キアヌ・リーブス主演『アウトカム』なぜ酷評に? ジョナ・ヒルが描く“ハリウッドの虚飾”

『アウトカム』酷評の理由を考察

 一方で、劇中で紹介されるリーフの過去のエピソードには感慨深いものがある。マット・ボマー演じる、彼の親友ザンダーは、ゲイ差別が激しかった高校時代に、自分を承認する言葉をリーフから投げかけられたことで、信用を置くことにしたのだという。この話は、現実のキアヌが性的指向についてのゴシップが出回ったときに、その噂について否定も肯定もしなかったことで、同性愛者の尊厳を守ろうとしたことを思い起こさせる。ちなみに、マット・ボマーはゲイであることを公表している俳優である。

 本作の物語は、そうした本物のエピソードをリーフという役柄の核に設定することで、戦略によって人間性をアピールし、“被害者である面”を資本にしようとする危機管理チームのやり方に疑問を生じさせ、人間性を取り戻すきっかけにしているのだ。SNSや動画サイトが情報を拡散する時代に、イメージを保たなければならない有名人の負担が大きくなっていることも事実だろう。本作は、キアヌ・リーブスという象徴的俳優を使うことで、現代のスターの心労を描出し、イメージを作ることに翻弄されるバカらしさをあぶり出している。

 また一方、富裕層を相手にイメージを守る弁護士事務所での描写は、ジョナ・ヒルらしい皮肉がふんだんに込められている。なかでも痛烈なのは、ジョナ・ヒル自身も属するユダヤ系についてのジョークだ。危機管理チームは、ユダヤ系を差別するのはキャリアの汚点にはならないという、とんでもない発言をする。その直後に大写しになるのが、事務所の壁に飾られているカニエ・ウェストの写真なのである。

 カニエ・ウェストといえば、SNSなどで反ユダヤ主義的な発言を繰り返し、その挑発的な態度が何度も問題になっているセレブだ。確かに公演が中止になったり、イギリス政府から入国を拒否されるといった事態には陥ったものの、音楽、アート活動やビジネスが全くできなくなっているわけではない。最近、自分の発言を謝罪し、その原因を事故と精神疾患のためだったと説明した。この謝罪は、評価されたり同情を集める向きもあったが、だからとはいえ、民族を一括りにして愚弄し偏見を広めたことが帳消しになるわけではない。ジョナ・ヒルは、こうした状況をこそ皮肉っているのだろう。またユダヤ系への差別発言で干されながら、のちに復活を果たしたメル・ギブソンの名前も劇中に飛び出す。

 事務所には、カニエ・ウェスト以外に俳優のケヴィン・スペイシーの肖像写真も確認できる。ケヴィン・スペイシーは複数の性加害についての告訴をされたことで、ハリウッドからは事実上追放されている状況にある。結局、告訴自体が取り下げられたり無罪評決を下されたことで罪には問われていないものの、被害を告発した者たちの数があまりに多いことから、慎重な措置が取られていると考えられるのだ。

 本作に対して疑問に思うのは、スターのスキャンダルを題材にしながら、こうしたカニエ・ウェストやケヴィン・スペイシーのような、本当に深刻な状態にあるケースを描くのでなく、とくに誰の権利も侵害していない、脇が甘いだけの被害者を主人公にしたことである。ジョナ・ヒルがそうした決断に至ったのには、観客の共感を維持しつつ、安全な位置から昨今のキャンセルカルチャーに物を申したいという打算があったのではないのか。

 本物の罪を描いてしまえば、この映画は笑えない悲劇か、冷酷な社会派ドラマになってしまう。皮肉なコメディを作り上げたい監督は、そこで“誰も傷つけていないのに社会的に抹殺されそうになるセレブ”という、誇張された主人公像を作り上げたのだと考えられる。つまり、現実の社会問題が持つ複雑で汚い部分を、物語の都合で漂白してしまったのではないか。実際、本作に登場したようなリーフの動画が流出したとして、それを理由に業界を追われることにはならないはずである。

 むしろ、スーザン・サランドンやメリッサ・バレラ、マーク・ラファロらのように、パレスチナへの対応についてイスラエル批判を表明した俳優たちが、ハリウッドでの仕事をキャンセルされたり、活躍が難しくなったケースが実在することの方が深刻である。おそらくそうした方面でのキャンセルについて、ジョナ・ヒル監督は描くことはできないのだろう。ユダヤ系への差別については切れ味鋭いが、セレブ全般や映画界にまつわる矛盾は慎重に回避し、あまつさえ擁護しているように見えるほどの追及の甘さが、本作を中途半端なスタンスの社会風刺にとどめているのだ。

■配信情報
Apple Original Films『アウトカム』
Apple TVにて配信中
画像提供:Apple TV

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