Mrs. GREEN APPLEの“光と影”、10年の真実 大森元貴と恩人たちが語る『MGA』制作秘話

大森元貴と恩人たちが語る『MGA』制作秘話

奇跡の楽曲「Variety」制作の裏側

『MGA MAGICAL 10 YEARS DOCUMENTARY FILM ~THE ORIGIN~』©2025 MGA Film Partners

ーー『THE ORIGIN』の大きな肝は、ドキュメンタリーの核となり、10周年記念ライブ『FJORD』で披露する「Variety」の楽曲制作を映像に残すことでした。アーティストにとっては手品のタネを見せる行為であり、お腹の中を見せる行為でもあったと思います。

大森:最初に「楽曲を作っている様子を撮りたい」と豊島さんに言われたとき、僕とナベさんは反対だったんですよ。そんなのは見せるべきじゃないというか、見せたってしょうがない。曲を作っているときって、頭の中ではビッグバンが起きていたり、いろんなアイデアの欠片を集める作業だったりするけど、それを外から見ても地味な画にしかならない。「成立しないんじゃないか」って、ナベさんと最初に心配したよね?

渡辺:うん、そうだね。

大森:振り返ると、2024年は5カ月連続リリースをして、2025年は6カ月連続リリースをしましたが、曲ができることって決して当たり前ではないんですよね。曲が世に放たれることも、関わってくれるスタッフがいることも当たり前ではない。そんなことは我々、音楽業界にいる誰もが分かっていることなんだけど、一方でライトに映画を楽しまれる方たち、ライトにミセスを楽しんでくれてる方たちもいるわけで。今のミセスが置かれている環境や状況を考えると、あえて制作の裏側を見せるのは「必要かもしれないな」と逆算して考えました。

渡辺:冒頭で(大森が)「曲ができる前提なのがすごいよね」と言うシーンがあるんですけど、その言葉を聞いて僕も「あ、確かにそうだ」と思った。

大森:ハッとした大人の1人?

渡辺:そうそう(笑)。

大森:それは大人たちに肝を冷やしてほしいけどね、本当に(笑)。

大熊:でも、しょうがないんだよ。元貴と一緒にいると、その感覚がバグるのは分かる。冷静に考えれば、あんなにハイペースで曲を作れるミュージシャンって、本当に少ない。でも、元貴を見ていると「作れるだろう」と思っちゃうんだよね。

渡辺:いざ楽曲制作の様子を見せるにしても、パソコンと楽器をいじっているだけなので「あー!」とか「うわ!」と大きなアクションを起こすわけじゃないので「画的にどうだろう?」とは言っていたんですけど、結果的に貴重なシーンが撮れたし、インタールードのギターソロが最後の大団円に向かっていくのは、泣けるなと思って。素晴らしい山場を作ってくれたな、と思いましたね。

大熊:誤解を恐れずに言うと、あの短い時間で曲を作れるのって、非常に珍しいことなんです。アレは元貴だからこそ映せたシーンだと思うし、それを映像に残しただけでもこのドキュメンタリーの意味があった。やっぱり、曲を作れるのが前提だと思わせるぐらいのことを積み重ねてきてるのは、彼のすごさの1つだなと感じましたね。

大森元貴

大森:僕が当たり前に曲を作れることが前提にある、というのもおかしな話だけど、僕が伝えたことを若井と藤澤が「わかった!」と二つ返事をして、愚直に最適解を叩き出せるのも当たり前ではなくて。映画では綺麗に描かれているけど、そもそも「あの絶妙なパズルが1つの作品になっている」というのが僕としてはすごく恐ろしい。本当は「できない」「作れない」の方が作品の情緒として盛り上がるんだけど、それが全くないまま進んでいくわけです。そこに、ミセスが今持っている“ポテンシャルの恐ろしさ”を俯瞰して映画を観たときに感じました。

大熊:それこそ、僕は思い出深い昔の曲をライブで聴くと、ウルッときちゃうんです。そんな中、ライブ『FJORD』の全編通して「Variety」が一番よかったんです。「何でだろう?」と思いながら、ホテルに戻ってマネージャーに「3人とも本当に頑張ったね。素晴らしいステージを見せてもらった」と話したときに思ったんですよね。元貴は出会ったときから、人に見られることを意識してリハをしていた。それ以降の楽曲って、すべてお客さんに向けて作っていたけど、「Variety」に関してはお客さんに向けつつも、それ以上に初めて自分たちのことを歌った曲を書いたのかなって。だから、泣けたんですよね。『THE ORIGIN』とライブフィルム『FJORD』込みで、「すごい映画だな……」と思いました。

