チョン・ヨビンはいま最もカッコいいヒロイン 『優しい女プ・セミ』など必見作4選

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を輩出したケーブルテレビENAによる企画を、日本でもリメイクされた『誘拐の日』演出家パク・ユヨンが手がけたドラマ『優しい女プ・セミ』は、今秋最も異彩を放つシリーズとして推薦したい。財閥会長との契約結婚と復讐譚という韓国王道ドラマの系譜に連なりながら、シリアスとコメディを融合させつつ展開する野心作になる予感を思わせる。特に、主人公を演じるチョン・ヨビンの才気がほとばしっている。
『優しい女プ・セミ』
両親からの苛烈な暴力と支配の中で育ち、やむにやまれぬ窃盗で少年院に入れられたキム・ヨンラン(チョン・ヨビン)は、財閥会長ソンホ(ムン・ソングン)のボディーガードに採用される。その後ヨンランは会長から、自身の愛娘を殺した義理の長女ソンヨン(チャン・ユンジュ)らへの復讐計画を聞かされる。財産を守るため、会長の提案でヨンランは契約結婚をするが、その後会長が急死してしまい、ヨンランはソンヨンたちに命を狙われる。彼女は会長の腹心で弁護士ドン(ソ・ヒョヌ)の計らいで、田舎町ムチャンの幼稚園に“プ・セミ先生”として身を隠すことになる。
やかましくてクセの強いムチャンの住民たちのスラップスティックぶりは、序盤のシリアスなトーンから打って変わってしまい、戸惑う視聴者がいるのは十分理解できる。ただ、あまりに悲惨な幼少期を送り誰一人信用できなくなったヨンランが、人を疑うことを知らないドンミン(ジニョン)ら、これまで出会ったことのないタイプの面々とプ・セミとして向き合う毎日は実に人間臭く、彼女にとって新鮮なはずだ。そんな日々を経てもなお、冷酷に復讐が果たせるのかというのは、今後大いに気を引く展開ではないだろうか。
最初の授業で護身術を披露してしまうなど、子供の扱いに慣れない彼女が幼稚園の先生として身を隠さざるを得ないギャップも面白い。親の愛を受けていない彼女が、ドンミンの一人息子で同じく母のいないジュウォン(ヤン・ウヒョク)に暖かく接する姿も心に来るものがある。「自分なんてどうなってもよい」からと他人に命を投げ出すことを厭わない彼女が、自己認識と違い“優しい”と評されていく中でどう変化していくか、目が離せないドラマとなっていくのではないだろうか。これはひとえに、ヨンラン/プ・セミに扮したチョン・ヨビンが役を魅力的に作り上げたからだろう。
本作では、ボディガードの面接シーンが最も象徴的だった。明らかに整えられていない髪や皮剥けした唇は全く今どきの若者らしくなく(競争の激しい韓国での就職活動では、見栄えにもかなり費用と手間をかける)、挙動の不安定さはすぐに会長から彼女の持つ弱みを見抜かれていた。しかしいざ採用されたのち、会長の自宅にひそかに置かれた隠しカメラの場所を探り当てるシーンなど、眼差しや手つきに抜けのなさを感じさせる。
つまり、生い立ちや来し方は不遇でも、芯は折れない強かさがあるのがヨンラン/プ・セミだ。元々、何通りものイメージと雰囲気を表現できる俳優で、観客や視聴者に多様な姿を見せられることで評価されてきた彼女だが、今作での説得力のあるキャラクターでその評価をさらに確固たるものにした。
『ヴィンチェンツォ』

チョン・ヨビンがより大衆にて知名度を上げるきっかけとなった作品が、2021年のNetflixシリーズ『ヴィンチェンツォ』である。イタリアンマフィアの顧問弁護士として悪名を誇った韓国人弁護士ヴィンチェンツォ(ソン・ジュンギ)は、組織の裏切りに遭い急遽帰国。同時に、再開発に直面する雑居ビルに隠された金塊の回収を目論む。立ち退きを迫られていた住人たちを支える人権派弁護士ホン・ユチャン(ユ・ジェミョン)と対立するが、徐々に互いを理解し好タッグを組むが、悪徳企業バベルの妨害が襲う。
『ヴィンチェンツォ』は、復讐・財閥・家族・ラブロマンスと韓国ドラマで好まれるモチーフをオールインした作品で、それでも破綻なく最終話まで疾走しNetflixで長く視聴率ランキングにランクインした伝説的シリーズだ。チョン・ヨビンはユチャンの娘チャヨンを演じた。父と同じ弁護士であるものの、弱者の救済ばかりで家族を顧みなかった父への当てつけで権力者の弁護専門となり、何かとユチャンと対立していた。ところがバベルを相手取った訴訟を引き受けたユチャンは、何者かに殺されてしまう。チャヨンは父の復讐を果たそうと、ヴィンチェンツォと協力していく。
チャヨンは都会的な弁護士という役のため、端正なルックスと弁の立つ台詞回しで隙のなさそうなキャラクターだった。その一方で、ヴィンチェンツォと恋仲にはなるものの、互いに離れて暮らす結末などから見ても、主人公の相手役としては既成のキャラ造形から上手く外れていたのが印象深い。初登場シーンで証人を金で叩き不当な判決をもぎ取る図太さや、冷静沈着なヴィンチェンツォのそばで時折見せるエキセントリックさは、父の非業の死を目の当たりにして完全に変わるかと思われた。だが彼女は、遺影を前に焼酎を飲みつつ「父さんのような立派な弁護士にはなれないけれど、しぶとい弁護士になってやる」と言い放つ。そもそもヴィンチェンツォ自体、母が冤罪で逮捕されイタリア人家族へ養子に出された不遇ゆえに、誠実に生きることは何の意味もないと思い込んだ虚無的人間だ。敵の始末の仕方も残忍な反英雄、つまりピカレスクロマン的主人公だ。その共闘相手として、チャヨンのようなパワフルな女性は完璧なパートナーだった。





















