チョン・ヨビンはいま最もカッコいいヒロイン 『優しい女プ・セミ』など必見作4選

チョン・ヨビンの必見作4選

『私たちの映画』

韓国ドラマ『私たちの映画』|本予告

 俳優チョン・ヨビンの大きな特徴は、別のキャラクターを演じるたびに雰囲気が大きく変化することだが、近年ではディズニープラス『私たちの映画』で演じたキャラクターは最も分かりやすいかもしれない。巨匠と呼ばれた名映画監督を父に持つも、絶賛されたデビュー作の後は5年もスランプに陥り続けている映画監督ジェハ(ナムグン・ミン)は、父のヒット作『白い愛』のリメイクを手掛けることになり、死期が迫るヒロインの監修のため、知人の医師からある患者のダウム(チョン・ヨビン)を紹介される。ところがダウムは、アドバイザーではなく、自分自身が演じたいと申し出てきた。ダウムは役者志望だったが、難病のためこれまで一度も演技をすることが出来なかった。彼女は自身に残された時間で作品に関わりたいと強く望む。

 難病や余命わずかという展開やキャラクターは、韓国だと「신파」、つまり日本語の「新派」と同じ言葉だ。本作にもセリフで登場するが、特にいわゆるわざとらしい感情的な演技や演出による“御涙頂戴”のメロドラマだとして嫌われることが多い。また余命わずかの人間を病人役に起用するモラルの問題や、命を懸けて芸術を作り上げるという美談など、問題山積な現実の映画業界に引き合わせてしまうと大いに批判されるストーリーであるが、『私たちの映画』は、こうした危うさを上手く乗り切った。

 たとえば、主役オーディション会場を訪れたダウムが、余命宣告にもかかわらず来たことをジェハに批判されるシーンや、その後キャスティングが決まったことに対しダウムの父(クォン・ヘヒョ)が「映画なんて、命を懸けるようなことなのか」とジェハを詰めるシーンなど、劇中でしっかり問題として提示し、全12話のエピソードで慎重に進めつつ視聴者を納得させる試みがなされている。そして難病の主人公という、ともすればありきたりなのと同時に観るのが辛くなるヒロインをチョン・ヨビンが演じたことで、わざとらしさや痛々しさを超えて共感を呼ぶようなキャラクターに仕上がっていた。普段は声もか細く、化粧を施さないとならないほど青白く弱々しいダウムが、ジェハの「Ready,Action!」を聞くや否や、モニターに映る眼差しに演じ手としての気概が満ち満ちる。本作にある“役者が役者を演じる”メタ的ドラマでもあるが、チョン・ヨビン一本の作品の中でもムードを演じ分けて見せたのだ。

『グリッチ-青い閃光の記憶-』

『グリッチ -青い閃光の記憶-』Netflix配信中

 Netflixドラマ『グリッチ-青い閃光の記憶-』でチョン・ヨビンが演じたジヒョは、中学生の頃から宇宙に興味を持ちUFOの存在を信じていた。だが周囲の理解を得られず、変わり者扱いされるのが嫌でそれを押し隠そうとしていた。解散した野球チームの緑の帽子を被った宇宙人が見えるようになるのも幻覚だと思い込もうとした。ところが別れた彼氏シグク(イ・ドンフィ)が突然消えてしまう。失踪には宇宙人が絡んでいるのではと疑ったジヒョは、UFOマニアの集うオフ会に参加。そこで中学時代の友人だったボラ(ナナ)と再会する。

 消えた恋人探しからUFO、さらにカルト宗教の陰謀に発展する奇抜なストーリーだが、「人と人との関係は権威を与えてしまう“信仰”ではなく連帯を示す“信頼”によるもの」という堅実なテーマが根底にあり、ジヒョとボラのシスターフッドも胸を打つ見ごたえ十分な作品だ。何よりもジヒョという、結婚を拒否し、最終的に好きなことを貫いていこうとする、社会的には“不完全”と弾かれてしまいがちなヒロイン”に何よりも励まされた。『ヴィンチェンツォ』のチャヨンと全く違う、メガネにエナジードリンク、電子タバコが手放せないやさぐれたUFOオタクキャラを完全に血肉化したチョン・ヨビンは、その変貌ぶりで『ヴィンチェンツォ』のファンも驚かせた。

 『グリッチ-青い閃光の記憶-』のジヒョのように理想化されない女性像を見ると、良妻賢母、あるいはその逆で、魔の抜けた男性キャラを上手くリードする(手のひらで転がすとも言う)女性キャラといった典型は、今後あまり好まれなくなってくるように感じるし“不完全な私”のようなアンチ・ヒロインをカッコよく演じてくれる俳優の一人に、チョン・ヨビンがいてくれているのである。

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