『ばけばけ』『べらぼう』が象徴するNHKドラマの新たな挑戦 2025年ドラマ座談会【後編】

2025年ドラマ座談会【後編】

『あんぱん』と『おむすび』が果たした役割

『あんぱん』は最終話でなぜ“死”を描かなかったのか 「賜物」ともシンクロした命への覚悟

「さて『あんぱん』今日で物語、完結です」  『おはよう日本』(NHK総合)の赤木野々花アナウンサーの朝ドラ送りがこれ以上ない簡…

ーー2025年は『あんぱん』と『おむすび』もありました。『あんぱん』は前半の戦争描写が話題になりましたね。

田幸:『あんぱん』に関しては、前半の戦前・戦中パートが圧巻でした。やなせたかしさんという実在の人物をモデルに、中園ミホさんが反戦のメッセージを強く打ち出した。やなせさんの壮絶な戦争体験を知らない視聴者も多かった中で、戦争を加害の側面も含めてしっかり描いたことは、朝ドラの歴史においても重要な意義があったと思います。

成馬:ただ、戦後編に入ってからの失速感は否めませんでした。主人公ののぶ(今田美桜)が、戦時中は愛国の鑑ともてはやされていたのに、戦後はコロッと価値観を変えて適応していく。その姿は、ある意味でリアルな日本人の姿なんですが、物語としては「お前、あんなに輝いていたのに何者にもなれなかったのか」という虚無感が漂ってしまった。僕が興味深く感じたのは、戦後の彼女が「アンパンマン/柳井嵩(北村匠海)=やなせたかし」を推すことに生きがいを見出すプロセスが、現代の「推し活」と重なって見えたことです。やなせたかしさんのテーマである「正義は簡単に入れ替わる」という言葉通り、戦時中の彼女は「軍国主義」という正義を推していた。それが崩壊した後、彼女の情熱の行き場として「アンパンマン」という新しい正義、あるいは「推し」が現れた。対象は違えど、自分の空虚さを埋めるために何かに熱狂し、自分自身を同化させる構造は同じなのではないか。現代の我々も、推し活に熱中することで何かをごまかしているかもしれない。そんな「大衆の危うさ」すら感じさせる批評性があったのですが、そこまで深く読み取られずに「後半は地味だね」で終わってしまったのが惜しいです。

木俣:結局、作り手が「アンパンマン」という国民的ヒーローの誕生譚に着地させなければならないという制約に縛られすぎて、主人公ののぶというキャラクターの落としどころに迷った印象があります。「私は何者でもなかった」というセリフに現代女性の共感を重ねようとしたものの、彼女の人生は可能性もあり波乱万丈で、無理に「何者でもない私」に回収する必要はなかったのではないかと。松嶋菜々子さんが演じた嵩の母のように、時代に合わせてちゃっかり生き抜く強さをもっと肯定的に描いてもよかったのかもしれません。松嶋さんのあの「ちゃっかりキャラ」の遺伝子が、もっと主人公に受け継がれていれば、後半もエネルギッシュな物語になったはずです。

成馬:一方の『おむすび』は、平成という時代を描く難しさに直面していましたね。僕は地元が舞台だったので最後まで楽しかったのですが、阪神淡路大震災とギャル文化、そして栄養士というテーマを詰め込みすぎて、消化不良を起こしてしまった感はあります。

田幸:かつての朝ドラ『瞳』が、ヒップホップと里親制度を組み合わせてカオスになったのを思い出しましたが、NHKという正しい組織と、ギャルという逸脱したカルチャーの相性はやはり悪い(笑)。作り手がギャル文化に対して遠慮しているというか、本気でその精神性を描こうとしていない感じが伝わってきてしまいました。

