読み取る「感情ウォッチ」と呼ぶスマートウォッチをつけている。治験現場で、ドンマンは「映画監督」ではなく「無職の40代男性」と呼ばれた瞬間激しい動悸に襲われ、「極度の羞恥」と表示された。「無職と聞くと動悸がする」と大げさに愚痴るドンマンに対し、8人会のメンバーは疎ましげだ。

 「無職」、つまり社会的に無為であることへの恐怖心も、名前を呼ぶことで何かを自分のものにできるという“信仰”も、実に痛ましく思うと同時に奮い立たされるような気持ちになる。彼は相手を肩書きで判断してしまいがちな社会に抗い、“ファン・ドンマン”という固有名詞を、叫び続けることで取り戻そうとしているのではないだろうか。本来優劣などありはしないはずの名前の代わりに職業で分けられた肩書を付与され、それで人間の値打ちが決まると信じ込まされている社会に、素手で立ち向かっていくドンマンの愚直さでしか救えないものがある。

 他方ウナもまたドンマンと同じ感情ウォッチをつけているが、心が消耗し感情を失ってしまったため「不明」と表示されてしまう。病院で診察を受けた時、ウナは主治医から治療のために感情に名前をつけることを勧められる。どんな感情かと問われ、自分だけが取り残されたような感じで「自爆したい感じ」と小さく答えるウナ。名付けようのない感情を解きほぐすことで、ウナもまた回復していくであろう展開が兆しているシーンだった。

 本作が日本での配信が発表された当初、『誰だってもっと自分を好きになろうとしてる』という邦題だった。しかしSNSなどでは「原題のニュアンスが弱まっている」といった不満が見られると、のちにNetflixの同作の配信ページのタイトルが『誰だって無価値な自分と闘っている』に改められていた(※2)。改題の真偽のほどは確かではないにしろ、それだけタイトル通り自身の無価値と闘っている人が多いということだろう。その苦闘は、「好きになる」というほど生易しくなく、ドンマンのように時に周囲から疎外され、満身創痍になるものだ。だからこそこのドラマが、人生の羅針盤を見失った大人たちを深く慰めてくれるはずだ。

参照
※1. https://tv.jtbc.co.kr/plan/pr10011927
※2. https://s.cinemacafe.net/article/2026/04/18/108743.html

■配信情報
『誰だって無価値な自分と闘っている』
Netflixにて独占配信中
出演:ク・ギョファン、コ・ユンジョンほか
脚本:パク・ヘヨン

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