大森:きっと交わったんだろうね。「自分たちのための音楽」と「誰かに届ける音楽」というのが、理屈ではなく交わったポイントがたまたま10周年の『FJORD』だった。それを、たまたま映画にして届けることになり、「曲を書いてるところを撮りたい」と言われて……そういう全部が折り重なって、とんでもないミラクルが起きながらも、違和感なく「Variety」を書けたのが本当にすごい巡り合わせ。こうしてお話ししてみて、改めていい映画だと思います。

大熊:いろんな偶然が重なったよね。

大森:本当にね。

スポットライトの裏に伸びる“影”と10年で築いた財産

『MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE ~FJORD~』撮影:田中聖太郎

ーー改めてドキュメンタリー『THE ORIGIN』、そしてライブフィルム『FJORD』がどんなふうに観客に届いてほしいですか?

大森:「3人でいてくれてありがとう」という嬉しい言葉も届いてますし、「楽曲を作ること」「会社や組織を作ること」「人を動かすこと」「人の心を動かすこと」「大勢を相手にするのではなく、目の前のミクロな部分に気を遣う大切さ」など、いろんな側面が詰まっている映画だと思います。我々のわちゃわちゃしてる瞬間も見れますし、葛藤しながら目の前のことを一生懸命やっている姿も見られる。大前提として、僕らはスーパーマンでもなければ、超能力者でもないので、1つ1つのことを丁寧にやるしかない。すごいことをしているようで、大事にしてるのは至ってシンプルなんですよね。なので「今、話題のミセスが出てる映画か」と思ってる人にこそ、観てほしいと思います。

ーー確かにいろんな側面がある一方で、個人的には“スポットライト”を見てるような感覚になりました。ライブの規模が大きければ大きいほど、ステージに立つ人を照らすスポットライトの光量は強くなる。表面的には眩しいし神々しく見えるんだけど、同時にその人の後ろには長い影が伸びている。その影って、ステージに立つまでの葛藤や努力の表れだと思うんです。そんなミセスの光と影を、『THE ORIGIN』と『FJORD』を通して感じました。

大森:それ、最高ですね! もうキャッチですよ。それを一番の太字にしたい。

渡辺:本当に一番いい表現。

大森:やっぱりね、テレビに出られるようになったというか、そこを選んだのがここ最近の話で。活動休止が明けてから「ちゃんといろんなメディアに出ていこう」と舵を切ったので、お茶の間の人たちからしたら「ここ2、3年のバンド」と思われるかもしれないのだけどーーやっぱり我々にも歴史があって。もちろん挫折しかけたときも山ほどあるんです。僕としては、そういう道程を振り返れる2本の映画ですし、断片的に切り取って「今が眩しい」ではなく「さまざまなことが脈々と紡がれていったんだな」と思うんです。それが体現されてる映画ですよね。

大熊:昔のミセスを知っている自分が、あえて偉そうなこと言わせてもらうと「成長したな」って思いますね。それでいて先を感じさせてくれる映画だったな、って。

大森:僕らがライブハウスシーンにいたのは、バンドにとっての過渡期というか重要な時期で。多感な16、7歳でありながらデビューの話もちらついてるという、とても複雑な時期に大熊さんとナベさんは関わってくれているんだけど。あのときの感じって、時間が経っても薄れていかないじゃないですか?

