『ばけばけ』ふじきみつ彦脚本の凄さが凝縮された“建前”の描き方 変わっていく人々の強さ

遂にトキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)が結ばれ、朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合)が大きな転換期を迎えた。トキとヘブンが互いの気持ちに気づき、本作オープニング映像に繋がる「散歩する2人の光景」に至るまでを描いた年末放送の第13週と、松野家と雨清水家の人々とヘブンの家族顔合わせに至るまでを描いた年始放送の第14週は節目に当たる週であると同時に、本作の良さを凝縮したような週だった。
第13週、特にトキとヘブン2人の恋が実る回である第65話の素晴らしさは、台詞を最小限に留めることでより際立った髙石あかりの表現力の素晴らしさに尽きる。そして何より脚本が、愛している人を前に去っていくことしかできないそれぞれの「大切な人」銀二郎(寛一郎)とイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)の悲哀を通して、トキとヘブンが無邪気に発散させる恋の喜びと残酷さを描いて見せたことではなかったか。

上京編の第4週で一度終わったはずの銀二郎との恋を再び浮上させてまで本作が見せたかったのは、痛みを伴う恋の光景だ。第1週第4話において、発見された水死体を見て、父・司之介(岡部たかし)ではないことに安堵するトキ(福地美晴)と母・フミ(池脇千鶴)の様子に加え、遺体の身内と思しき人物たちの悲しむ様子が描かれたことと同じで、ふじきみつ彦脚本『ばけばけ』は、喜んでいる人の近くにいる、悲しんでいる人の存在を忘れない。それこそ夜な夜な語り合うことで、この世の「恨めしさ」と「素晴らしさ」の両方を味わい尽くしているトキとヘブンが、愛してやまない「怪談」そのもののように。
2人が出雲大社で結婚を誓うところから始まった第14週は、何週にも渡って描いた恋の話から移行して、「家」の話が中心になる。また、それまでヘブンの女中として働いていたトキが結婚することで、これまでもらっていた報酬である「20円」はどうなるのかという問いを巡って「主婦の家事労働の報酬問題」が見え隠れする興味深い週でもあった。

最も秀逸だったのは、「外から来た人・ヘブン」によって、劇中においてこれまで誰もツッコミをいれる人がいなかったから表向き平穏に進行していたトキの複雑な家族の問題が、改めて浮き彫りになったことだ。本作には1つの特別な視点が存在する。それは、「日本滞在記」を書くために松江に来たヘブンによる俯瞰の視点だ。
第5週第23話において、ヘブンの視点から見た「神々の国の首都・松江の朝」が描かれたことがあった。ヘブンの言葉のみならず映像を通して見せるその光景の圧倒的な美しさは、第3週第11話でトキが鳥取から来た夫・銀二郎を伴って実践してみせる「“松江の人間”の朝」の生活感が滲み出る感じとは一味違って、現代人の視聴者からしても新鮮に映る、神秘的な“異国”の光景だった。
その後もヘブンがトキの用意した蚊帳に入った時や、トキの語りを通して怪談に触れた時など、これまで本作は「異人」である彼の視点から見た松江/日本の文化の「面白さ・素晴らしさ」を何度も描いてきた。その先にある一風変わった「日本の文化」として現れるのが、第69・70話の松野家・雨清水家の「家族顔合わせの日」の光景である。




















