応援上映はなぜここまで浸透した? 『アイドリッシュセブン 劇場総集編』を機に振り返る

原点にある『KING OF PRISM by PrettyRhythm』
応援上映の多様化の原点には、2016年公開の『KING OF PRISM by PrettyRhythm』の存在がある。観客が自然と参加したくなる仕掛けを随所に盛り込み、「10回観たくなる映画(※)」を目指した本作は、コスプレOK、セリフを字幕表示にしてアフレコのように唱えられるようにするなど、観客が自由に楽しめる工夫を凝らした。この『キンプリ』の存在によって、応援上映は観客の声援も作品の一部となる場へと進化していったと言っても過言ではないだろう。

その流れは他のアイドル作品にも広がっていく。『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』(2019年)は、シリーズ初の劇場版として全編をライブ形式で構成し、MCや圧倒的なステージ演出を盛り込んだ。応援上映に来た観客が声援を送ることができる本格的なライブ形式の手法は、最新作の『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ TABOO NIGHT XXXX』(2025年)まで、その後のシリーズ劇場版にも引き継がれていく。
さらに『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』(2023年)も同様のライブ形式の映像で、観客動員数175万人、興行収入30億円を突破。応援上映が経済的にも確固たる地位を築いたことを示した。

現在上映中の『アイドリッシュセブン First BEAT! 劇場総集編』(2025年)のような総集編形式では、過去の物語をダイジェストで振り返りながら、推しのステージをスクリーンで観る機会としてだけでなく、「まだ作品を知らない人に布教する」場としての役割も担っている。実際に前編では七瀬陸や四葉環がアイドルを目指す事情がかなりわかりやすくまとまっており、楽曲を知らない初見のファンでも問題なく楽しめる内容になっている。応援上映の在り方は今、作品の形式や観客の目的に応じて、多様に広がり続けているのだ。
応援上映の根底にある“観客参加文化”の系譜
応援上映がここまで広がった背景には、実は長い年月をかけて育まれてきた「観客参加型」の文化があるように思う。
たとえば江戸時代、歌舞伎の客席で見られた「大向こう」という文化。観客が芝居の最も盛り上がる場面で声をかけることで、舞台上の役者や場の空気全体を盛り上げる。観客自身が演出に加わるような在り方は、すでにその頃から存在していたとも言える。
そうした舞台に“参加する”感覚は、1970年代以降のアイドル文化にも受け継がれていく。ペンライトやコールなど、身体の動きを通じて応援を具現化するスタイルが定着し、ファンたちはコンサートという「場」に集うことで「自分もこの熱狂の一部だ」と実感する。そこには、同じ推しを持つ者同士の連帯感や、推しと同じ時間を共有することへの喜びがあるはずだ。
応援上映は、そうした系譜に連なりながらも、現代に合った新しいスタイルを提示している。従来の参加型文化との一番の違いは、「ひとりでも気軽に参加できる」点だろう。
大向うには技術が求められるし、リアルなライブには会場までの物理的な距離や、ひとりで足を運ぶことへの心理的ハードルがある。しかし応援上映なら、仕事帰りにふらりと映画館へ立ち寄り、声を出さずに過ごすことも可能だ。もちろん、声を出したければ出してもいいし、仲間と盛り上がったっていい。応援の仕方を自ら選び取れることこそが、現代の“推し文化”における応援上映の魅力だろう。
サブスクやSNSでのコンテンツ、さらには二次創作など、供給という意味では膨大な量のコンテンツに触れられる時代になった。だが、リアルな「場」に近い感覚で推しと向き合える機会は、意外と限られている。そんな中で、応援上映は推しと向き合う時間を自分に合った形で持てる、貴重な体験の場として機能しているのではないだろうか。
2025年秋、ロングヒット作から新作まで、実に多様なアイドル作品が劇場を彩っている。応援上映のスタイルやルールも作品ごとに異なり、推しへの応援の形も十人十色だ。スクリーンに映し出される推しに、観客がそれぞれどんな“応援”をしているのか。その多様性こそが、現代の推し文化の在り方を物語っていると言えるだろう。
参照
※ https://ascii.jp/elem/000/001/132/1132601/
■公開情報
『アイドリッシュセブン First BEAT! 劇場総集編 前編』
公開中
『アイドリッシュセブン First BEAT! 劇場総集編 後編』
12月5日(金)より公開
原作:バンダイナムコエンターテインメント、都志見文太
監督:別所誠人
シリーズ構成:関根アユミ
スーパーバイザー:あおきえい
キャラクター原案:種村有菜
アニメーションキャラクターデザイン:深川可純
総作画監督:猪股雅美、サトウミチオ
美術監督:高橋麻穂
色彩設計:篠原真理子
2D デザイン:高橋清太(FUETE)
撮影監督:津田涼介
CG ディレクター:ヨシダミキ
3D ワークス:井口光隆
編集:右山章太
音楽:加藤達也
音楽プロデュース:ランティス
音響監督:濱野高年
劇場総集編監修:別所誠人
劇場総集編構成:アイナナ製作委員会
劇場総集編オフライン編集:小西夏生(qooop)
アニメーション制作:TROYCA
製作:アイナナ製作委員会
配給:バンダイナムコフィルムワークス
メインキャスト:増田俊樹(和泉一織)、白井悠介(二階堂大和)、代永 翼(和泉三月)、KENN(四葉環)、阿部敦(逢坂壮五)、江口拓也(六弥ナギ)、小野賢章(七瀬陸)、羽多野渉(八乙女楽)、斉藤壮馬(九条天)、佐藤拓也(十龍之介)、千葉進歩(小鳥遊音晴)、興津和幸(大神万理)、佐藤聡美(小鳥遊紡)小西克幸(八乙女宗助)、川原慶久(姉鷺カオル)
©BNEI/アイナナ製作委員会
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