法廷ものから刑事ドラマへ 『MERCY/マーシー AI裁判』が可能性を見出すAIの有用性

ここから、本作は法廷ものから刑事ドラマの様相を呈し始める。人工知能と人間のバディが事件を捜査する設定は、1980年代のアメリカのTVドラマ『ナイトライダー』を懐かしく思い出す観客もいるのではないか。だが『ナイトライダー』と根本的に異なるのは、捜査システムや調査の精度が飛躍的に進化したことで、人間がその場に居ながらにして、現場に行くのとほぼ変わらない捜査が可能になっているということだ。バーチャル空間でサイバーパンク的な現場の捜査ができる設定も楽しいし、被告の求めに応じて1秒もかからずに証拠を用意してくれるAIならではの“時短捜査”も気持ちがいい。いわば、究極の“引きこもり刑事”コンビの誕生である。
そのような試みは、じつは本作の監督ティムール・ベクマンベトフが製作した、PCの画面上の映像によって事態が進行するスリラー『search/サーチ』(2018年)でもおこなわれていた。ただし本作は、そのスケールをアップさせ、近未来SFとしての要素を追加した、より娯楽的な一作に生まれ変わらせた映画だといえるのだ。
とはいえ、本作は本国アメリカの批評家の間では、『search/サーチ』ほどには評価されていないのが現状ではある。それはおそらく、娯楽性を高めてさまざまな要素を投入したことで、シチュエーションスリラーとしての特徴がやや薄められたからだろう。『search/サーチ』は、表現としての幅が狭く、制限が多い演出法が採用されていたが、むしろその不自由さが画期的な手法だと感じさせるに至ったのだといえる。
だが本作は、盛りだくさんの内容が話題を呼び、観客の評価は非常に高い水準にある。筆者個人の感覚では、その次から次へと危機が発生する内容が、スケール感を高めることでスリルを極限まで味わわせようとした1990年代のアクション映画大作を思い出させるところがある。今回は、そういった娯楽性への志向が観客をエンジョイさせることになったと評価したい。
その一方で、映画のクリエイターがAIを肯定的に表現している点には、ある意味での新しさを感じられる。本作では、AIが間違いを犯してしまう可能性を示唆してはいるのだが、あくまでそれは、良くも悪くも“人間と同じ”だと語られている。そして、AIをうまく使うことができれば、人間だけでは限界のあるシチュエーションでも突破できる場面があることをも示しているのだ。それはその通りなのだろうが、人間のクリエイターがそれを認めてしまえば、自分たちの仕事の領分をAIに侵食されることにもなり得る。
そんなリスクを承知した上で、本作はAIの有用性に可能性を見出している。だからこそ、こういったポジティブな姿勢が映画から生まれたという事実は、CG技術の導入と同様に、「技術的特異点」(シンギュラリティ)を映画産業が認め始める、ある種の転換の予兆となるのかもしれない。
ただ、だからといって本作が、AIが映像自体を構築してしまう「生成AI」を認めるという話にはならないだろう。本作の表現は、あくまで人間が撮影し、CGを道具として活用することで、プロによる職人性が行き届いた内容として完成されているはずだ。レベッカ・ファーガソンが、論理がショートしながらも公平さを守ろうとするAIを演じていることが象徴的なように。AIの可能性を認め、人類の技術の新たな一歩を祝福しつつも、本作はあくまで人間の創造性と職人的な技術を駆使した一作なのだということを、忘れてはならない。
■公開情報
『MERCY/マーシー AI裁判』
全国公開中
出演:クリス・プラット、レベッカ・ファーガソンほか
監督:ティムール・ベクマンベトフ
製作:チャールズ・ローヴェン
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://ai-saiban.jp


























