『閃光のハサウェイ キルケーの魔女』と『逆襲のシャア』の関係 より高まる主人公の解像度

劇場アニメ『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の続編となる『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』が1月30日に公開された。第1作からさらにリアルさを増した映像が、モビルスーツの存在する未来の世界にトリップした気にさせる。過去からのつながりが見え、主人公のハサウェイ・ノアを動かしているものの姿が浮かび上がって、ギギ・アンダルシアという女性と共に進む先に待つクライマックスへの関心をあおり立てる。
上田麗奈「今のほうがギギのことを考えているかも」 『閃光のハサウェイ』第2章の葛藤明かす
上田麗奈が語る『ガンダム 閃光のハサウェイ』ギギの変遷。万能感を脱ぎ捨て“普通の女の子”の揺らぎへ。点と点のまま紡がれる、剥き出…誰がクェス・パラヤを殺したか? 2021年に『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』が公開されてから、ずっと意識されてきた疑問の答えが『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』で明示された。ハサウェイ・ノアという主人公の“解像度”がグンと上がり、彼によって導かれる物語の向かう先を大いに気にさせる。
父親は1年戦争でホワイトベースの2代目艦長を務め、ジオン公国と戦って地球連邦の勝利に貢献し、グリプス戦役でも第1次と第2次のネオ・ジオン抗争でも最前線で戦ったブライト・ノア。母親は経済界に影響力を持つヤシマ家の令嬢ミライ。そんなエリート一家の子息として生まれたハサウェイが、どういう訳か反地球連邦組織「マフティー」のリーダーとして暗躍している。『閃光のハサウェイ』という作品の概略だ。
『キルケーの魔女』は劇場版『逆襲のシャア』の続き

エリートだとかブルジョワといった家庭からテロリストが出ること自体は珍しくはない。日本で起こったテロ事件のメンバーに、高学歴者だとか親が大企業の重役だといった若者が含まれていたことは知られた話だ。親への反発があったのかもしれない。冴えすぎるが故に現状と将来に絶望してしまったのかもしれない。情動に働きかけてくるオルグに陥落してしまったのかもしれない。
ハサウェイがテロリストに転じた理由にも、これらの幾つかが当てはまっているようだが、判断を下すには重要な要素が欠けていた。映画が富野由悠季の小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(角川スニーカー文庫)をそのままアニメ化したものか、映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)から続くものなのかが見えなかったからだ。

小説『閃光のハサウェイ』は、同じ富野の小説『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』から続くものとして執筆された。この『ベルトーチカ・チルドレン』でハサウェイは、宇宙に上がるときに出会い好意を抱くようになったクェス・パラヤという少女が、ネオ・ジオンを率いて地球に小惑星を落とそうとしているシャア・アズナブルの下に行き、敵として戦場に出てきたところを誤って撃墜してしまう。
だから小説『閃光のハサウェイ』でハサウェイは、クェスを自分の手で殺めてしまった罪の意識に苦しみ、治療も兼ねて降りた地球で植物観察官候補生の研修を受けていた。ただ、シャアの思想には共感を抱いていたようで、クワック・サルヴァーという人物のオルグを受け、反地球連邦組織「マフティー」に身を投じリーダーに祭り上げられた。
映画『逆襲のシャア』のハサウェイはクェスを撃っていない。彼が撃ったのはクェスを撃墜したチェーン・アギという地球連邦軍の技術士官。つまりは味方殺しという大罪を犯してしまった訳だが、それがどのような心痛をハサウェイにもたらしたかは、前提が違う小説『閃光のハサウェイ』では分からなかった。『キルケーの魔女』でようやく、映画『閃光のハサウェイ』が映画『逆襲のシャア』の続きであることが示された。結果、映画のハサウェイというキャラの心情に深みが出た。
クェスを連れていったシャアに劣等感を抱き、彼のようになればよかったと思っていたからオルグに乗り、「マフティー」の活動にのめりこんだ。崇高な理念など後付けで、私怨をはらし承認欲求を満たしたいという個人的な欲望が反乱の原動力というのは、ある意味で人間味に溢れているといえる。

だからこそ、ギギ・アンダルシアという美しくてミステリアスな女性が現れ、興味を持たれたことに反応してしまったのだろう。予告編にも登場したハサウェイの「どうかして、この肉体と感情的な欲望から離脱しないと」という呻きにも似た言葉は、それだけ彼が情動に流されやすい人物だということを感じさせる。
決して壊れてなどいない。高名な家族というプレッシャーに迷い、欲情という本能に悶えながら劣等意識の超克という使命感で押さえつけた普通の人間。ハサウェイとはそんな存在に過ぎないのかもしれない。
























