『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が共感を生む理由 SFの皮を被った“精神のストーリー”

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の本質は

 『LEGO® ムービー』(2014年)や、『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズなど、映画という足場からポップカルチャーの最前線を遊び尽くしてきた、フィル・ロード&クリス・ミラー監督。そんな彼らが新たに手がけた『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、SF映画『オデッセイ』(2015年)の原作者アンディ・ウィアーの人気SF小説の実写映画化作品である。

 娯楽作としての話題性だけでなく、本作『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、その映像の表現力とエモーショナルな描写の数々によって、賞レースには不利だといわれるSFジャンルながら、すでに来年のアカデミー賞候補になるのではという声も出てきている。

 しかし、フィル・ロード&クリス・ミラーが、なぜいま本作のようなSF作品に取り組んだのか。その答えは、じつはこのストーリー展開を追っていけば、分かりすぎるほどに分かってしまうのである。ここでは、そんな本作の本質がどこにあるのかを明らかにしたい。

以下、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の重要なストーリー展開を明かしています

 本作の物語は原作小説同様、ある場所で目覚めた主人公(ライアン・ゴズリング)が、それまでの記憶をなくし、自分がどこにいるのか、そして誰なのかすらも分からないという設定からスタートする。つまり、この作品世界に初めて触れる観客と同じ状況というわけだ。

 原作は、ここから主人公がさまざまな検証や計算を重ねていくことで、自分の存在や状況を、主人公とともに理解していくプロセスがある。しかし映画版では、そういった描写は最小限に抑えられる。主人公が能動的に動くことで理解を深めていくという流れは変わらないものの、映画作品でよくある回想シーンによって、それが観客に提示されてしまうのだ。

 このような臨場感の大部分を捨てることにしたのは、すでに原作の内容が一部に知れ渡っていることや、広告や予告編などで内容をある程度明かさざるを得ない事情もあるだろう。だがそれ以上に、この部分は作り手にとって優先すべき事柄ではなかったとも考えられる。

 さらに言えば、SF的な要素や理屈ですら、この映画においては重要ではないのかもしれない。なぜなら、そうした部分のほとんどを取っ払ったとしても、この物語のドラマには感情的に強い“芯”が存在するからである。とはいえ、物語の全容を理解するために、本作の物語のベースの部分は説明していきたい。

 ライアン・ゴズリング演じる主人公の正体は、中学校の科学教師ライランド・グレース。もともとは生物学を研究する科学者だったが、学会から追放されていた人物だ。しかし太陽のエネルギーが減少し、地球環境が大幅に変化してしまうという極限的状況に人類史が直面したことで、彼の以前の研究が再評価されることとなった。

 政府機関に調査を依頼されたグレースは、その原因となるものが、宇宙空間を赤外線を放射することで移動できる微生物であることを発見。「アストロファージ」と名付けられたそれは、太陽のエネルギーを吸収し、赤外線の帯「ペトロヴァ・ライン」を生み出して金星で繁殖し、また太陽に向かっていたことが分かる。この恒星を食い尽くしていく“宇宙イナゴ”のようなアストロファージの生命の営みをそのまま放置していては、いずれ太陽の光が届かなくなり地球が寒冷化、人類が滅ぼされてしまうだろう。

 これを阻止するために人類が計画したのが、「プロジェクト・ヘイル・メアリー(神頼み計画)」だった。これは、恒星のパワーを吸い込んだアストロファージを利用し燃料にした宇宙船を開発し、太陽系から12光年離れた恒星「くじら座タウ星」に科学者を派遣して調査するというもの。なぜならば、そこでは太陽系同様にペトロヴァ・ラインが存在することを観測できるのに、なぜかタウ星は光を失わずに健在であることが確認されたからだ。

 アストロファージに負けない秘訣が判明すれば、太陽を救うことができるかもしれない。しかし、人類の技術ではタウ星に行けても、帰ってくることは困難だった。だから科学者を含めたクルーは、片道切符であることを覚悟し、そこで地球に研究結果を伝える小型の宇宙船を発射して死ぬことが求められるのだ。そして主人公グレースは、自分がそのクルーのなかで唯一生き残った一人であり、タウ星に向かう計画の途上にあった事実を知ることとなる。

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