2025年の年間ベスト企画
田幸和歌子の「2025年 年間ベストドラマTOP10」 傷んだ社会で“個”はどう生き延びるか

リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2025年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、放送・配信で発表された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第9回の選者は、ライターの田幸和歌子。(編集部)
1. 『シナントロープ』(テレ東系)
2. 『東京サラダボウル』(NHK総合)
3. 『ばけばけ』(NHK総合)
4. 『ひらやすみ』(NHK総合)
5. 『ぼくたちん家』(日本テレビ系)
6. 『ホットスポット』(日本テレビ系)
7. 『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノでした』(フジテレビ系)
8. 『晩餐ブルース』(テレ東系)
9. 『いつか、無重力の宙で』(NHK総合)
10. 『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合)
戦後80年という節目の年である2025年は、戦争を真正面から扱うドラマが数多く作られた年でもあった。ヒロインが軍国主義の側――加害の一端を担う存在として描かれた朝ドラ『あんぱん』をはじめ、歴史の複雑さと倫理の揺らぎに正面から向き合う良作が並んだ。『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)が描いた戦前の穏やかな日常と不穏な時代の足音も印象的だった。
一方、2025年の現代劇は、意外なほど声高に社会を糾弾しなかった。多くの作品が選び取ったのは、うまく機能していない社会を前提に、そのなかで生きる「個」の日常や関係性を見つめることだった。今年のベスト10のうち、原作があるのは『東京サラダボウル』『ひらやすみ』『しあわせは食べて寝て待て』の3本。残る7本がオリジナル脚本という点も大きな特徴だ。
10位『しあわせは食べて寝て待て』は「ネガティブ・ケイパビリティ」――できない自分を認め、どうにもならない状況を持ちこたえる力――を軸に、生活と身体に寄り添う物語を紡いだ。9位『いつか、無重力の宙で』は、「大人になるにつれ、この世界の重力が少しずつ大きくなってく……気がする」という言葉が象徴する、30代の生きづらさと友情の物語だ。既婚・未婚、子あり・子なし、仕事の有無やキャリアの差――項目ごとに無数に分岐し、友と距離が生まれやすい30代だからこそ、凍結された時間が溶け出す再会が沁みる。
8位『晩餐ブルース』は食卓という限定的な場を通して男性同士のケアを静かに描いた。ホモソーシャルを解体するような作品を作りたいというプロデューサーの思いが結実した意欲作である。7位『日本一の最低男』は評価やラベルで人を切り分ける社会を問い直し、ケア労働の問題も丁寧に描いた。6位『ホットスポット』は宇宙人や超能力者を「ぬるっと」受け入れる多様性社会を軽やかに提示した。アラフォー・アラフィフの友情と人生のリスタートを見せてくれた佳作だ。
5位『ぼくたちん家』は、ゲイであること、女性であること、非正規であること――さまざまな理由で社会の「端っこ」に追いやられてきた人々が、「ここにいていい」と互いを認め合うなかで変わっていく姿を描いた。4位『ひらやすみ』は「何者でもない時間」の尊さを描き、働くこと、役に立つことが当然視される社会へのささやかな抵抗に感じられた。3位『ばけばけ』は明治の松江を舞台に、異なる文化·言語·価値観を持つ者同士が「わからなさ」を抱えながらも向き合う姿を描いた。光と闇の巧みな表現により、「異なるもの」への畏怖を忘れかけている私たちへの静かな警鐘にも感じられる。
2位『東京サラダボウル』は刑事と通訳人のバディが日本で暮らす外国人の葛藤や人生に向き合う姿を描き、排外主義が強まる現在だからこそ響く多文化共生の物語だった。
SFでありつつ社会の中で要らない·見えない存在とされた者達を描いた『ちょっとだけエスパー』、文化の継承と個人の「欲」の物語を描いた『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合)も見応えがあった。
ところで、今年は本来の締め切りを4日遅らせてもらった。トップ10入りが早くから決まっていたものの、第5話以降、回を重ねるごとに面白くなり続け、どこまで上り詰めるか見守っていた作品の最終回が12月22日だったからだ。その作品は『シナントロープ』。






















