『ばけばけ』は朝ドラの中でも特殊な構成? 言葉ではなく“ドラマ”で描く価値観の変化

『ばけばけ』は朝ドラの中でも特殊な構成?

 トキ(髙石あかり)が再び、八重垣神社へ赴いた。NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第9週「スキップ、ト、ウグイス。」では、県知事・江藤(佐野史郎)の娘・リヨ(北香那)がヘブン(トミー・バストウ)に夢中で、八重垣神社に恋占いをしに行く。トキは彼女に付き添うことになる。

 第8週から徐々にトキがヘブンに心を寄せていっているような雰囲気がうっすら漂っているようにも感じるが、あくまでそれはかすかな予兆に過ぎない。積極的にヘブンに好意を寄せるリヨの出現で、トキの気持ちが揺らぎはじめる。

 江藤は外国人との結婚は困難を伴うのでリヨの恋を邪魔しようと錦織(吉沢亮)に依頼し、トキは錦織に邪魔の手伝いをさせられる。その一方でリヨには恋を応援してほしいとせがまれ、トキはダブルバインドに苛まれる。

 神社の池に向かってブードゥー人形を握りしめ「沈んで沈まないで」とどっちつかずに祈るトキ。その揺れる心の元は恋心なのか、錦織とリヨの相反する命令に対する困惑なのか。グラグラ揺れるトキを髙石あかりがビビッドに演じている。

 さらにそこに、勘右衛門(小日向文世)の老いらくの恋も描かれる。武士の時代が終わって、西洋化していく一方の日本で、新たな価値観についていけなかった勘右衛門が、老人でも恋をするという価値観の変容を実体験する。それによって、恋以外の価値観の変化にも柔軟になれるかもしれない。このように、人間は絶対に無理と思っていたことにもやがて慣れていく。

 トキも異文化交流をおもしろく思い始める。言葉も生活様式も違う異国人ヘブンが、彼女が提供する生け花、茶の湯、三味線などに関心を示してくれることで、少しずつ距離が縮まっているように感じていた。だからこそ、もしもリヨとヘブンが結ばれたら、自分は必要なくなると思って心が揺れているのだろうか。そこには恋も何割か含まれているかもしれない。

 すべてはヘブンが日本に対して友好的だったから良かったわけで。西洋化する前の日本の文化や生活様式を気に入った彼自身が郷に入っては郷に従え的な考え方で日本の文化に慣れていこうとしている。だからこそトキの提示する日本文化がリスペクトされ、彼女の存在価値が生まれているように見える。西洋人が武力で異国・日本を無理やり制していくのではなく、日本文化を理解することからはじめている、平和的外交という印象だ。

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