『もののけ姫』4K版がもたらした“奥行き” ジブリはいまなお更新され続ける芸術に

今回の再上映は、単なる懐古的イベントではなく、アニメーションのアーカイブを未来に接続する実験といえる。オリジナル35mmネガを再スキャンして4Kリマスター化を実現し、手描きの線や背景に残された微細な表現を再構築。それは、その時代の息づかいを、4K映像によって現代に呼び戻す試みだ。

IMAXでの再公開という選択には、明確な意味がある。配信が主流となった現在でも、スタジオジブリの主要作品は日本国内の配信サービスでは基本的に解禁されていない。これは、スクリーンの前で光と音を全身で浴びるという「映画館で観る体験」を、スタジオとして重視してきた姿勢の表れだろう。
4K化は、巨大なスクリーンとサラウンド音響という環境そのものを更新し、映画館という“場”にもう一度呼び戻すための装置でもある。森の光や風、雨音がスクリーン越しに触覚として立ち上がるとき、観客は物語の内部にいるかのような没入を経験する。IMAXという圧倒的な映像空間は、アニメーションを「鑑賞するもの」から「体験するもの」へと変えていく。

そして『もののけ姫』の問いは、いまの時代にこそ鋭く突き刺さる。気候変動、森林破壊、資源開発。人間と自然の関係は1997年当時よりもはるかに切迫している。森の神々と人間の闘争は、もはや神話ではなく、現代社会の縮図のようだ。4Kの映像が再現するのは、人間が自然を搾取しながら、それでもともに生きようとする矛盾そのものだ。
いま、ジブリ作品は懐かしさではなく「現在進行形の文化」として再評価されつつある。4K/IMAX版『もののけ姫』は、1990年代の観客にとっては記憶の再体験であり、初めて映画館で観る若い世代にとっては発見の体験だ。映画館という身体的な記憶装置を通じて再び作品と出会うこと。そこに、ジブリが目指す「文化の継承」がある。それは同時に、日本のアニメーションをいかに保存し、どんなフォーマットで未来へ残すかという問いへの実践でもある。
古典ではなく、いまなお更新され続ける芸術として、ジブリ作品は再び動き出したのだ。
参照
※ https://www.toho.co.jp/movie/news/mononokehime4kremaster_20251020?utm_source=chatgpt.com
※ https://www.phileweb.com/interview/article/202510/22/1088.html?utm_source=chatgpt.com
※ https://gizmodo.com/princess-mononoke-4k-interview-atsushi-okui-2000579990?utm_source=chatgpt.com
■公開情報
『もののけ姫』
IMAXにて期間限定上映中
声の出演:松田洋治、石田ゆり子、田中裕子、小林薫、西村雅彦、上條恒彦、美輪明宏、森 光子、森繁久彌
原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
音楽:久石譲
主題歌:米良美一
制作:スタジオジブリ
配給:東宝
©1997 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, ND






















