『あんたが』『めおと日和』などから考える“恋愛ドラマ”の変化 2025年ドラマ座談会【前編】

2025年の国内ドラマシーンは、ベテラン脚本家の新作から気鋭の若手による意欲作、そしてNetflixをはじめとする配信ドラマのさらなる隆盛と、かつてない多様な広がりを見せた1年となった。リアルサウンド映画部では、成馬零一、木俣冬、田幸和歌子のおなじみのメンバーによる座談会を開催。前編では、象徴的だった「ラブストーリーの二極化」、隠れた傑作と称される作品群、そしてドラマが映し出す「時代の空気」について、熱く語り合ってもらった。(前編)
2025年の象徴的な「恋愛ドラマ」の二極化
ーー1月期からの振り返りもしつつ、2025年のドラマシーン全体を総括していければと思います。2025年は新しい世代が台頭してきた一方で、大御所脚本家たちの健在ぶりも目立ちました。まずは前半期の大きなトピックとして、「ラブストーリーの復権」についてお話しできればと思います。特に象徴的だったのが、『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系/以下、『めおと日和』)の大ヒットでした。
成馬零一(以下、成馬):2025年はラブストーリーが流行った年でしたが、代表作の『めおと日和』と『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系/以下、『あんたが』)のアプローチが真逆だったことが面白かったです。『めおと日和』は、身も蓋もない言い方をすれば、「戦時中に行けばスパダリ(スーパーダーリン)がいて、私でも恋愛ができる」というファンタジーですよね。現代では成立しにくい純愛を、過去に戻ることで成立させている。逆に『あんたが』は、「失恋した男が新しい価値観にアップデートしていくことの快楽」が支持された作品でしたが、アップデートを突き詰めた結果、現代人にとって恋愛がいかに困難かという限界に行き着いてしまい、「お互いのために別れるべきだ」という結論にたどり着いてしまった。現代的な恋愛観を追求した『あんたが』と、ファンタジーとしての純愛を描いた『めおと日和』。この対照的な2つが同時に存在し、支持されたのが2025年の特徴だと思います。
田幸和歌子(以下、田幸):本当に真逆のスタンスでしたね。興味深かったのは、普段ドラマを観ないような20代の若い層が、その両方を観ていたことです。特に『めおと日和』に関しては、20代などが、あの世界観を「懐かしいけど新しい」と新鮮に受け止めて熱狂していました。宋ハナさんがプロデューサーを担当していたこともあり、韓国ドラマ的な「懐かしさと新しさ」の融合があったのかもしれません。『めおと日和』についてもう少し掘り下げると、私は原作漫画を読んだ時、あの時代のあまりにもピュアすぎる恋愛を、現代の生身の人間が演じて大丈夫かと心配したんです。ともすれば白々しく、わざとらしくなりそうな設定ですから。でも、主演の芳根京子さんの演技力が素晴らしかった。そして、芳根さんに引っ張られる形で、相手役の本田響矢さんがドラマの中でどんどん成長していくのが見えました。役者の成長過程をドキュメンタリー的に見せる。これは最近の「バズるドラマ」の条件の一つだと思いますが、それが非常にうまくハマっていました。演出面でも、平野眞さんの手腕が光っていましたよね。象徴的だったのが、ともすれば作り物っぽい「ピッカピカの月」をバックにしたキスシーン。セットや衣装は丁寧に時代考証されているのに、あそこだけコテコテのCGを使って、意図的にファンタジー感を強調していました。あの演出があったからこそ、「今は恥ずかしくて絶対やらないけれど、こういう時代もあったのかな」「交際0日婚も、この世界ならありえる」と、自分とは関係ない遠い世界の物語としてワクワクできたんだと思います。
木俣冬(以下、木俣):恋愛ドラマが若い世代に受けないと言われていたけれど、昔の話なのだと思って距離をとって見るとファンタジーとしてドキドキできた。昔の価値観が受けないと言われていたにもかかわらず、あえて古めかしい価値観や恋愛観が素敵に思えることを証明してしまったので、今後は昔の時代を現代の価値観に書き換えなくてもよくなるかもしれません。あるいは、交際0日婚は、現代の言葉で、いま、そういう結婚が増えてきている。つまり、いわゆる恋愛期間を楽しむのではなく、お見合いやなんらかの理由で交際0日婚したふたりが共生していくうちに愛情が芽生えていくというスタイルが見直されているとも言えそうです。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)もそうでしたよね。
成馬:一方の『あんたが』ですが、こちらは「恋愛の限界」を描いたと言いましたが、竹内涼真さん演じる主人公の役柄が「愛されすぎちゃった」問題がありましたね。価値観をアップデートさせることこそが「現代の成長」だということが本作を観ているとよく理解できるけど、恋愛の快楽をアップデートの快楽が追い抜いてしまったようにも見える。
田幸:そうなんです。本来は昭和的な価値観の男性がアップデートしていく苦しみや葛藤を描くはずが、竹内涼真さんが演じることで「愛すべきダメ男」としてバズりすぎてしまった。「我がこと」として捉えるべきアップデートの物語が、他人事として愛でられるコンテンツになってしまった印象はありました。