大熊:鮮明に残ってるね。

大森:僕らにとっては青春期なんだけど、当時のライブ1本1本って本当に苦しかったし、「楽しかったか?」と聞かれたら全然楽しくなかったんですよ。我々の力不足でお客さんを集められないし、演奏中に手を上げさせるのも一苦労。チケットを手売りするにしても「自主企画があるので」が定型文になると、すごい情けない気持ちになっていた。で、CD1枚を作るにしても、レコーディング費用も人件費もかかるわけですよ。レコーディングができたこと、スタジオを押さえられたことも「どれもが当たり前じゃないよな」って、この規模になってみて改めて感じるんですよね。悶々としてる時期に、大熊さんとは一緒にいてさ。ドームの規模になっても「大熊さん、なんで今日来ないの?」と言って、当日に楽屋に呼んじゃうみたいな。そういう関係が続いてるのは、本当にありがたいことで。今バンドを始める子たちに言いたいのは、信頼できる、できないは置いといて、大人とコミュニケーションを取るのは大事だということですね。

大森元貴

渡辺:本当にそうだね。

大森:ミュージシャンって、人とのコミュニケーションがうまくできないからこそ、音楽に逃げて音楽でアイデンティティを築こうとする人種なんです。だからと言って、そこに甘んじるのではなくて、やっぱりメンバー以外とも関わりを持つべき。ナベさんや大熊さんと密に話をしたことが今日に続いているなって、この場を通して改めて思いました。音楽シーンは時代とともに変動するかもしれないけど、やっぱりこの感じって変わらないし、何物にも変えられない財産になっていて。『THE ORIGIN』と『FJORD』って、ミセスの規模感の派手さがフックになってる気がするけど、描かれてることはすごくミクロ。そこが重要だと思うんです。このミクロの大事な部分──我々が大切にしていることの一番最初の構築を、この人たちと一緒に作らせてもらった感覚が僕にはあるから、それが皆さんにも伝わるといいなって思います。

大熊:昔を振り返ると楽しかったもんね。

大森:楽しかったよ! でも、大熊さんは今楽しくないでしょ?

大熊:楽しくないねー!

大森・渡辺:ハハハハ!

大熊:これぐらい歯ごたえのあるアーティストって、なかなかいないからさ。

大森:「歯ごたえのあるアーティスト」なんて聞いたことないよ! めちゃめちゃ面白いね! いや、光栄ですわ。

大熊:「一緒に仕事してるな」と感じさせてくれる若い子って、本当に少ないから。特に、デビュー前の子たちはね。

大森:初めての自主企画で、大熊さんが若井に対して声を荒げてブチ切れたことがあったじゃん? 「こなしてやるんじゃねえ!」「ちゃんとコーラスしろ!」と博多弁で言って。

大熊:ハハハハ、そうね。

大森:若井が大人にちゃんと怒られたのは、後にも先にもないと思う。で、僕はそれがすっごく嬉しかったの。自分はバンド結成当初から「次はあの曲を練習するから、スタジオに入るまでに覚えてきて」とか、1から10まで言い過ぎるぐらい指示してきた。そんな中で、ちゃんと怒ってくれる大人が現れたのが感動的だったんです。

渡辺:それまでは1人だったもんね。

大森:うん。メンバーそれぞれに目を光らせて、たくさん厳しいことを言ったりして。それは大事な時間ではあったけど、やっぱり大人がトップダウンでしっかり言ってくれることって、今以上に当時の我々には必要で。それをやってくれたのが、大熊さんだったんです。まあ、今となっては若井になめられてるけど。

『MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE ~FJORD~』撮影:田中聖太郎

大熊:なめられてるねぇ。ひろぱのことは俺が一番かわいがってたと思うよ!

大森・渡辺:アハハハハ!

大熊:10代だった元貴とひろぱが俺の家に泊まりに来てさ。ひろぱがお風呂ではしゃぎ過ぎて、鼻血を出したんですから。

大森:LUSHの「みつばちマーチ」の固形石鹸が置いてあったね。

大熊:よう覚えとうね!

大森:我々の青春でしたもん。

ーー10年以上前の話が、昨日のことのようにバンバン出てくるのはすごいですね。

大森:全然出てきますよ。それだけ当時は本当に楽しかったですよね。

大熊:楽しかったねー!

