朝ドラで前代未聞、“クイズ大会”は最初期から構想に 『ばけばけ』ふじきみつ彦脚本の真骨頂

髙石あかりがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が現在放送中。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。
第40話では、「ヘブン(トミー・バストウ)がアメリカ生まれではない」という新事実が判明したことをきっかけに、彼を知るためのクイズ大会が開かれた。

朝ドラとは思えない展開だが、これは脚本家・ふじきみつ彦がプロット段階から書き上げてきたもの。制作統括の橋爪國臣は「このあたりはふじきさんの最も得意とするところなので、『自由に書いてください』と。台本も早く上がってきましたし、読んだ瞬間に面白いと感じました」と明かす。
とはいえ、本作の舞台は明治時代。ここまで攻めた演出に踏み切った理由は、一体どこにあったのか。
「小泉八雲の歴史を知っている人なら“ヘブンさんはこんな人だろう”とわかりますが、ドラマだけを観ている人には“偏屈な外国人”にしか見えていないかもしれない。果たして愛せるキャラクターになっているのかと疑問に思ったときに、やはり彼のバックグラウンドをなんとかして見せる必要がある、という課題が浮かびました。その中で、ああいったクイズ大会であれば、わかりやすく、楽しく、説明的にならずに彼のバックグラウンドや人となりを見せることができる。面白おかしく、彼の魅力を伝えるアイデアのひとつだと思っています」

クイズを出す際には、効果音のように「ヘブン」と掛け声をかけるが、もちろんこれもふじきの発案。台本には「(ジャジャジャンで)ヘブン」と書かれており、橋爪は「『これは残す? 残さない?』とみんなで話し合いました。正直、考証の先生からは『そんなことはありえない』と言われ、英語指導の先生からも『外国人には絶対に伝わらない』と言われました(笑)。でも、『役者がしっかりとやれば面白いです。ちゃんと伝わります』と丁寧に説明して、先生たちにも納得してもらいました」と打ち明ける。
「史実でいえば、クイズのアタック音はきっと昭和の後期に入ってから始まった文化なので、(明治時代には)絶対にないと思います。でも、あのシーンが史実に基づいている必要があるかというと、そうではない気がしていて。史実に基づけなければいけないところもありますが、あの場面は楽しく見せられればそれでいい。実際にラフカディオ・ハーンは、祭りやジョーク、パーティーが大好きな人だったと伝わっているので、『こんなことをしてもいいのではないか』と話しながらやりました」
爆笑の連続となった同シーンだが、現場では「『本当に面白くなるんだろうか』とみんながドキドキしていたし、不安と期待があったと思います」とキャストの思いを代弁。「あのシーンはとても長いので、一日中、朝から晩までスタジオでクイズ大会をしていました。なので、“普段とは違う変な感じ”はすごくありましたね(笑)。ハンマーだったりいろいろなものが出てきて、『これは笑っていいのか、笑っちゃいけないのか』と、そんな雰囲気の中で撮影していました」と振り返る。
「映像として繋がってみなければわからないところもたくさんあって、『本当にこれでうまくいくのだろうか?』と一瞬思ったりもしました。撮影自体もすごく楽しかったんですが、現場はシュールな笑いの方が多かったです。編集したら結果として面白いシーンになりましたが、ふじきさんは事前にちゃんとこの流れを読めていたのでしょうか(笑)」

そんなふじきのセンスに唸る一方で、橋爪は「役者の力もすごく大きい」とも。「学生役の3人(錦織丈役の杉田雷麟、正木役の日高由起刀、小谷役の下川恭平)も、ただクイズをしているだけでなく、ト書きにない部分まで細かく芝居している。そういったことが積み重なって、面白いシーンになったのだと思っています」と熱を込めた。
史実に縛られず、『ばけばけ』らしさを追求した第8週。その大胆な挑戦は、多くの視聴者の心を掴んだはずだ。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK





















