『あんたが』『できても、できなくても』 秋ドラマが突きつける“昭和”からのアップデート

秋ドラマが突きつける“昭和”のアップデート

 いよいよ各局の秋ドラマが出揃った。殺人や不倫のドロドロ系も多いが、一方で社会的偏見やジェンダー観に踏み込んだ作品も目立つ。その代表が、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)と『できても、できなくても』(テレ東系)だ。タイトルからして挑発的だが、共通しているのは“昭和の価値観”に正面から斬り込んでいる点である。

価値観をアップデートしていく『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、勝男(竹内涼真)が鮎美(夏帆)に完璧なプロポーズをするもフラれるところからスタート。その原因は、勝男の口から次々と飛び出す「料理は女の仕事」「市販の出汁なんて手抜き」「なめこの味噌汁には絹ごし豆腐」「お昼のドーナツはありえない」「男が朝から料理するわけないだろ」「市販のルーで作ったカレーは料理じゃない」「サラダの取り分けは女子の仕事」「筑前煮を作れる子がタイプ」といった時代錯誤な感覚だった。昭和の家庭像をそのまま引きずるような勝男の発言は、今の視聴者にとっては“あるある”ではなく“カチン”という感情に繋がり、SNSでは放送直後から「こんな男、まだいるの?」「令和のホラー」といった反感が続出。視聴者が一斉に心の中でタイトルコールを叫んだに違いない。

 しかし、このドラマが単なるモラハラ男の断罪劇に終わらないのは、勝男を“成長する人間”として描いているからだ。鮎美に去られたあと、彼は自ら料理に挑戦し、失敗を重ねながら“家事の本質”を知っていく。出汁の買い忘れに気づき、寒空の下を走ってスーパーへ向かう姿には滑稽さと切実さがにじむ。そこには、「家事を担うのは女の役割」という刷り込みから抜け出せない大人のある種、“リハビリ”のような痛々しさがある。

 ひるがえって、鮎美のほうも“自分らしさ”より“良妻賢母イメージ”を大事にして男ウケを重視してきた背景があった。“もつ焼き”によって初めて自分軸によるキラキラした世界が見え、“幽閉”から解き放たれた彼女だが、勝男と一緒にどう価値観をアップデートしていくのか目が離せない。

“自分の価値”を取り戻していく『できても、できなくても』

 一方、『できても、できなくても』は、「不妊」をテーマにした社会派ドラマだ。宇垣美里演じる桃生翠は、ブライダルチェックで不妊を告げられ、婚約者に捨てられる。さらに会社でも「女失格」「子どもを産めない女」と陰口を叩かれ、職場を去ることに。ここで浮き彫りになるのは、今もなお社会に根強く残る“女性=母であるべき”という呪縛だ。

 「子どもを産めない=女としての欠陥」という偏見は、戦後の高度経済成長期に形成された“家族モデル”の残滓である。夫は外で働き、妻は家庭を守り、子を産み育てる。それが“理想の幸せ”とされてきた。だが令和の価値観では、結婚しない選択、子どもを持たない選択も、個人の自由であり尊重されるべき生き方だ。それでもなお、翠が妹や周囲に「不妊症」であることを言い出せない状況は、“昭和の亡霊”が今の社会の深層に潜んでいるように映る。

 翠がその偏見を真正面から否定するのではなく、街で出会った年下の青年・真央(山中柔太朗)との関係を通じて、痛みの中で少しずつ“自分の価値”を取り戻していく過程こそ、本作の見どころとなりそうだ。

 また、『フェイクマミー』(TBS系)第1話でも、波瑠演じる主人公・花村薫と母親のやりとりの中で、「あなたってずーっと優秀だったから、だから就職してそしたら結婚して仕事と子育てをあたりまえに両立していくんだろうな~って。だって、みんなができてることがあなたができないって何か不思議なのよ」「結婚して子育てをしていないから、私は優秀でも幸せでもないってこと? 私は常に自分にとってベストな選択をしてきただけ。それでも独身で子どもがいなかったら、それも全て意味がないってことなんでしょ?」というセリフがあったが、「私は私でいたい」という主人公の心情に共感した視聴者は多かったことだろう。

 昨今、『リコカツ』(TBS系)や『不適切にもほどがある!』(TBS系)など、“昭和的価値観”へのダメ出しドラマがヒットの新法則となりつつある。令和において「料理は女」「不妊は罪」などと言えば即座に“化石”扱いされるだろうが、それでもドラマがそれをあえてつきつけるからこそ、視聴者は共感し、クギ付けにさせられるのだろう。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の画像

火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

谷口菜津子による同名漫画を原作としたロマンスコメディ。「料理を作る」というきっかけを通じて、“当たり前”と思っていたものを見つめ直していく男女を描く。

■放送情報
火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:夏帆、竹内涼真、中条あやみ、青木柚、前原瑞樹、サーヤ(ラランド)、楽駆、杏花
原作:谷口菜津子『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(ぶんか社『comicタント』連載)
脚本:安藤奎
演出:伊東祥宏、福田亮介、尾本克宏
プロデューサー:杉田彩佳、丸山いづみ
編成:関川友理
音楽:金子隆博
主題歌:This is LAST「シェイプシフター」(SDR)
制作:TBSスパークル、TBS
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/antaga_tbs/
公式X(旧Twitter):@antaga_tbs
公式 Instagram:antaga_tbs
公式TikTok:@antaga_tbs

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