大森:楽しかったからこそ、ライブへの悔しさとのコントラストも明確に生まれるわけです。「早く大きい場所でライブがしたい」という憧れを頭に思い描いて邁進していたけど、全然うまくいかなくてね。結局は目の前のことを着実にやるしかないんだな、とその時期に教えてもらいました。そこから時間が進み、タイアップをやらせてもらえるようになったタイミングで「青と夏」がミセスの代表曲になり、“爽やかな楽曲”をいろんなクライアントから求められるようになったときに、僕がナベさんに相談をしたりとか。

渡辺:そうね、そうそう。

大森:「気づいたらポップなバンドになっちゃったよ」と言って。

大熊:いいことなんだけどね。

大森:もちろんやりたくてそうしたし、とてもありがたい話なんだけど、やっぱりバンドとしてのセオリーとか良さにも憧れていて。そういうバンドのあり方について、当時からナベさんに相談する関係をちゃんと築けていた。覚えているのが『Atlantis』(『DOME LIVE 2023 “Atlantis”』)のときに、「見てよ、この衣装!」と言って。

渡辺:それを見て、僕が「すごく立派だよ」と言ったね。

大森:一番初期のライブハウス時代は、自分たちがあんな派手な衣装を着るなんて想像がつかなかった。ギターは歪んでなんぼだし、ドラムスティックは折ってなんぼ、フットモニターでなんぼだと思っていた時代があったんです。その頃は転換も全部自分たちでやってね。

大熊:そうそう!

大森:暗転中に楽器をセッティングして、終わったら1回ステージ袖にはけて、登場SEで再び出ていく。あの制度はめちゃくちゃだと思うんだけど、それを経験しているからドームでやれるようになった今は「オープニングは大事だよな」と思う。

渡辺:そこで学ぶよね。

大森:うん。今、僕らが大事にしていることには、すべて起源があるわけですよ。衣装しかり、演出しかり、いろんな話をしてきましたよね。この2人はそんな時代も全部見てきたミセスの生き証人なんです。

渡辺:ミセスはゼロからここまで登り詰めたのがすごくて。本当に叩き上げのバンドなんですよ。急に売れたわけじゃないんですよね。

大熊:本当にそう! 一足飛びで売れたバンドじゃないんですよ。

大森:今のは全カットになったインタビューでも、大熊さんはおしゃっていました(笑)。

大熊:ディレクターの村上葉子さんも同じことを言っていたけど、やっぱり1つずつのハードルを全部ちゃんと越えてきたバンドなんです。……って、僕も村上さんと同じくらい良いことを言ってたはずなんですけど、なぜかカットされるっていう(笑)。

大森・渡辺:ハハハハ。

大熊:いやぁ、今日で気持ちが晴れたよ。

大森:そうでしょ、未練なく成仏できるよね?

大熊:うん、これで周りの人にも信じてもらえるよ(笑)。

大森元貴

ーー大森さん、今日はどんな会になりましたか?

大森:当時から大事にしていたモノもそうですし、鬱憤とかモヤモヤとか、フラストレーションとかが、ちゃんと意味を持って自分の心の中にあることを確認できた機会になりました。「何くそ」みたいな気持ちでやっていたけど、全部が無駄じゃなかった。無駄じゃないように、ちゃんと心がけてきた結晶をデビュー10周年の節目に、2本の映画として届けられたのは、本当に良かったと改めて思いましたね。

■公開情報
『MGA MAGICAL 10 YEARS DOCUMENTARY FILM ~THE ORIGIN~』
全国公開中
出演:Mrs. GREEN APPLE(大森元貴、若井滉斗、藤澤涼架)
主題歌:「Variety」Mrs. GREEN APPLE(ユニバーサル ミュージック/EMI Records)
企画・製作総指揮:大森元貴
監督:豊島圭介
エグゼクティブプロデューサー:渡辺雅敏
プロデューサー:辻本珠子、江口規夫、近藤あゆみ
オリジナル・スコア::兼松衆
監督補:渡邊貴文
編集:村上雅樹
録音・整音:渡辺真司
撮影:石塚将巳
照明:阿部良平
音響効果:大塚智子
視覚効果:佐藤キィ
製作:MGA「THE ORIGIN」Film Partners
制作プロダクション:AOI Pro.
配給:TOHO NEXT
©2025 MGA Film Partners

『MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE ~FJORD~ ON SCREEN』
全国公開中
Mrs. GREEN APPLE(大森元貴、若井滉斗、藤澤涼架)
Planner and General Producer 大森元貴
Director 稲垣哲朗
General Creative Director 大田高彰
Production Company SHOW TIME
Distributed by TOHO NEXT
©2025 UNIVERSAL MUSIC LLC

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