Elements Garden 菊田大介に聞く、『プリオケ』の独自性 “懐かしくも新しい”を生む仕掛け

音楽アニメが新たな盛り上がりを迎える中、ひときわ注目を集めているのが、2025年4月より放送中の『プリンセッション・オーケストラ』(以下、『プリオケ』)だ。“歌って戦う”というコンセプトで異彩を放つ本作のサウンド・プロデュースを手がけるのは、『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズなどでも知られるサウンド・チームElements Gardenに所属する作曲家・菊田大介。音楽とアニメーション、そしてタカラトミーによる玩具が連動する『プリオケ』は、まさに“音楽で世界を救う”新たなプリンセス像を描く意欲作だ。『プリオケ』の制作背景から、進化を続けるアニメ音楽の現在地、そしてその先に見据える未来まで、菊田に話を聞いた。
『戦姫絶唱シンフォギア』のDNAを受け継いだ“歌姫像”

ーーまず、『プリオケ』に参加することになった経緯を教えてください。
菊田大介(以下、菊田):企画のスタート段階では、実は僕はまだ関わっていなかったんです。企画自体は4~5年前くらいから存在していて、最初は種のような形でずっと温められていたと聞いています。僕が本格的に音楽プロデューサーとして関わり始めたのは2年前くらいですね。ある程度企画の骨格ができてからの参加でした。
ーー企画の立ち上げ段階でどのようなコンセプトが意識されていたのでしょうか。
菊田:コンセプトとしては、『戦姫絶唱シンフォギア』(以下、『シンフォギア』)のように“歌って戦う”という発想を原点にしていて、『シンフォギア』で一緒だった金子(彰史)さんが提唱しているテーマでもあります。その系譜を踏まえつつも、単なる継承ではなく、作品として新しい形に進化させようという意識でした。社内で企画が動いていることは知っていたので、「あ、そういう作品をやるんですね」という感覚で見ていたんですが、あるときに「音楽まわりを全般的に見てほしい」と声をかけられて。そこからは音楽プロデュース、クオリティコントロール、音響面など、いろいろな領域に関わる形で参加することになりました。

ーー『シンフォギア』の要素はどの程度取り入れましたか?
菊田:コンセプトというか、表現方法が共通していると思います。“歌って戦う”という軸は『シンフォギア』から続くスタイルなので。ただ、今回の『プリオケ』は少し特殊で、放送時間帯が日曜朝の放送枠だし、作品のトーンや構成も全然違う。そこは制作の考え方が自然と変わってきました。とはいえ、アクションに対してどう音楽を乗せていくか、その中でどんな歌を作るのかという方法論自体は大きく変わっていません。『シンフォギア』は感情の爆発やドラマ性を音で増幅させる方向でしたが、『プリオケ』はもう少し“軽やかさ”を大事にしています。戦闘の要素はあるけれど、朝の時間帯に流れる作品として、聴いた瞬間に前向きな気持ちになれるような明るさを目指しました。音の温度感は違えど、歌とアクションを一体化させるという意味では同じ挑戦です。
ーー子どもも大人も楽しめるように、ターゲットをあえて絞らないという点も意識されていたそうですね。
菊田:はい。最初の企画段階からずっと話していたことです。いわゆる“キダルト”という言葉もあるくらい、最近は大人が子どもの遊びを楽しむという流れがすっかり定着してきていますよね。子どもの頃に夢中になったグッズを大人になってもう一度集める人がいたり。
「“今はわからなくても、いつか思い出す曲”になってほしい」
ーー親世代にも刺さる仕掛けというお話がありましたが、それは音楽面でも?
菊田:そうですね。いまの親世代って、ちょうど僕らが10~12年前に作っていた音楽を聴いて育った世代なんです。だから当時の自分たちの作品が、ある意味“懐かしくも新しい”感覚で響く可能性がある。ちょっと照れくさいけど心に刺さるようなサウンドが、親世代にも響くんじゃないかと思っています。もちろん子どもに届くことを意識していますが、子どもって音楽体験がまだ少ない分、何が刺さるかはわからない。だからこそ、“子ども向けの音楽”を作ろうとしすぎないようにしています。反対に、大人たちにとっては、子どもの時には意味がわからなかった歌詞やサウンドの深みを、大人になって改めて感じることができる。僕自身もそういう経験があって、今聴き直すと「意外と大人っぽい曲だったな」と思う作品がたくさんあります。だから、『プリオケ』の音楽も“今はわからなくても、いつか思い出す曲”になってほしい。そういう二層構造で響く音楽を意識して作っています。
ーー登場キャラクターたちが戦いながら歌うという構成は、音楽的にも演出的にも非常に難しいと思います。その両立を実現するうえで意識された点はありますか?
菊田:やっぱり“アクションに対してどうやって歌うか”という部分ですね。これは『シンフォギア』のときからずっと意識してきたことでもあります。最終的にアフレコで実際に歌わなければいけないので、メロディーの作り方やブレスの位置、キー設定、テンポなど、細かい部分をすべて計算して構築していきます。現場で無理なく歌える、つまり“再現性”の高い楽曲にすることが大前提です。僕から他の作曲陣にも「これ、ちゃんとアフレコで歌える?」と常に確認を入れています。もちろん細かく録って編集で繋ぐこともできるけれど、できる限り一発で、絵を見ながら演技と同時に歌ってもらいたい。その方がライブ感が出るんですよね。どうしても後で繋げると、現場の熱量が失われてしまうので。今の技術なら何でもできる時代ですが、それでも「アフレコの現場で鳴る音楽」にこだわりたいんです。
新人声優たちの“今しか出せない声”が作品を生かす

ーー本編のアフレコにも立ち会われたそうですね。
菊田:キャストの多くが新人声優さんで、最初はやっぱり苦労していましたね。演技も歌もまだあら削りな部分がありましたが、それが逆に魅力でもあると思っていました。今その瞬間にしか出せない表現というか、過去にも未来にも戻れない“今”の声が収まっているんです。だから作品としても、そこがすごく生きているなと感じています。彼女たちは回を重ねるごとにぐんぐん成長しているし、作品のテーマも「成長」に近いと思うんです。だからこそ、新人声優をメインに起用したのは必然だったのかもしれません。ベテランの方が若い頃の自分を思い出して演じるというのも成立しますが、リアルタイムで成長していく姿にはやはり真実味が必要。スタッフも含めて、現場全体が“成長を追うプロジェクト”になっていると感じています。




