2027年にはバカリズム脚本の朝ドラがやってくる

バカリズム「芸人が朝ドラの脚本を書く現象が面白い」 『巡るスワン』は“日常”の朝ドラに

2027年度前期 連続テレビ小説が『巡るスワン』となることが発表された。主演を森田望智が務め、脚本をバカリズムが手がける。11月…

木俣:現代劇の朝ドラは、どうしても震災を描かなければならないという義務のようなものが発生するのか、純粋な日常を描くのが難しくなっています。『あまちゃん』以降の呪縛とも言えますが、そろそろ歴史的なイベントや災害に頼らない、本当の意味での「現代の日常」を描く朝ドラが観たいですね。無理に笑いを入れようとして空回りするのも、現代劇の難しさです。その意味で、2027年に予定されているバカリズムさん脚本の朝ドラには期待しかありません。ついに朝ドラで警察ものをやるそうですが、生活安全課を舞台に、日常の些細な事件やトラブルを描くのでしょう。事件を未然に防ぐお仕事のようです。大きな歴史的事件や震災がなくても、日常だけで半年間を持たせることができるのか。バカリズムさんなら、その「ただの日常」を面白く描いてくれるはずです。

成馬:僕はもっと飛躍して、「SF朝ドラ」や「宇宙朝ドラ」が観たいですね。前編でも話しましたが、宇宙ものがトレンドになっている今、朝ドラのフォーマットで近未来や宇宙を描くことも不可能ではないはずです。かつて『まんてん』で宇宙飛行士を目指す話はありましたが、あれは訓練シーンが中心でした。そうではなく、例えば歴史改変SFのように「もし戦争の結末が違っていたら」という世界線を描くとか、あるいは舞台設定そのものを近未来のスペースコロニーにするとか。それぐらい大胆なことをしないと、「新しい戦前」と言われる今の時代の空気、閉塞感と隣り合わせの希望は描けないんじゃないかと思っています。

木俣:確かに、大河ドラマでもSF的なアプローチがあってもいいですよね。中島かずきさんの劇団新感線のような奇想天外な時代劇が大河になれば、歴史ファン以外の層も取り込めるかもしれません。

田幸:でも、それを企画している間に現実の政権が変わったり、世界情勢が変わったりして実現しない……なんてこともありそうで怖いですけどね(笑)。

ーー最後に、2025年のドラマシーン全体を振り返っていかがでしたか?

木俣:今日の座談会、いつになく前向きで楽しかったですよね(笑)。これまでの座談会では、作品への不満や業界への憂いが話題になることも多かったですが、2025年は単純に「面白かったね」と言い合える作品が多かった。全体的にドラマの質が底上げされた1年だったと思います。

田幸:本当に豊作でした。一時期は「医療ものと刑事ものしかない」と言われていた時代から、オリジナル作品でこれだけ多様なジャンルが生まれ、質も高くなっている。脚本家の高齢化が叫ばれる一方で、若い才能が確実に育ってきています。秋クールのドラマなどは、放送前はベテラン脚本家の作品に注目が集まっていましたが、蓋を開けてみれば新人脚本家の作品が話題をさらっていった。この新陳代謝は素晴らしいことです。

成馬:特に秋クールは豊作でしたね。日曜劇場も世代交代が成功して新しい時代に入った。塚原あゆ子監督が演出を手掛けた『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)などは、もはや「塚原あゆ子時代」の到来を感じさせる安定感とクオリティでした。かつての池井戸潤原作ブームのような「日本を背負う」重苦しさが抜け、純粋なエンタメとしての面白さが戻ってきた。キャストも演出も平均点が高く、安心し観ていられる。

木俣:新人脚本家が台頭し、ベテランも刺激を受けて新しいことに挑戦する。そしてNetflixのような外資系プラットフォームがスターシステムを維持する一方で、地上波は作家性を重視した作品で勝負する。この住み分けができたことで、ドラマ界全体の風通しが良くなりました。2027年のバカリズム朝ドラに向けて、そしてその先にどんな新しい景色が見られるのか。これからのドラマがますます楽しみになりました。まだまだ観たいドラマがたくさんある、というのは幸せなことですね(笑)。

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2025年の国内ドラマシーンは、ベテラン脚本家の新作から気鋭の若手による意欲作、そしてNetflixをはじめとする配信ドラマのさ…

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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