『べらぼう』を歴史に残る作品にした制作統括の信念 エンタメは「人を豊かにする力がある」

『べらぼう』最終回・制作統括インタビュー

 最終回を終えた横浜流星主演のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』。脚本家・森下佳子が描き出した、愛すべき“人間臭い”登場人物たちと、予測不能なエンターテインメントの裏側には、制作統括・藤並英樹の揺るぎない信念があった。戦国や幕末に比べ、大河ドラマとしては馴染みの薄い江戸中期にあえて挑んだ理由とは。そして、物語に込めたエンターテインメントの力への思いとは。制作の裏側と作品への手応えをじっくりと聞いた。

蔦屋重三郎を主人公に据えた意義

――江戸中期という時代、そして蔦屋重三郎(横浜流星)という人物をテーマにするのは非常にチャレンジングだったと思いますが、放送を振り返っていかがですか?

藤並英樹(以下、藤並):このテーマを選んで「間違いなかった」というよりも、素直に「やってよかった」と感じています。嬉しかったのは、ドラマをきっかけに全国の美術館や博物館で、江戸の戯作や浮世絵の展示が盛り上がったことですね。例えば、蔦重ゆかりの品がある愛知県西尾市の「岩瀬文庫」にお客さんが増えたり、東京国立博物館での特別展が盛況だったりと、ドラマ単体だけでなく、日本の文化やカルチャーそのものを皆さんが再発見し、面白がってくれた。そこに関われたことが何よりの喜びです。

――確かに、教科書で見た名前や絵が、ドラマを通して生き生きと動き出した感覚がありました。そして、田沼意次(渡辺謙)や松平定信(井上祐貴)のイメージも本作によって大きく変わった方が多いと思います。

藤並:田沼意次や松平定信といった人物も、これまでのイメージとは違う側面を知ってもらえたと思います。特に、意次の地元である静岡県牧野原市や、定信ゆかりの福島県白河市など、舞台となった地域の方々が熱く盛り上がってくださったのは、大河ドラマを作る醍醐味でした。

――本作では、主人公の蔦重を中心に、優れた才能が集結していく様が描かれました。蔦重の人物造形についてはどのようなプランがあったのでしょうか?

藤並:企画当初から、脚本の森下さんや演出陣と「蔦重は太陽みたいな人だよね」と話していました。彼自身が光を放つことで周りの人々を照らし、引きつけ、輝かせる。そんな求心力のある人物として描きたかったんです。また、今回は戦国武将のように「信長ならこう」といった確固たるイメージがない人物ばかりです。だからこそ、キャストの皆さんが自由に、演出と相談しながらオリジナルのキャラクターを作り上げてくれました。「蔦屋重三郎といえば横浜流星さんしかいない」と思わせる説得力は、皆さんの力によるものです。

――江戸で生きた人々の暮らしが感じられる映像面も素晴らしかったです。

藤並:手前味噌ですが、NHKの美術チームや技術チームのポテンシャルの高さを改めて感じました。今回は京都でも撮影を行いましたが、京都の職人が持つ美術の力やロケ地の空気感も素晴らしかった。戦国や幕末だとどうしても甲冑姿が中心になりますが、今回は「江戸の八百八町」が舞台です。町人たちが生きる活気ある空間を、スタッフも出演者も楽しみながら作り上げることができました。ただ、こうした時代劇の技術はやり続けないと廃れてしまう。新作の時代劇が減っている今だからこそ、我々が作り続ける意義があると感じています。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる