生田斗真の一人二役はなぜ生まれたのか 制作統括が明かす『べらぼう』最終回への思い

生田斗真の一人二役はなぜ生まれたのか

 NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第47回の放送を終え、遂に最終回まで残り1話となった。第46回放送の直後、制作統括を務める藤並英樹がインタビューに応じ、キャスティングの意図や主演・横浜流星の撮影裏話、そして物語のクライマックスに向けた見どころを語った。

生田斗真が演じた“二つの顔”

――美術史上の定説では「写楽=斎藤十郎兵衛」とされていましたが、本作では独自の解釈が展開されました。

藤並英樹(以下、藤並):脚本の森下佳子さんが常々おっしゃっていたのは、「写楽が誰か」ということよりも、「なぜ蔦重(横浜流星)が写楽を生み出したのか」という点に注目してほしいということです。第45回以降、SNSなどでは「あれ? 斎藤十郎兵衛じゃないの?」といった声も多く見かけましたが、森下さんは史実を非常に大切にされる方です。定説である「写楽=斎藤十郎兵衛」説を踏まえつつも、森下さんの解釈である複数人説で物語は進めて、この形となりました。

――驚きだったのは、生田斗真さんが一橋治済と斎藤十郎兵衛の一人二役を演じるという展開です。このアイデアはいつ頃からあったのでしょうか?

藤並:最初から決まっていたわけではなく、今年の春頃、脚本制作の途中で決まりました。 治済というキャラクターがドラマの中でどんどん魅力的かつ憎らしい存在になっていく中で、「彼に何らかの罰を与えたいよね」という話が森下さんとの間で出たんです。でも、史実では治済は長生きしてしまう。そこで、「歴史に名を残せなかった」という罰を与えるためのトリックとして、正体不明の斎藤十郎兵衛を使えないかと。生田さんにこのオファーをした時、「めっちゃ面白そうですね!」と快諾してくださいました。

――生田さんの演じ分けについてはどう感じられましたか?

藤並:治済も十郎兵衛も、それぞれ魅力的に演じてくださっています。歩き方、立ち方、喋り方が絶妙に違うんです。特に十郎兵衛は、能役者の脇役という家に生まれ、「主役になれない」という運命を背負った人物。治済とは真逆の、ある種けなげで哀れなキャラクターとして演じてほしいとお願いしました。それを生田さんが見事に体現してくれています。

横浜流星の役者としての進化

――クランクアップを迎えた際の横浜流星さんの様子はいかがでしたか?

藤並:1年半以上に及ぶ撮影を終え、最後のカットがかかった後は、すごく清々しい表情をされていましたね。大河ドラマの主演という重圧から解放され、ホッとしたような、明るい笑顔でスタッフと談笑されていたのが印象的でした。

――横浜さんの演技について、藤並さんはどのような変化を感じましたか?

藤並:撮影が進むにつれて、彼自身の自信と役への理解が深まっていくのを肌で感じました。特に物語の後半、実年齢を大きく超える40代の蔦重を演じるのは非常に難しいはずですが、声の出し方や立ち居振る舞いまで丁寧に作り込んでくれました。また、横浜さんといえば陰のある役柄のイメージが強いですが、今回は「太陽のような明るい役」も見事に演じきってくれた。彼の屈託のない笑顔は、蔦重というキャラクターの大きな魅力になったと思います。

“平和な時代”を描くことで見えてきた現代性

――江戸中期という、戦のない時代を大河ドラマで描いた意義についてあらためて教えてください。

藤並:最初は「物語にしづらい時代かな」とも思ったのですが、調べていくと現代との共通点が多いことに気づきました。戦はないけれど、飢饉や疫病があり、経済的な閉塞感や格差がある。SNSのように噂が飛び交い、メディアが世論を動かしていく。そういった現代的なテーマを、時代劇というフィクションを通して描けたことは良かったと思います。また、大きな事件が起きない分、登場人物一人ひとりの人生や感情を丁寧に描くことができ、視聴者の皆さんにキャラクターへの愛着を持っていただけたのではないかと感じています。

――いよいよ最終回ですが、蔦重の最期はどのように描かれるのでしょうか。

藤並:蔦重の死については、大田南畝(桐谷健太)や宿屋飯盛(又吉直樹)が残した詳細な記録があります。その記録を森下さんが独自の解釈で脚本に落とし込んでくれました。また、単に死を描くだけでなく、彼が晩年まで情熱を注いだ「書を持って世を耕す」という事業、そして彼を愛した人々との別れを丁寧に描きたいと思っています。ぜひ最後まで、蔦重の生き様を見届けてください。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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