木俣:恋愛にしても事件ものにしても、ドラマはまずは視聴者の心を揺さぶられるものであるべきと私は思っていて、『あんたが』の第1話にはそれがありました。主人公がいきなり反省して、料理を自分で作り彼女の気持ちに近付いていこうとする展開に驚きました。一気に展開させて、主人公がモラハラのいやなやつじゃないところまで見せてしまった。「この後どうなるんだろう?」という視聴者をザワつかせるという最高のつかみになった。また、最終回で結局二人が元サヤに戻らなかったのも、今のテレビドラマとしては誠実な落とし所だったと思います。もしあそこで復縁してしまったら、続編が作れなくなりますから(笑)。それは冗談としても、安易なハッピーエンドにせず、視聴者の心を最後までザワつかせた点は評価したいです。
成馬:ただ、『めおと日和』に関しては、背景にあるのが「戦争」だという点は無視できません。作り手は明らかに「戦時下という政治的な緊張感がないと、この恋愛は成立しない」と分かってやっている。それがほのぼのと消費されている状況は、ある種のグロテスクさを孕んでいます。タモリさんがかつて言った「新しい戦前」という言葉のように、今の若者は「これからひどい世の中になっていく直前」という気分を無意識に持っている。だからこそ、戦争が終わった後の「明るい戦後」を描くよりも、破滅に向かう直前の「つかの間の幸せ」を描いた『めおと日和』の方が、今の気分とシンクロしてしまったのではないか。アニメ化もされている漫画『SPY×FAMILY』が、ロシアのウクライナ侵攻後にシリアスな意味を帯びてしまったように、エンタメが現実の情勢とリンクしてしまった年でもありました。
木俣:恋愛ドラマにも社会派な背景が欠かせないという点では、『愛の、がっこう』(フジテレビ系)も外せない作品でした。ホストと教師の禁断の恋を描いた作品ですが、一昔前ならそのスキャンダラスな設定だけで押していたと思うんです。でも今回は、主人公が識字障害を抱えていて、それゆえにホストという職業しか選べなかったという背景がある。社会的なマイノリティにどう手を差し伸べるかという「社会派」のテーマでくるみつつ、その中でしっかりと「ときめく恋愛」を描いていたのが巧みでした。
ーー演出は『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)などの西谷弘さんが担当しました。
木俣:西谷さんの演出もあって見せ方がうまく、社会問題を扱いながらも、あくまでピュアな二人の関係を楽しめました。特にラウールさんが素晴らしかった。海に出かける回で、別れ際帽子を目深にかぶって表情を見せずに屈折した思いを表現するシーンなど、グッときました。社会的な問題も考えさせられるけれど、理屈抜きに「この人すてきだな」と思わせる魅力がありました。『あんたが』の竹内涼真もそうでした。
田幸:木俣さんのおっしゃる通り、最近は社会派ドラマがすごくこなれてきた印象があります。かつては「骨太な社会派」と構えて作られていたテーマが、今はエンタメの中に当たり前のように溶け込んでいる。例えば『ぼくたちん家』(日本テレビ系)も、男性同士の恋愛を描いていますが、LGBTQ+を特別なテーマとして掲げるのではなく、社会に馴染めない人間たちがどう生きていくかという切実さを描いた結果、たまたま男性同士だったという自然さがある。韓国ドラマがベタな恋愛物でも必ず格差や家族の問題を描くように、日本のドラマも背景に社会が見える作り方がスタンダードになってきましたね。
『ESCAPE』にあった昔のテレビドラマが持っていた熱
ーー成馬さんは『ESCAPE それは誘拐のはずだった』(日本テレビ系)も非常に高く評価されていますよね。
成馬:『ESCAPE』大好きでした。今年のベスト1です。誘拐犯と人質の社長令嬢が共闘して逃げる話なのですが、最後がキスで終わるのが最高で。もう、すべての恋愛ドラマは最後にキスして、終わればいいんじゃねぇかと思いました(笑)。
木俣:私も『ESCAPE』は予想以上に良かったです。設定自体は「ストックホルム症候群」的な、ある意味で決まりきったパターンなんですが、それが「古臭い」ではなく「王道」として機能していました。何より、主演の佐野勇斗さんと桜田ひよりさんがとてもピュアで、一生懸命演じているからこその生々しいドキドキ感がありました。最近のドラマは小綺麗にまとまりがちですが、『ESCAPE』には昔のテレビドラマが持っていた熱がありました。これぞ恋愛ドラマの王道と思いましたよ。
成馬:作品の根底に義侠心があって、それが心地良いんですよね。佐野くんと桜田さんが逃亡中に見せる、しょうもない会話やくだらないやりとりの二人芝居がすごく良くて。結構アドリブが入っていたらしいんですが、そのライブ感がすごくよかった。極限状態の中で二人がどう関係を築いていくかという描写に、二人の身体性が乗っかっていて生々しい芝居になっていた。10月期のドラマでいうと、『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系/以下、『もしがく』)もありました。朝ドラヒロイン級や大河の主演クラスが集まったドラマでしたが、対して『ESCAPE』の二人には、脇役から着々とキャリアを積み上げてきた叩き上げならではの勢いがあって、それが二人が演じていたハチとリンダのキャラクターにもハマっていた。
田幸:『ESCAPE』は本当に面白かったんですが、今のSNSと連動したドラマ視聴の傾向として「語りやすさ」や「考察要素」が重視される中で、純粋なエンタメとしての面白さが批評の文脈に乗りづらかったのが惜しまれます。妊婦を助けるシーンや、お医者さんが犯人だと分かっていて見逃すシーンなど、往年のドラマあるあるもふんだんに盛り込まれていて、そこも楽しかったんですけどね。























