『べらぼう』は蔦重が森下佳子に書かせた“令和の黄表紙” 次の100年後にも残る愛の最終回

『べらぼう』次の100年後にも残る愛の最終回

「後の世にどう語られたいか」で、言語化される今の生き様

 先が長くないと感じた蔦重は、抱えの絵師や戯作者たちを集めて、最後の望みとしてこう語った。「死んだ後、こう言われてえのでごぜぇます。“あいつは本を作り続けた。死の間際まで、書を持って世を耕し続けた”って」と。このシーンを見ながら、ドキッとしてしまった。自分が死んだ後も、この世界は続いていく。そうなんとなくはわかっていても、市井の人である自分を語ってくれる人を想像したこともなかったからだ。そして、その死後を想定したセルフブランディングは、そのまま自分の人生をどうまっとうするかに直結しているということも。

 この際、“本当に語られるかどうか”はどうでもいいのだ。語られたい、というあくまでも自分の望み。そこに自分の“性(さが)”と“欲”が見えてくることが大切なのだから。時折「自分が何のために生まれたのか」という問いを耳にすると、まだ何も成し遂げていない自分に足がすくみそうになる。だが、「最後まで◯◯をした人だった」と語られる場面を想像すると、自分の人生を客観視して、まあまあ頑張って生きてきたようにも感じられる。この◯◯には「大河ドラマが好きで熱心に観ていた」なんて言葉が入っても悪くない。そんなふうにしか生きられない自分を肯定できるような気すらする。これも『べらぼう』という物語を通して得られた、前向きに生きていくための一つの知恵といったところだろうか。

 『べらぼう』は、江戸中期という大きな戦のない時代を描いた大河ドラマとなった。しかも、主人公はどんな教科書にも大きく載っているような偉人ではなく、江戸のいち商売人という珍しさ。しかし、だからこそ、ひとり一人の死が身近な仲間の死のように余計に辛く悲しかった。切ない別れに、幸せになってほしいと願わずにはいられなかった。たわけ続ける蔦重にひやひやしたり、「べらぼうめ!」と叱りたくなる衝動に駆られたり。まるで蔦重に振り回される面々のひとりのような感覚で、『べらぼう』の世界で生きることができた。

 いつか私たちもその歴史の一部になっていく。蔦重と春町が考えた「100年後の髷」が「そんなんじゃないよ!」と笑ってしまったように、私たちが想定なんて飛び越えていくような未来が待っているはずだ。もし、その未来で私たちの生きるこの令和時代が大河ドラマとして描かれたとしたら……。できることなら、未来の視聴者から「2026年以降からいい風向きになっていったんだね」なんて言われる時代にしていきたいものだ。2026年、蔦重たちの知恵を得た私たちが、愛と笑いに溢れたべらぼうに明るく平和な年にしていこうではないか。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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